22:6/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:52:00.49 ID:ldlfMP+C0
「封筒? 何ですかこれ」
「女子寮の方に届けなきゃいけない書類が入ってます。今日中に、とのことなので、どうぞよろしくお願いします♪」
「えっ、そんな、ええっ!?」
確かに強引だ。ちひろがこんな手段を取るとは思いもよらず、突き返そうにも受け取ってくれそうにない。
「みんな、といっても今日のところは女子寮にいて時間帯の合う子たちだけですが、会って話したがってるんですから。今日ぐらいは叶えてあげください。いいですね?」
「うう……」
プロデューサーの私情に振り回されているちひろを思えば、これでも優しい方だ。ここで筋違いにも拒否することはあってはならない、考えなくてもわかっている。
懐から動かない懐中時計を取り出し、思い出を反芻する。積み重ねたもの、消え去ったもの。覚えている全ての中から呼び起こされるのは、逃げ出した自分を責めもせずに心配してくれた数々の声だった。
「わかり……ました。打ち合わせが終わり次第、行ってきます」
「では手早く終わらせないと、私がみんなに怒られちゃいますね」
「……ありがとうございます。ちひろさん」
「いえいえ、背中を押すのも私の仕事の内ですから♪」
ちひろのおかげでいつもより早帰りとなり、帰り支度をしているとレッスンの終わったちとせと千夜が部屋へ戻ってきた。
「あれ、今日は早いんだ。へぇ……もしかして、デート?」
「届け物だよ。女子寮にちょっとな、ちひろさんに任されたんだ」
「女子寮に、お前が? 良からぬことでも企んでいるんですか」
千夜にとって自分とはどういう存在なのだろう。気になったプロデューサーだが、話を脱線させている暇はない。
「ほら、ここ締めるから用が無いなら悪いんだけど」
「魔法使いさん、その女子寮ってここから近い?」
新しいおもちゃでも見つけたかのように、ちとせは目を輝かせている。
「そりゃ、近い方が便利だろうな。ここから歩いていけるよ」
「ふぅん、そっかそっか。……それじゃあまたね♪ 行こっ、千夜ちゃん」
「あ、はいお嬢さま。ではこれで」
何か考え事をしていた千夜の手を引いて、ちとせはやけにあっさりと去っていった。
楽しそうなこと大歓迎、といったスタンスのちとせも寮には用が無いはずだし、一体何を閃いたのやら。
「…………俺も行くか」
ためらいはある。だが会いたいくないと言えば嘘になる。ちひろの言う通り、こんな自分を温かく迎えてくれるだろうことは想像に難くない。
受け持った全員に良い夢を見せ続けてやれなければ、魔法使いなどと呼ばれる資格は無い。そんな夢のような話を実現出来てこその魔法使いではないのか。
逃げ出した自分を責めるようになってからというもの、延々と繰り返される自責の念にに一つの区切りをつけるべく、ちひろなりの思いやりをしっかりと掴んで部屋を後にする。
そうして事務所の敷地を出るやいなや、見知った2人組の、主に1人の談笑する声がした。
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