白雪千夜「私の魔法使い」
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23:6/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:53:50.38 ID:ldlfMP+C0
「まだ帰ってなかったのか」

 どことなく渋い顔をしている千夜を隠すように、こちらに気付いたちとせが一歩前へ出る。

「せっかくだから途中まで一緒に歩こうと思って。たまにはどう?」

「誘いは嬉しいけど、アイドルなんだからそういうことは相手がどうであれ控えてもらわないと」

「ちひろさんの言ってた通り、ガードは完璧ってこと? なーんだ、つまらないなぁ」

「……世間に全く認知されていないアイドルを、何から守るつもりなんですか」

 ふぅ、と息を吐いてから千夜もちとせを援護する構えに入った。
 もし2人が脚光を浴びていくことになれば、プライベートな時間に異性である自分が並んで歩くことはかなりのリスクになるだろう。スキャンダルで失脚などもってのほかだ。

 ただ、千夜の言い分もごもっともである。これからデビューしようという段階の名も無きアイドルへ、その手の人間が目を光らせている理由もない。

「……わかったよ。でも歩くったって本当にそこまでだぞ?」

「いいのいいの、ほら腕貸して」

 そう言うと、ちとせはプロデューサーの右腕を掴むように、あるいは捕まえるように両腕を回した。
 微かな薔薇の香りと、突然の柔らかな感触に襲われ、一瞬にして踏み出そうとした足が硬直し動かなくなる。

「お、お嬢さま!? お前ぇぇえええ!! お嬢さまから離れなさい!」

 千夜もちとせの振る舞いに驚いている。自分よりも冷静さを失った人がいると、たちまち脳が落ち着きを取り戻すのは何故だろうか。

「俺悪くないよね? ほらちとせ、早く離れてくれないか」

「へぇ。私に腕を取られて堕ちずに強がり言える人、初めてかも♪」

 追撃とばかりに両腕へ力を込めるちとせ。更なる密着に頭が溶けそうになるが、かろうじて正気を保たせてくれる黒いオーラが辺りを吹きすさんでいる。

「千夜から凄まじい殺気が……! やめ、堕ちる前に落とすから、命を!」

「かくなる上は――お嬢さま、しゃがんでください!」

 何かを手にした千夜の請願に応えるが早く、ちとせはひざを折り頭の位置が下がった。そこへ自由になったと油断したプロデューサーの顔面に何かが噴き付けられる。



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