白雪千夜「私の魔法使い」
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24:6/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:54:45.87 ID:ldlfMP+C0
「ぎゃああああああ!? なん、目が、目がああああああああ!!」

 おそらく催涙スプレーの類を食らわされたようだ。防犯グッズの定番の餌食によもや自分がなろうとは。

 あまり長く使われなかったのが幸いしたか、そこまで苦しみを味わうことにはならなかった。加減されてこれならいざという時頼りになるだろう。問題は今がいざという時だったのかどうかである。

「お嬢さま、あまりお戯れが過ぎますと痛い目を見ますよ。……こいつが」

「酷い……何もしてないのに……」

「あー、ごめんね? 千夜ちゃんがそこまで全力で守ってくれるとは思わなかったから」

「……それの試運転がしたくて俺を待ってたとかじゃないの?」

 それこそ気が早い――とはならず、ただでさえ人目を引きやすく身体も弱いちとせには常に持っていてほしい一品だ、とその身に染み渡るプロデューサーだった。
 それよりも、今回の待ち伏せの狙いは他にあるということか。とんだとばっちりである。

「ううん、これはずっと前から千夜ちゃんに持たせてたものだよ。こういうのって可愛い子にはみんな持たせてるんでしょう?」

「私にはお嬢さまにこそ常備していただきたい代物だと思うのですが……」

「私は大丈夫だもん、何かされそうになる前に虜にしちゃうし。仮に危なくなったとしても千夜ちゃんが守ってくれるしね♪」

「買い被り過ぎです。お嬢さまならともかく私にはこんな物、いや……初めて役に立ったか」

 しげしげとスプレー缶を見つめる千夜。物騒なので早くしまってほしい。

「……。ところでどこに持ってたんだ? 他にも何か隠してないだろうな?」

「みすみすお前に手の内を明かすとでも?」

「俺は不審者と同レベルの存在なのか……」

「お嬢さまに手を出す者が不逞の輩でなく何だと言えるのですか」

「出してないっての! ああもう、俺は行くからな! 2人も遅くなる前に帰るんだぞ」

 埒が明かなくなるとみて、自分にはまだ大事な用件が残っていることを思い出し、ちとせの一緒に歩こうという申し出を断り女子寮へ向かうことに決める。
 ちとせの目的は別なところにあったのだろうが、ひとまずは身が持たないのでそれは別な機会に伺ってみるとしよう。

 目に後遺症が残るようなら良い医者を紹介する、と履行されずに越したことのない約束を交わし、1人女子寮へと歩き出した。
 女子寮へは歩きよりも車での送り迎えで訪れるのが主な来訪要因だったため、徒歩で来てみると予想よりもあっという間に着いてしまった。

 足繁く通い詰めたといったほどでもないが見慣れた建物を前に、不思議と心は平穏だ。
 先ほどあった一件、まだ残留している目の痛み等が、余計なことを思い巡らす余裕を持たせてくれなかったおかげだろうか。

 辿り着いたからにはやるべき事は済まさねばならない。動かない懐中時計をしまってある胸の辺りに手を置き、一度だけ深い呼吸をして。
 置き去りにした過去と向き合うべく、プロデューサーは玄関のチャイムを鳴らした。






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