白雪千夜「私の魔法使い」
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15: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:43:22.20 ID:ldlfMP+C0
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 窓を開けると薄桃色を忘れ去った暖かな緑色の風が流れ込んだ。過ごしやすい時期になり、何かをスタートさせるにはうってつけの気候である。

 風にたなびくちとせの長く綺麗なブロンドが落ち着くまで待ってから、赤に侵食されつつある自分の城でプロデューサーは2人の少女に宣告する。

「ユニットを組みます」

「ユニット? 組む?」

 ピンときていないちとせの傍らに控えた千夜が、先を促すよう目で訴えてくる。

「えっと、2人のユニットだよ。アイドルユニットを組んでデビューさせます」

「私と、千夜ちゃんで?」

「うん。方向性も見えてきたし、そろそろ目標がないとやりがいもないだろうから」

「……お前の一存でそこまで決まるものなのですか?」

「企画書は上に通してあるし、曲も衣装も鋭意製作中ってとこだな。2人のためにいろんな人が動き出してる。そのつもりで2人にも動いてもらいたいんだ」

「あは。ちゃんと仕事してくれてるんだね、偉い偉い♪」

 先日、千夜に内緒で行われた会談の結果だということはちとせも察しているだろう。そんなことはおくびにも出さず、ちとせは無邪気に喜んでいる。
 対して千夜は、困惑といった様子か。表情が曇りだす。

「お嬢さま……よろしいのでしょうか? 私が、お嬢さまの組む相手だなんて……」

「2人で舞台に立てるんだよ? 私は久し振りにわくわくしてきちゃったけどなぁ」

「不満でもあるのか、千夜?」

「お嬢さまの組むに相応しい相手が、私であるわけが……」

「まさか、私のこと嫌いになっちゃったの? うぅ、寂しいよー、千夜ちゃーん」

「そういう言い方は、その……そんなわけ無いじゃないですか」

 どうやら主人の晴れの舞台に自分が上がってよいはずがない、と千夜は考えているらしい。それをわかっていながらちとせは千夜に振り向いてもらおうとしている。戯れているだけかもしれないが。

 千夜の反応はまだ想定通りだった。だからこそ答えは用意してある。

「千夜、このユニットデビューはちとせのためだけじゃないんだ。ちとせにとっても、千夜にとっても、アイドルとして最高の一歩を踏み出すために必要だと思ったから。2人じゃなきゃ駄目なんだ」

「……。聞かせなさい、お前の企んでいることを」

 ちとせのためと付け加えれば、千夜は無碍にはしない。もちろん嘘はついていないが、敢えて言葉にすることで千夜の気を引けるようにしなければ。

「第一に、2人はもう長い付き合いだろう? 色というか、空気というか、2人ならではの関係がある。主従関係もそうだけど、それだけじゃない。それはそのまま2人を表す個性にも繋がってる。ファンにアピールできる強力な武器だ」

 兄弟姉妹の繋がりでもなければ、アイドル同士がユニット独自の呼吸を生み出すためには相応の時間が掛かる。相性だって組んでみなければ見えてこないものもある。
 ユニットとしての課題を一足飛びにこなせるのは強みといっていいだろう。

「お嬢さまと、仕える僕(しもべ)……いや、世間的に僕って言い方はまずいか? そこは追々詰めるとしてだ」

 ちとせがいなければ千夜は自身に価値はないという。
 それなら、千夜の価値を自他共に認めさせてやれる存在はちとせ以外に誰がいよう。



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