白雪千夜「私の魔法使い」
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12:3/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:39:35.08 ID:ldlfMP+C0


 しばらくレッスンを見学し、ちとせに何と報告したものか悩みながら、彩りが変わりつつある己の城へ一旦戻ることにすると、中からちとせとちひろの談笑する声が響いていた。
 今日は来ないものと考えていた分、面食らいながら入室する。

「ちとせ? ちひろさんも……来てたのか」

「お邪魔してるよ。今日はもともとこうするつもりだったの。千夜ちゃんはどうだった?」

 レッスンより優先したい何かがあってのことだろう、ちとせには体調のこともある。そう思いつつプロデューサーはこれからまとめるつもりだった返答を用意しているはずもなく、言葉に詰まってしまった。

「えっと、後で追って連絡するよ。この前渡したやつ、あるだろう?」

 アイドル活動の際はこちらを使用するようにと、2人分の携帯電話を預けてある。

 型は古く、いわゆるガラケーだ。連絡を取り合う以外の機能をほとんど制限されてはいるが、仕事に使うものだからと納得はしてもらっている。
 プライベートの要件は自前のものを使えばいいだけだ。

「これでしょう? 千夜ちゃんとお揃いのこれ、ふふっ♪ ありがとね」

「そんなに喜んで貰えるようなものじゃないから恐縮だけど、それで? 今日はちひろさんに用が?」

「プロデューサーさんにもお話があるそうですよ。では、私はこれで」

 何の話をしていたのか特に触れることなく、ちとせが座っている赤を基調とした色合いに染められたソファの向かいにある、いつものソファからちひろは腰を上げた。

「ちひろさんも、今日はありがとう。いいお話をたくさん聞かせてもらっちゃった」

「これぐらいなら、また時間の合う時にでも。失礼しますねプロデューサーさん、ちとせちゃん」

 「え、ああ…………あの、ちとせ? 何の話をしてたんだ?」

 ちひろが出ていくのを見送り、代わりとばかりにソファへ腰を下ろしちとせと目線を合わせたプロデューサーは、嫌な予感で胸がざわつき出すのを抑えられなかった。

 自分よりも上手な少女に弱みでも握られたらどうなるか。どうせろくな目に合わないことは経験則で知っていた。

「別に取って食べようなんて思ってないから身構えないでよ。……美味しそうだったら、少し味見しちゃうかもだけど」

 舌を口端にペロッと出す仕草が妙に様になりすぎていて、美人は映えるな、などと危うくペースまで握られかけた自己を反省するように、一つだけ大きく咳をする。

「ごほん、っと。改めて、話って何? 千夜の前では出来ない話か?」

「そうだね――先にそっちの話をしよっか」

 どれほど話が積もるのか想像もつかないが、それでも察するに余りあるちとせの雰囲気の変化にプロデューサーも居住まいを正す。

 千夜がちとせのために働くように、ちとせもまた千夜のことを気に掛けているのは短い付き合いの中からも十分に感じ取れていた。

「千夜ちゃんのこと、どう思う?」

「どう思う、と言われても。アイドルとしてみた場合? それとも俺個人の感想?」

「どっちも、って言いたいけど、千夜ちゃんがここに戻ってくる前に、あなた個人の感想を聞かせて。嘘ついても見抜いちゃうから」

「重々承知しておりますとも。じゃなくて、そうだな」

 千夜の仕える者としての生き方。まだ高校生で、2歳上のちとせのためだけに自分の人生があるという。世にいる数多の女子高生の中で、千夜と同じ生き方をしている子がそうそういるとは思えない。

 なぜそうなったのか、あるいはそうせざるを得なかったのか。先日倒れたちとせを思い遣る千夜の姿から、自ら進んでちとせの側にいるようには見えた。

 それでも、自分の人生を捧げるまでにちとせの存在が絶対的なのは、何かがあったとしか思えない。そしてそこに他人である自分が踏み込むことは許されるのか。

 彼女を、彼女たちを上手くプロデュースするならば、理解していなければいけない。それだけは確かだと感じられる。



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