13:3/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:41:18.79 ID:ldlfMP+C0
「……」
「優しいね、魔法使いさんは。ちひろさんの言ってた通り」
「ん? って、やっぱり俺のことちひろさんから聞いてたのか!?」
彼女たちのことを理解したいのと同様に、彼女らもまたその身を預けた相手がどんな人物か知りたがる。
当たり前のことではあるが、信頼するちひろからといえども何を吹き込まれているのか分からない状態はどうにも歯がゆい。使いようでは強力かもしれないカードを相手にだけ何枚も配られてしまったようなものだ。
「安心して、駆け引きしたいんじゃないの。そんなに眉間にしわ寄せてるとまた老けちゃうよ?」
「……俺はいくら老けたっていいんだよ、アイドルじゃないんだから」
この部屋が多くのアイドルで賑わっている頃、新しくスカウトしてくる度に顔が老けただの疲れすぎだのアイドルたちに指摘されたものだ。その頃のことをちとせに教えられるのは、ちひろの他に今はいない。
「出会ったばかりの私たちのこと、考えてくれてるんだよね」
「預かる者としての責任だよ。預かるからには、輝かせたいから」
「なら、ためらわないで。私たちのこと、知りたいでしょう?」
「……。君たちは、どうして2人で生活してるんだ?」
海外の親元を離れ、生活を共にする。血縁関係でもない2人の間に結ばれた主従関係の日常は、物語の中にだけ存在するような特異なものだ。そして千夜は、これをよしとしている。
「そうしないと、あの子が……闇に沈んでいっていっちゃいそうだったから。だからわたしのものにしたの」
過去を懐かしんでいるのか、紅い瞳は何もない虚空を捉えていた。
「昔はね、天使みたいに笑ってくれる子だったんだよ。とっても賢くて、可愛くて。私が夜にしか輝けない月なら、あの子は太陽だった」
「千夜が……」
「うん。想像できないでしょう? 独りになってしまったあの子は、それまでの輝いていた世界から突き放されて、たった一人で暗闇の中に取り残された」
天涯孤独の身となった千夜を――大切なものを、その暗闇から救い上げるためにちとせは千夜を自分のものにした。これ以上、千夜から何も奪わせないために。側に置くことでそれは果たされてきたのだろう。
「でも私は、あの子が本来持っていたはずの光を覚えてる。月に照らされてるだけじゃ勿体ないほどの眩しさを。あの子自身が闇を照らして、たとえまた独りになっても歩いていけるように、してあげたい」
「……千夜のために、アイドルを?」
「ううん、それだけじゃないよ。あなたみたいな人に出会えることは、小さい頃に魔女さんの占いで聞いてたからさ。たまたまあなたが魔法使いさんだった、ってだけ」
前にも口にしていたが、魔女とは同業者のことだろうか。気にはなるもプロデューサーは黙ってちとせの言葉を待つ。
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