1:名無しNIPPER
2017/08/17(木) 19:08:25.21 ID:pXJ6Ifkk0
「植木鉢、ですか」
「いつ捨てようかなって、ずーっと思ってはいるんだけどね」
夕美さんは、そう言って苦笑してみせます。
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2:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:10:27.82 ID:pXJ6Ifkk0
***
――何よりも大事なのは見極めだ。
その人にのみおさまる器の形を、よく考えなさい。
3:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:13:23.74 ID:pXJ6Ifkk0
***
小さい頃は、工房があまり好きではありませんでした。
おじいちゃんが、気に入らない自分の作品を次々に割ってしまうのです。
4:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:16:01.49 ID:pXJ6Ifkk0
「あ、あのっ!」
「?」
「ひょっとして……び、備前焼、だったりしますか?」
5:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:18:30.39 ID:pXJ6Ifkk0
体験教室は、時間の都合もあり、ご希望ではなかったようです。
曰く、高校の卒業旅行で来たものの、友達とはぐれてしまい、携帯の電池も切れてしまったとのこと。
ただ、嬉しいことに、備前焼は旅の目的の一つだったそうで、私との偶然の出会いをその人は喜んでくれました。
6:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:20:41.42 ID:pXJ6Ifkk0
お会計を済ませ、湯呑みを渡したところで、充電していた彼女の携帯が鳴りました。
はぐれた友人の方は、近くの広場にいるそうです。
7:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:22:30.87 ID:pXJ6Ifkk0
「肇ちゃん……何だか、カッコいいね!」
夕美さんは、私の名前を褒めてくれました。
男っぽいかも知れないけれど、おじいちゃんが付けてくれた自分の名前が、私は好きです。
8:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:24:26.33 ID:pXJ6Ifkk0
再会の日は、それから一ヶ月も経たないうちに訪れました。
それも、岡山ではなく、東京で、です。
9:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:25:45.54 ID:pXJ6Ifkk0
夕美さんがスカウトされた理由は、分かります。
とても綺麗で可愛らしく、笑顔が眩しい人なので、アイドルにはピッタリだと思います。
一方、私は岡山の山奥で、土を練ってきたに過ぎません。
10:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:27:53.26 ID:pXJ6Ifkk0
同期生ということもあり、一緒になれる機会も多かった私達は、再会してすぐに打ち解けました。
夕美さんは、慣れない東京での私の暮らしを助けてくれます。
11:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:30:37.27 ID:pXJ6Ifkk0
レッスンも、夕美さんと一緒でした。
先生のご指導は、時に厳しくもありましたが、夕美さんはいつも私を褒めてくれます。
「肇ちゃんってさ、何だかすごく要領が良いよね」
12:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:33:58.11 ID:pXJ6Ifkk0
初めて人前に出たお仕事は、先輩の方々のバックダンサーでした。
『レイジー・レイジー』という、一ノ瀬志希さん、宮本フレデリカさんのお二人による、地方営業のお手伝いです。
お二方は、お仕事中だけでなく、行き帰りの車の中でも、とても個性的で愉快な人です。
13:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:36:43.47 ID:pXJ6Ifkk0
この時から、私と夕美さんは、二人で一組として認知されていました。
相性、というものはあるようです。
14:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:39:12.43 ID:pXJ6Ifkk0
「何か喋らなきゃー、沈黙が怖いよーって、勝手に暴走しちゃってんのは私なんだしさ。
肇ちゃんがいなかったら、きっと私、色んな人を困らせてるよ」
「いえ、私こそ、夕美さんにばかり働かせてしまって悪いなぁと」
15:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:42:02.31 ID:pXJ6Ifkk0
夕美さんは、都内のマンションに一人暮らしでした。
お部屋に入ると、夕美さんらしい可愛い小物ばかりです。それに、とても良い匂い。
いいえ、これは――どれも、お花?
16:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:48:05.98 ID:pXJ6Ifkk0
「というわけで、肇ちゃんにはこれから私のフラワーアレンジメントを手伝ってもらいます」
「フラワーアレンジメント?」
あまり聞き慣れない言葉に小首を傾げる私に、夕美さんは得意げに鼻を鳴らしました。
17:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:49:36.97 ID:pXJ6Ifkk0
「あっ……」
熱っぽく語った自分に気づき、夕美さんは紅潮させた顔を伏せ、手を振りました。
「続けてください」
18:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:51:23.55 ID:pXJ6Ifkk0
「ふむふむ。じゃあ改めて……始めましょっか」
「はい」
そう言ってみたものの――。
19:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 19:53:58.84 ID:pXJ6Ifkk0
名前も知らない、オレンジ色の花を手にします。
それを中央に。
次は――薄い青の、差が高くて細長い花。これは――横に。
20:名無しNIPPER[saga]
2017/08/17(木) 20:00:25.73 ID:pXJ6Ifkk0
緑は草原、というのは安直です。
しかし、それゆえに誰にも伝わりやすいという強みがあります。
そうなると、空は青です。背の高い、先ほどの細長い花を生け直します。
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