9:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:31:21.36 ID:I2AyKHWk0
12月25日。
いつも以上に重たい目蓋を開けて櫻子が目をさますと、外がやけに明るかった。
カーテンを開けてみると、一面の雪景色。いつの間にこんなに降っていたのだろう。
視界の端に向日葵の家が写った。少し目を細めて、向日葵が玄関から出てきたりしないだろうかと思ったが、何の変化もない。
諦めてベッドの方に戻ろうとすると、そこでベッドサイドに何かが置かれていることに気付いた。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:32:41.10 ID:I2AyKHWk0
冬休みが終わり、三学期。
櫻子と向日葵は中学二年生として、そして花子は小学三年生として、その学年の最後の学期を迎えた。
結局櫻子は冬休みの最終日まで、ほとんど欠かすことなく、何なら日に日に勉強時間を延ばしながら机に向かい続けた。今までだったら信じられないような光景だが、それは花子の目の前で確かに繰り広げられた現実だった。
実際の受験があるという日は約一年後。まだまだ遠い。けれどこの分なら、ひま姉は櫻子のことを少しは見直して、今までのことをすぐにでも許してくれるようになるだろう。花子はそう思っていた。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:34:47.59 ID:I2AyKHWk0
櫻子と向日葵の間に生じている異変。
それに気づいているのは花子や楓だけではなく、あかりやちなつもまた、同じクラスに通うものとしてまざまざと肌で感じていた。
おかしくなり始めたのは、やっぱり冬休みに入る前。
周囲に対してはいつものように振る舞いながらも、一言も言葉を交わさず目も合わせていないふたりのことを、あかりとちなつはずっと心配していた。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:36:13.54 ID:I2AyKHWk0
ちなつとあかりがそんな話をしていたときから数刻が経ったころ。
七森中の生徒会室には、久方ぶりの客人が訪れていた。
「久しぶり、古谷さん」
「あら、先輩方」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:36:52.86 ID:I2AyKHWk0
時間というものは、残酷だ。
こんなにも結びつきの強かったふたりの関係が壊れてしまったこと。
その状態を、「普通」にしてしまうなんて。
三年生になってクラスも別々になり、向日葵と櫻子の距離感は、元に戻る余地すらも感じさせなくなってしまった。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:38:36.22 ID:I2AyKHWk0
夕暮れが痛々しいほどに赤い、翌日の放課後。
いつもどおりひとりで帰ってきた向日葵は、ちらと目線を動かしながら周囲に誰もいないことを確認し、家に入ろうとした。
しかし、
「きゃっ!?」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:39:02.22 ID:I2AyKHWk0
――櫻子がばかなことをしたのは、本当に櫻子が悪いと思う。
ひま姉がずっと手を差し伸べてたのに、ずっと素直になれなくて、ずっとずっとその気持ちを裏切ってきた。
あんな風にふざけて0点の答案を見せびらかすような真似をして。
本当に、本当にばかだった。
16:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:39:44.44 ID:I2AyKHWk0
やっぱり、ふたりの関係はもう戻らないところまで壊れてしまったのだろうか。
夜、やや腫れぼったい目を枕におしつけながら、花子はベッドに横になっていた。
櫻子は今日も変わらずに勉強を続けている。それもこれも向日葵と一緒になるためのはずなのに、どうしてふたりは昔のような関係に戻ろうとしないのだろうか。
櫻子のことも、向日葵のことも、もうわからない。
これが大人になるということなのだろうかと、花子は小さくため息をついた。
17:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:40:24.80 ID:I2AyKHWk0
「花子ちゃんには、全部話しておかなきゃと思いまして」
「ひま姉……」
明かりが小さく落とされた、薄暗い向日葵の部屋。そのベッドのへりに並んで座って、花子は向日葵の話を聞いた。
パジャマ姿の向日葵はどこか昔よりも大人っぽい気がして、なんだかドキドキしてしまいそうなほど、綺麗だと思った。
18:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:41:32.48 ID:I2AyKHWk0
「あれは……2月の終わりくらいでしたか」
問題集を広げて、授業中にとったノートを見返して、せっせとペンを動かしていた。
私にとっては見慣れない姿。でも、ずっとずっと見ていたくなるような、そんな懐かしい背中。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:42:09.04 ID:I2AyKHWk0
花子は、今も薄暗い部屋で勉強を続ける櫻子のことを思いながら、向日葵の言葉に耳を傾けた。
ずっと見えてこなかった向日葵の思惑が、ずっと不思議に思っていた櫻子のすべての行動が、腑に落ちていくような気がした。
今のこの状況が、なるべくしてなったどうしようもない現実だということが、やっとわかった。
「だから私は決めましたわ。あの子のしたいようにさせてあげようって」
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