12:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:36:13.54 ID:I2AyKHWk0
ちなつとあかりがそんな話をしていたときから数刻が経ったころ。
七森中の生徒会室には、久方ぶりの客人が訪れていた。
「久しぶり、古谷さん」
「あら、先輩方」
やってきたのは、すっかり受験生として多忙を極める生活を送っている綾乃と千歳。
放課後まで残る用事があったついでに、久しぶりに生徒会室に顔を出してみたところ、そこにいたのは向日葵だけだった。
「あれぇ、ほかのみんなは? 新しく入った一年生もおるんちゃうん?」
「いえ、今日は生徒会活動があるわけじゃないんですわ。私はたまたま、この部屋を使わせてもらってるだけで」
「わかるわ。ここって集中できるものね」
「勉強でもしてるん? こんな時間まで頑張って、古谷さんもウチらと同じ受験生みたいやなあ」
「……ええ、まあ」
「……大室さんは?」
綾乃が何気なく聞いた一言が、向日葵の胸にぴゅうと風を吹かせる。
「あの子は……少し、忙しいみたいで」
気遣いを遠慮しようとする後輩の作り笑顔に、思わず顔が曇る。
本当は、綾乃と千歳の耳にも、ふたりの不和に関する噂は届いていた。
「……無理しないでね、古谷さん」
「ほなな〜」
「はい」
結局綾乃と千歳はそれ以上何も聞くことはできず、適当な世間話を少しだけして、生徒会室を後にした。
この部屋はいつだって賑やかだった。あの無口なりせが会長だった時代でさえ。
その賑やかさの大部分を占めていたのが、ムードメーカーの櫻子だった。
その櫻子が静かな今……櫻子がいない今、放課後のうすら寒いこの部屋は、寂しげな空間と化してしまう。
「……これは本当に、根深い問題みたいね」
「そやなぁ……」
櫻子と向日葵のふたりに関係する誰しもが、歯車の合わないような感覚をおぼえている。
いつかは時間が解決してくれるのだろうか。いつか元通りになるきっかけがやってくるのだろうか。そんなことを思いながら、それでも時間は着実に進んでいく。
京子や綾乃たちはいよいよ受験本番を迎え、自分たちの人生の転換点を自分なりに乗り越えていく。
少女たちは、すこしずつすこしずつ、大人になっていく。
陽の光の温度が徐々に徐々に上がっていき、道の端に積まれている雪が少しずつ解け、季節は春を迎える。
桜の木がぽんぽんと可愛らしい花を咲かせる頃。
櫻子と向日葵、そしてちなつとあかりたちは、とうとう中学三年生になった。
新学年に色めき立つ、春休み明けのクラスメイトたちが、掲示板の前に群がっている。
ちなつとあかりは一緒にその前に立ち……そして、顔を曇らせた。
ちなつとあかりは幸運にも同じクラスだった。これで三年連続のクラスメイト。
そして、同じく三年連続で、向日葵の名前もそこに連なっていた。
しかし……絶対に向日葵と同じ名簿にいるであろうと思われていた名前が、ない。
見つけたのは、違うクラスの名簿。
時間は何も解決してくれないし、そして神様は意地悪だった。
――櫻子と向日葵は、とうとう別のクラスになってしまった。
「こんなにケンカばっかりなのに腐れ縁」
「幼稚園からずっと同じクラスで、もうウンザリですわ」
そのセリフが聞けなくなる日が来てしまったこと。
自分たちの手でどうにかなるものではないけれど、ちなつとあかりは、えもいわれぬ後悔に襲われた。
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