Bye-byeばさらガール
1- 20
1: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:51:30.80 ID:86/EQe0g0
 私、渋谷凛が稼業で実家の花屋で店番をしていると、1人の女の子が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
 そう言う私に軽く会釈をすると、その女の子は店を見渡し「ふうん」と言った。
 これは稼業とはいえ、所詮店番という立場に過ぎない私としてはあまり好ましくない状況だ。
 というのも、花屋にやってくるお客さんというのは、大きく3つに分類される。
 まず、花束や鉢植えなど、プレゼントを買いにくるお客さん。
 次に、目当ての花があり、それを見るなり買いなりしにくるお客さん。
 そして最後に、特に目的はなく花が好きで花屋にやってくるお客さんだ。

SSWiki : ss.vip2ch.com



2: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:54:18.90 ID:86/EQe0g0
 本好きが本屋に行くことが好きであるように、動物好きがペットショップに行くことが好きであるように、花が好きな人は特に用事がなくても花屋に行くのが好きなのだ。
 無論、そうしたお客さんが悪いとか、よいお客さんではないというのではない、お父さんは「そういうお客さんこそ、良い目利きで上客になってくれるんだ」と言っているが、いかんせん私は花屋の娘でしかなく、お父さんほどには花の知識も技術もないのだ。


3: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:55:52.14 ID:86/EQe0g0
 やってきた女の子は、明らかに3番目のタイプのお客さんだ。
 年の頃は私と同じぐらいだろうか。
 とても可愛い。いや、美人といえる顔立ちだ。
 淡いブルーを基調とした花柄のワンピースで、長めの髪を頭上でおだんご状に結んでいる。
「なにかお探しですか」
以下略 AAS



4: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:56:45.38 ID:86/EQe0g0
「定番のアンスリウムの仏炎苞も良いものを選んでいますし、芍薬もいい色合いですね〜」
 実際に仕入れたのは父親だが、誉められれば嬉しい。
 そしてその花々を誉める少女の横顔も、なんだか神々しい。いや、絵になっている。
「ただ〜」
「え?」
以下略 AAS



5: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:57:39.46 ID:86/EQe0g0
「花束に入れると、綺麗だから……」
 自分で言って、驚いた。
 そんなこと、店に並べた時は思いもしなかった。
 なのにその言葉は、自然に出てきたのだ。
「……証明、できますか〜?」
以下略 AAS



6: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:58:27.63 ID:86/EQe0g0
 私は店の花を見回すと、いく本かの花を手に取る。
「四種いけ……?」
 少女のやや批難じみたつぶやきが聞こえたが、その意味はよくわからないし相手にしている余裕が今はない。
 ただ一心不乱に、花束を作った。
 これまでも「お任せで」と言われて花束を作ったことはあったが、ここまで集中して作ったのは初めてかも知れない。
以下略 AAS



7: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:59:19.43 ID:86/EQe0g0
「意に添わぬ花でも、生けた全体からすれば見事な一点になることもある……そう言ったと伝えられていますが。確かにこのラナンキュラスは調和がとれ、自身の個性も際立ちましたね〜」
 もしかして、誉めていてくれてるのだろうか。
 そう考えていた矢先。
「ですけど〜」
「え?」
以下略 AAS



8: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:00:11.83 ID:86/EQe0g0
「これ……生け花じゃないから」
「あ」
「花束だから」
 少女は驚いた表情を見せるとしばらく後、心底可笑しそうに笑いだした。
「私としたことが、これは大変失礼いたしました〜。そうですね、生け花ではありませんでしたね……口げんかでは誰にも負けないつもりでしたが、これは一本とられましたね〜」
以下略 AAS



9: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:01:02.23 ID:86/EQe0g0
「このお花、おいくらですか〜?」
「え?」
「いただいてまいりますね〜」
「あ、ありがとう……ございます」
 代金を渡すと、少女は笑顔で花束を抱いた。
以下略 AAS



10: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:01:48.37 ID:86/EQe0g0

「ほう、そんなことがあったのか」
「うん。大変だったよ」
 夕食の席で、私は今日の顛末を話したのだが、鷹揚なお父さんと違いお母さんが厳しい声を上げる。
「だからもっとちゃんとお花のことを勉強しなさい、っていつも言っているでしょ」
以下略 AAS



11: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:02:30.09 ID:86/EQe0g0
「いいとも。ま、しかし凛も若いんだ。青春を……人生を賭けられるようななにかが見つかったら店のことはいいからな」
 これはお父さんの口癖みたいなものだ。
 お父さんは、自分が花に人生を賭けたように、私にも何かを見つけて欲しいらしい。
「そうね……でも、それまではしっかりお店のこと、頼むわよ」
 この点ではお母さんも同じ思いらしい。
以下略 AAS



12: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:03:12.80 ID:86/EQe0g0
「あなた……」
「うん……凛、その娘はたぶん、華道の家元とかそういう家のお嬢さんだな」
「えっ?」
 確かにあの娘、なんとはない気品というか風格みたいなものがあった。
 同世代とはいえ、初対面の自分とも物怖じせずに話すような娘だ。
以下略 AAS



13: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:03:50.87 ID:86/EQe0g0
「だが華道では四という数字は、し……つまり死を連想させるとして忌避されていた」
「あ、それであの娘、ちょっと不満そうに四種いけ、ってつぶやいたんだ」
「ええ。けれどね凛、それは古いというか厳格な、ルールとも呼べないような考え方なのよ」
 少し慰めるように、お母さんが言う。
「今現代の華道というか生け花で、そんなことを言い出す者はいない。母さんも言っていたが、それは古い考えだ。けれど格式とか伝統を重んじる、それこそ家元のような人たちはまだそれを重んじている」
以下略 AAS



14: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:04:30.81 ID:86/EQe0g0
「初対面でその人が華道の家元だとかその縁者だなんて、わかるはずもない。そもそも華道でも四種いけは今、普通に受け入れられている。なによりその娘は凛の作った花束を気に入って買っていってくれた。それでいいんだ」
 お母さんの温かさとお父さんの言葉に、私はちょっと救われた。
「それにしてもその娘、家元の縁者の娘ならお得意さんになって欲しいわね」
「そうだな。よいお客さんになってくれそうだ」
 両親の思惑とは別に、私もまたあの娘に会いたい。
以下略 AAS



15: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:05:15.44 ID:86/EQe0g0

 再会は意外に早かった。
 翌日、学校で休憩時間に窓の外を見ていると、なにやら人だかりができている。
「なんだろう?」
「んー? ああ、あれだよJ組の聖母サマ」
以下略 AAS



16: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:06:29.22 ID:86/EQe0g0
「もっとすごいのはさ、自分の取り巻きのそのファンのこと『子豚ちゃん』って呼んでるトコ」
「子豚ちゃん?」
「聖母だから導くのは迷える子羊……だけど、子羊よりも子豚ちゃんの方がかわいいからそう呼んでるんだって」
 すぐには理解できない思考だ。いや、よく考えてもいまひとつわからない。
 聖母さま……か。そう思ってその人だかりの中心を見た時、そこにいたのは……
以下略 AAS



17: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:07:16.58 ID:86/EQe0g0
「えっと、あの……せ、聖母さま!」
 名前がわからないので仕方なくそう叫ぶと、あの娘はこちらを振り返った。
「おや〜これはこれは、A組の渋谷凛さんではありませんか〜」
「え?」
 なんと、向こうは私のことを知っていたらしい。
以下略 AAS



18: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:08:04.15 ID:86/EQe0g0
「私は凛さんのことを知っていたのに、凛さんは私のことをご存じなかったのですね〜」
「あ、ほら、わ、私はA組であなたはJ組で……つまり、1番遠いクラスだから」
「J組の私はA組の凛さんのことを知っていたのに、A組の凛さんはJ組の私をご存じなかったのですね〜」
 これはだめだ。
 そう言えば昨日も「口げんかでは誰にも負けない自信がある」と彼女も言っていた。
以下略 AAS



19: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:09:02.70 ID:86/EQe0g0
「じゃあ名前」
「はい〜?」
「名前、教えてよ」
 彼女は嬉しそうに、クスクスと笑って言った。
「天空橋……天空橋朋花、ですよ〜。まあ凛さんが呼びたいなら、ずっと聖母さまと呼んでいただいても構いませんよ〜」
以下略 AAS



20: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:09:49.61 ID:86/EQe0g0
 ニコニコとして……いや、ここまでほとんどいつも彼女はニコニコとしているのだが、そう言う彼女に私は昨日両親から聞いた情報をぶつけてみる。
「あ、そうそう、花っていえば朋花の家って華道の家元をやってるの?」
 ビシッ。
 音に聞こえるように、その場の空気が変わった。
 相変わらず朋花は笑顔のままだ。だが、その場の空気が、重く冷たく凍るように変質している。
以下略 AAS



21: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:10:40.50 ID:86/EQe0g0
「その……昨日、朋花が四種いけって不満そうにつぶやいてたから」
「え?」
「お父さんに、四種いけってなにって聞いたら華道の言葉で、しかもそれを避けるのは華道でも家元みたいな人かその縁者だって聞いたから……それで……」
 空気が少し和らいだ。
「なんか……ごめん」
以下略 AAS



101Res/65.97 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice