1:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:31:43.75 ID:0j9uV3lDO
昼休みを告げる鐘が鳴り、いつもならば谷口や国木田と昼食を共にするところではあるが、その日早弁を済ませていた俺は教室から出て真っ直ぐに元文芸部室へと向かった。
どうして普段と違う行動をしたのかについて明確な理由はなく、あえて説明するならば毎日毎日男友達と弁当をつつきあっている自分を客観視した際に絶望的なみじめさを覚えたからである。
別に男同士の友情を軽視しているわけではないが、ほどほどにしておかないとこの短い高校生活を棒に振りかねないと危惧していた。
幸いなことに狭い交友関係の中でも女子の知り合いが俺には居て、中でもハードルが高い先輩である朝比奈さんや鶴屋さんの教室に向かうことは身の程知らずもいいところなので、だからこそ元文芸部員の少女を訪ねようと、そう思い至ったわけである。
「長門、入るぞ」
「どうぞ」
常日頃の慣習に則りノックしてから声をかけると、中から長門の声が返ってきて、それだけで一段階テンションが上がったことを自覚しつつ、俺は元文芸部室の扉を開けた。
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:34:07.85 ID:0j9uV3lDO
「少しばかり邪魔しても構わないか?」
「構わない」
パイプ椅子に腰掛けた長門はいつも通り、読書していて、本から顔をあげて黒檀の瞳でこちらを見つめている。その視線を受けて、ひとまず来訪の目的を話しておくことにした。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:37:29.49 ID:0j9uV3lDO
「悪かった。もしもお前が負担に感じるならすぐに出て行くから……」
「待って」
席を立とうとすると長門に引き留められた。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:43:30.92 ID:0j9uV3lDO
「昼休み、終わっちまったな」
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
長門がゆっくりと抱擁を解くと同時に、一気に緊張感が抜けて、気疲れを自覚した。
しかし、それにも増して俺は名残り惜しい。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:45:57.70 ID:0j9uV3lDO
「キョン、今日も早弁したのかい?」
「悪いな。昼休みは用事があるんだ」
翌日の昼休み、足早に教室を出ようとする俺を見て国木田が呆れていたが、関係ないね。
弁当を少し早めに食っておくことで昼休みを有効に活用出来るなら誰だってそうするさ。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:48:33.62 ID:0j9uV3lDO
「ずっと立っているのは流石に疲れるな」
「座る?」
「そうだな」
次の日からはパイプ椅子に座ることにした。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:53:46.38 ID:0j9uV3lDO
「長門、キツくないか?」
「平気」
あれから、様々な抱擁の仕方を試してみた。
抱っこしたり、おんぶしたり、床に座ってみたり、背中に乗って貰ったり。肩車したり。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:57:30.67 ID:0j9uV3lDO
「午後の授業、完全に遅刻だな」
「あなたのせい」
午後の授業の開始を告げる鐘の音がスピーカーを通じて校舎に鳴り響き、サボりが確定しても長門は離してくれない。俺も離さない。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 21:59:56.14 ID:0j9uV3lDO
「俺は……長門。お前のことが……」
そう切り出すのにどれほど時間が経っただろう。1時間かも知れないし、2時間かも知れない。その間、長門はずっと待っていてくれて、もしかしたら最初に抱擁したその日から待っていたのかも知れなくて、そう思うとすぐにでも結論を出さないといけないと焦って、上手く言語化出来なくて、言い淀んで。
「話す必要はない」
10:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 22:02:08.44 ID:0j9uV3lDO
「何よ、なんで開かないのよ!」
その声の主を間違える筈はない。ハルヒだ。
しまった。いつの間にか午後の授業は終わっていたらしく、部活動の時間となっていた。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 22:04:55.32 ID:0j9uV3lDO
「あんた、どこに座ってんのよ」
「座り心地が良さそうだったもんでね」
俺が団長の机の上に座っているのを見て、ハルヒの目が据わった。大変お怒りのご様子。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 22:06:23.37 ID:0j9uV3lDO
「そんなことを気にしている場合か?」
「む……何よ、その態度」
全てを見抜かれて、揺れてないロッカーの中身を見透かされても、俺は余裕を崩さない。
それが気に食わなかったらしく、ハルヒはこちらに詰め寄って、ネクタイを引っ張った。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/11(日) 22:08:15.64 ID:0j9uV3lDO
「キョン、あんたって本当に……」
「馬鹿みたいだよな」
ひとしきり哄笑されて、逆にすっきりした心持ちの俺に対して、団長は優しく微笑んだ。
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