22:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:15:13.24 ID:FQVp12gN0
* * * * *
相川千夏はそもそも後輩の面倒見が特別よいとか世話焼きとかいうわけではない。落ち着いた佇まいが魅力の、聡明で博識なオトナの女性だ。ただそうした堅いイメージに比せず、彼女を慕う後輩は多い。その理由はいろいろあるが、盟友・大槻唯の言葉を借りるのであれば「大切なタイミングを絶対にこぼさないヒト」だからだとか。その話を聞いて以来、ライラも頼もしい大人像として千夏を浮かべることがあった。
23:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:16:11.19 ID:FQVp12gN0
ライブの時間はあっという間だった。
いや、そう感じたライラ含め、会場の皆がステージ上のたった一人を包むパフォーマンスにのまれただけかもしれない。
ライラは圧倒された。張り詰めた空気、微かな息遣い、美しいシルエット。ゆるやかなせせらぎの音、微かな伴奏音。高く静かな音色が一つ。音色はやがて声だとわかる。無から有へ、悠から動へ。そして世界は開闢へ。
24:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:17:00.81 ID:FQVp12gN0
「お疲れ様。とっても素敵だったわね」
「ありがとう。そう言ってもらえると安心するわ」
ステージ終了後の楽屋。ラフな格好に戻りようやく一息つく千秋に、千夏から言葉が贈られる。「慌ただしいでしょうけど、できれば一声だけでも掛けておきたいから」ということで立ち寄ることにしたのだった。ライラも一緒に足を運んだ。
「お疲れ様でございました。とっても……とっても素敵でした」
25:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:18:44.81 ID:FQVp12gN0
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26:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:19:38.36 ID:FQVp12gN0
「ライラ、今日の動きよかったね」
「本当でございますか?」
「うん。頑張ってたのがよくわかったし、ミスもなかった……よね? たぶんファンも観ていて楽しかったと思うよ」
「えへへ、そう言って頂けると嬉しいですねー」
27:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:20:09.00 ID:FQVp12gN0
「あ、ごめん。難しく考えないで」
うつむくライラに杏がフォローを入れる。それはいいことなんだよ、と。
「杏からしたらさ、ライラは本当にたくさんのことを背負って生きてきたわけで、そこは尊敬なんだよ。すごいなって。でもそんな数奇な運命を辿って今ここにいるならさ、今だからこそできる向き合い方ってきっとあるはずだから」
「今だからこそ、ですか」
28:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:20:42.43 ID:FQVp12gN0
* * * * *
夜、ライラのもとにプロデューサーから電話があった。
29:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:21:58.03 ID:FQVp12gN0
X ステップ・アゲイン
物語が終わらなければ幸福なんだとしても、時計の針は進めるべきだと思うんだ。
30:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:23:06.91 ID:FQVp12gN0
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「……つまり、過程を見せるのはルール違反じゃないかと思った、ということかしら」
31:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:23:48.80 ID:FQVp12gN0
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32:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:25:05.84 ID:FQVp12gN0
ライブはたおやかに、しかし確かな熱を帯びて始まった。
先日の千秋のライブとは対照的に、やや小さめのハコでのライブ。しかしここは音響的にも評判がよく、またオーディエンス全体を見渡しやすい造りであることも含め、千夏は気に入っていた。
相川千夏はここ一年ほど、己の更なる表現を求め、いろいろ新しいことに取り組んでいた。まだまだ試行錯誤だし日々勉強ばかりと彼女は語るが、その評価は少しずつ高まっている。
柔らかだけど、芯のある歌声。
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