ライラ「アイスクリームはスキですか」
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32:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:25:05.84 ID:FQVp12gN0

 ライブはたおやかに、しかし確かな熱を帯びて始まった。
 先日の千秋のライブとは対照的に、やや小さめのハコでのライブ。しかしここは音響的にも評判がよく、またオーディエンス全体を見渡しやすい造りであることも含め、千夏は気に入っていた。
 相川千夏はここ一年ほど、己の更なる表現を求め、いろいろ新しいことに取り組んでいた。まだまだ試行錯誤だし日々勉強ばかりと彼女は語るが、その評価は少しずつ高まっている。
 柔らかだけど、芯のある歌声。
 千秋のような壮大で苛烈なものではなく、繊細で綺麗で、そして心が和らぐ美しさがそこにあった。
「ありがとうございます」
 数曲を経て、拍手に包まれつつホールを改めて見渡す千夏。
 皆の視線が暖かい。音の反響もイメージ通り。スポットライトがまぶしい。
 今日も掴めている感じがした。少し安心する。
 ライラと晶葉は招待席だから、あのライトの光の近くかしら。
 さすがにここからでは見えないけれど、楽しんでいてくれたら嬉しい。
 そんなことを思いながら、彼女は視線をゆっくりと足元にまで戻す。舞台袖にはスタッフも、そしてプロデューサーもいる。きっとしっかり見てくれているんだって信じている。でも安易にそちらを振り向くのは御法度だ。前を向いて、ファンと向き合って私はここに立つ。そうした意識を今一度、強く持って。

 デビューして間もない頃にプロデューサーが何気なく述べた言葉を、千夏は今も心に留めていた。
「いつか……、シャンソン・ド・サンチマンタルとか、あるいはシャルムとか、そういうのを歌いこなす相川さんになっても、素敵かもしれませんね」
「アイドルなのに?」
「いろんな魅力があっていいと思うんですよ」
 もちろんそれが全てじゃないし、今練習しているような楽曲も大切にしてほしいですけどね。雑然と語りつつも可能性を否定しない彼の節回しは、どこか心地よかった。
 最近の取り組みも、今日のセットリストも、いろんな巡り合わせと努力の果てのもの。決して一つに起因することじゃないけれど。でもあの言葉は、私にとって大切なもの。それを知ってるのは私だけだけど、なんて。
 少しだけ笑みをこぼしつつ、深呼吸をひとつ。マイクを寄せて、千夏は次の曲に入った。
 私はここにいる。そう、噛み締めながら。



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