31:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:23:48.80 ID:FQVp12gN0
* * * * *
飛行機雲の長い長い筋跡が空を真っ二つに切り裂いていた昼下がり。その線はさながら海を二分したとされる聖人の奇跡譚のよう。そんな大海原の幻視を覚えるほどに広がる快晴の空が、彼方の稜線まで続いていた。
八月某日、東京。今日の空は、きっと高い。
まだまだ夏真っ盛りなのに「残暑」とは……? などと思うライラをよそに、連日の猛暑はとどまるところを知らない様子。命綱ともいえるアイスクリームを口にしつつ、晶葉とともにアスファルトを歩き行く姿が印象的。
さりとて、いつまでもふらふらとしているわけにはいかない。
大通りの向こうに見えるホール。今日はそこで相川千夏のライブがあるのだ。
「ありがとう、来てくれて」
開演前の楽屋にご挨拶。千夏は優しい笑顔で二人を迎えてくれた。
「楽しみにしておりますですよー」
「私も誘ってくれてありがとう。しっかり応援するぞ!」
盛り上がる準備は万端、と言わんばかりの謎のユニットポーズをキメる二人。昨日練習したんだと晶葉から説明を受け、思わず吹き出す千夏。
「嬉しいわ。雰囲気的に、そういう感じかはわからないけれど……」
それはそう。なんせ今日の題目は「バラード・セレクション」なのだから。
「おー、キラキラのライトは振らないでございますか」
「あまり振らないわね、今日のようなライブでは」
「まぁなんだ、場の空気くらいは理解するつもりだから大丈夫だ」
それに、純粋に楽しみだから、と晶葉。
彼女もまた、ここ最近の成長が著しい。それは日々のアイドル活動、仲間との交流、お仕事の現場、そして趣味の研究……と刺激的な毎日を過ごしているからに他ならない。けれど一番の要素は、彼女がその全てをちゃんと楽しめているからだろう、と千夏は思っている。
晶葉自身は、やっぱり周囲の存在が大きいと感じていた。それは担当プロデューサーであり、ライラであり、そして千夏たちのことである。だからこそ、この瞬間すべてが愛おしいのだ。
「じゃあそろそろ、準備に入るから」
千夏は二人のもとを離れ、スタッフの輪の中へ。彼女の隣には資料を見せつつ説明を添えるプロデューサーの姿があった。
ライラはその姿にしばし見惚れた。そして我に帰って首を振る。
……いま、二人の何を見て「いいな」と思ったんだろう。
何かこう、大切なことが少し見えてきたような気がしたのだけど。その言語化はまだ、難しい。
63Res/192.16 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20