46:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:37:03.43 ID:W5lmC8VA0
「……あぁ。なんかで見た記憶があるな」
何で今その話をするんだ、って顔に書いてある。
本当に、呆れるくらい正直な人。
47:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:39:22.10 ID:W5lmC8VA0
彼は手を止め、私を見上げた。
「お前や千夜を、トップアイドルに育て上げることだ」
「それは、あなたのプロデューサーとしての仕事の話でしょう?」
48:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:40:55.41 ID:W5lmC8VA0
「何かあったのか?」
心配そうに、あるいは少し、臆病そうに、彼は再度問いかける。
私なんかのために、いちいち真に受けてくれるの――ほんと、おっかしい。ふふっ。
49:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:43:35.91 ID:W5lmC8VA0
いつの間にか、フレデリカちゃんの番組は終わっていたみたい。
ラジオは今、過払い金がどうとかいう何とか法律事務所のコマーシャルを流している。
魔法使いさんがしょっちゅう流すから、私まで覚えちゃった。
50:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:46:05.41 ID:W5lmC8VA0
ボンヤリと、独り言のように魔法使いは語り始めた。
「デカい車を買って、気立ての良い人を嫁さんにもらって、マイホームを手に入れて……
子供は、女の子と男の子の順で一人ずつ。仕事も適当に忙しすぎず、暇すぎず、細く長く続けていられたら、とかかな」
51:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:47:37.79 ID:W5lmC8VA0
他人任せの、偉そうな感じがしていた。
どことなく“やらされてる感”がして、ずっとこの言葉が気にくわなかった。
でも、そうだ――私が考えていたのは、もしかしたら使命じゃなくて。
52:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:50:31.12 ID:W5lmC8VA0
「千夜ちゃんっ」
玄関ドアをガチャンッ! と突進せんとばかりに叩き開ける。
ビックリして振り返った千夜ちゃんは、リビングのソファーに座っていた。
53:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:54:34.88 ID:W5lmC8VA0
「千夜ちゃん……アイドルは、楽しい?」
紫に煌めく千夜ちゃんの瞳が、少し大きくなった。
「ちゃんと答えて……私に、阿ることはしないで……」
54:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:57:29.00 ID:W5lmC8VA0
「アイドルは、楽しいです。
これほど夢中になれるものが私にあるとは、思いもしませんでした」
私の手を両手で握りながら、千夜ちゃんは私の目を見て続ける。
55:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:00:09.96 ID:W5lmC8VA0
――私は一体、千夜ちゃんの何を見ていたんだろう。
千夜ちゃんは、私が考えていたよりもずっと、自立していた。
依存していたのは私の方。
56:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:02:08.71 ID:W5lmC8VA0
描かずに消したもの。読まずに伏せたもの。
「もう一度……私にも見れるのかな?」
身体の内側が、ジワジワと熱くなっていく。
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