26:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:51:04.93 ID:QXbKSZYO0
候補生は、私と同年代の人達が多かった。
三村さんが事務所に持ち込んだクッキーに、私が紅茶を用意すると、皆さんはとても喜んでくれた。
「甘美な愉悦がこの身に宿り、我が魔力の高まりを感じるわ!」
27:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:53:00.55 ID:QXbKSZYO0
それまで静かにソファーに腰掛けていた渋谷さんが、立ち上がった。
「二人が撮影してるの、スタジオ棟の2階でしょ」
「おっ? なんだなんだしぶりーん、抜け駆けは良くないぞー♪」
28:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:54:29.89 ID:QXbKSZYO0
「……えぇと、千夜、さん?」
スタジオへ向かう途中、長い廊下を歩きながら、渋谷さんがこちらの機嫌を伺うように口を開いた。
しばらく無言の状態が続いており、彼女が先に根負けした形になる。
29:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:58:02.70 ID:QXbKSZYO0
少し考え込むように俯きながら、渋谷さんは問いかけてきた。
「大したことではありません。お嬢様が推薦しただけです」
「笑顔、とか言われなかった?」
30:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 22:00:23.06 ID:QXbKSZYO0
詳しく知らないが、自前の撮影用スタジオを社内に備える芸能事務所は、そう多くないのではと思う。
着いてみると、思いのほか大勢の人がいた。
被写体となるアイドルはほんの数人と思われるが、その十倍はいるであろうスタッフが辺りをせわしなく動き回っている。
想像していたほど、簡単なものではないらしい。予め確認できて良かったと思う。
31:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 22:03:46.64 ID:QXbKSZYO0
「ダー♪」
途端、先ほどまでのキリッとしたアナスタシアさんの表情がホロリと崩れ、まるで別人のようにあどけない笑顔を見せた。
ボーイッシュでクールな外見とのギャップがあまりに大きく、思わずドキッとしてしまう。
32:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 22:05:14.57 ID:QXbKSZYO0
何と言ったら良いのか――これも日本人的な感覚なのだろうか。
いたずらに卑屈を構えたつもりは無いが、正確に言い表そうとすると、言葉に迷う。
「もてなす側として、満足のいくものをお出しできないことは、少々後ろ暗い思いがするものなのです」
「ニェット、チヨ」
33:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 22:07:36.11 ID:QXbKSZYO0
「……そういう事を言われたのは、初めてです」
従者として仕える間、黒埼家の人達に感謝をされてこなかった訳ではない。
ただ、彼女がありがたいと言った私の行動は、私にとっては当たり前に思っていたものだった。
34:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 22:08:21.97 ID:QXbKSZYO0
「よく分かりましたね。お前の分は、用意がありません」
「ちょ、ちょっと千夜ちゃん!?」
新田さんと渋谷さんがなぜか狼狽える一方で、アナスタシアさんはクスクスと笑った。
35:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 22:09:37.87 ID:QXbKSZYO0
* * *
「チヨ、お水です」
休憩に入ると、いつもアナスタシアさんはクーラーボックスから給水を取り出し、私に手渡してくれる。
36:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 22:11:34.24 ID:QXbKSZYO0
日本人離れ、とは言うまいが――彼女はそのボーイッシュな美貌もさることながら、パフォーマンスも質実なものだった。
持って生まれた才能だけでなく、真面目にレッスンに取り組む中で着実に培われていったものだ。
極めて素直であり、純粋で真面目な心根であることが、そばにいるとよく分かる。
だが、彼女のアイドルに対するモチベーションは、どこから来るものなのか。
301Res/285.11 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20