白雪千夜「足りすぎている」
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29:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:58:02.70 ID:QXbKSZYO0
 少し考え込むように俯きながら、渋谷さんは問いかけてきた。

「大したことではありません。お嬢様が推薦しただけです」

「笑顔、とか言われなかった?」

 渋谷さんはそう聞きながら、廊下の窓の外に目を向けた。
 一見素っ気無さそうにしているが、今の彼女には、どことなく照れ臭さを感じさせる。

「笑顔? ……あぁ」
 思考の外に投げ出していたから、すっかり忘れていた。

「渋谷さんも、言われたのですか?」
「一度も笑ったこと、無かったんだけどね」

 ――なるほど。
 渋谷さんが私を誘い、これを聞きたかったことの意味を理解する。

「シンデレラプロジェクトの中で、普段笑わないであろう他の人の話を聞きたかった、ですか?」

「えっと、まぁ……ごめん」
「謝ることはありません」

 あの男が意図したことは、渋谷さんにもよく分からなかったらしい。
 泰然としているように見えて、あの男、いい加減な所もあるのではないか。

「気にすることは無いと思いますよ」

 まともに伝える意志が無いのなら、どうせ大した意味も無いものだ。
 そのようなものに、いちいち気を遣う必要も無い。

 渋谷さんは頷いた。
 やはり、釈然としてはいないようだった。



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