一ノ瀬志希「ほころび」
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111:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:03:36.85 ID:SYS+AFC90
「迷惑をかけられて困っている子を助けたかっただけなのに、って、私は先生に言って……そんな、泥だらけになって泣く私の頬を、先生は叩くから、いっぱい泣いたなぁ。
 それで、えぇと……先生はね? 迷惑って何かしら、って私に聞いたの」

「迷惑とは何……小学生の女の子に対して、なかなか哲学的な問いだね」
「本当にね。優しそうに見えて、結構厳しい先生だったんだよ?」
以下略 AAS



112:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:05:32.27 ID:SYS+AFC90
「あはは、そう、かな……それを小学生の私が理解して、その時反論できていたら、違ったのかも知れないけどね」

 ワガママを言う子をあやすような笑い方だ。
 困った子供扱いされた不満よりも、夕美ちゃんを困らせてしまった事への申し訳なさが勝る。

以下略 AAS



113:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:08:20.09 ID:SYS+AFC90
 小学4年生の遠足の1年前――3年生で初失踪か。
 プロデューサーの話といい、あたしの失踪デビューは世間一般に比べると遅い方だったのかも知れない。

「携帯も持たずに、電車に飛び乗って……どうやって来たのか、まるで覚えてないんだけどね。えへへ。
 どんどん人里を離れていって、少なくなってきた乗客の人達が、一人ぼっちでいる私を不審そうに見てて……
以下略 AAS



114:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:11:11.07 ID:SYS+AFC90
「キンモクセイを植えようと、先生、すごく大きな鉢を持ってきていたんだ。
 私も手伝わされたんだけど、本当に土が硬くて大変で……
 植え終わった後に、先生がおにぎりをくれたの。あれは美味しかったなぁ」

「その時に、キンモクセイの花言葉を?」
以下略 AAS



115:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:15:30.46 ID:SYS+AFC90
「次の年、ここに遠足で来るのを提案したのも、先生だったの。
 この素敵な場所を皆にも一番に教えたくて、私、はりきっちゃったなぁ」


 それからというもの、定期的にこの場所にも通って、先生の草木の手入れを手伝っていたのだという。
以下略 AAS



116:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:18:22.50 ID:SYS+AFC90
 ――そうか。

 自身の潔白の証明のために大切な人の死を晒し、それを辱めてしまうことを彼女は避けたかったのだ。
 だから、あの日に起きたことを夕美ちゃんは黙して語ろうとしなかった。

以下略 AAS



117:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:21:40.10 ID:SYS+AFC90
「ありがとう、志希ちゃん……本当にありがとね」


 夕美ちゃんが私の方へ顔を向けた時、綺麗な瞳から大粒の涙が一つ流れた。

以下略 AAS



118:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:24:47.37 ID:SYS+AFC90
「はぁ……はぁ……」

 こんなに感情が昂ぶっている自分に内心驚いている。

 どこまでも自分にとって淡泊であるはずの結果に、許し難いものがあるなんて考えもしなかった。
以下略 AAS



119:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:27:54.69 ID:SYS+AFC90
 あたしは夕美ちゃんを助けたかっただけなんだ。
 真実を明らかにすれば夕美ちゃんが置かれた不当な境遇はきっと洗われて、問題なくアイドルを続けられるはずだった。

 これじゃあ何のために、あたしはいたんだ――どうして、夕美ちゃんは辛い思いをしなければならなかったのか!?

以下略 AAS



120:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:29:42.47 ID:SYS+AFC90
 どうして皆、そうやって分かったフリをして、勝手なレッテルを貼るんだ。

 その場にガックリと膝をついた。
 視界に映る芝が滲んで揺れる。ブチブチと握りしめると爪の間に土が入って、それも構わず次々に引っ掴んだ。

以下略 AAS



121:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:32:21.72 ID:SYS+AFC90
 甘い匂い――キンモクセイの香りだ。

 研究を進める中で、飽きるほどに散々嗅いだはずなのに、あたしのささくれだった心は不思議なほどにその温かな匂いで安らいでいく。

「あ、うぁ……」
以下略 AAS



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