一ノ瀬志希「ほころび」
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117:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:21:40.10 ID:SYS+AFC90
「ありがとう、志希ちゃん……本当にありがとね」


 夕美ちゃんが私の方へ顔を向けた時、綺麗な瞳から大粒の涙が一つ流れた。

「その無遠慮な優しさは、私だけじゃなくて……皆にも与えてあげて。アイドルだから」


「……あたしは、夕美ちゃんに受け取ってほしいのっ!」

 あたしは繋いだ手を乱暴に解いて立ち上がった。

「何でっ! 調子の良いことを言っておきながら、あたしのワガママを受け入れてくれないのかなぁ!?
 アイドルがどうとか言うなら、夕美ちゃんこそアイドルを続けるべきだよ、あたし……あたしなんかよりずっと!
 あたしだけのために一緒にアイドル、もっとやろうよ!」

「ごめんね、志希ちゃん」

 月明かりに照らされた夕美ちゃんの笑顔に、涙がポロポロと星のように光って浮かんでいる。

「私も、ワガママだから」

「――――ッ!!」


 あたしは手に持っていた缶ビールを丘の下に向けてぶん投げた。

 舐める程度の一口しか飲めなかったそれは、輪郭が曖昧な芝の上へ落ちて転がり、遠くでゴボゴボと中身が流れ出る音が微かに聞こえる。



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