一ノ瀬志希「ほころび」
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114:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:11:11.07 ID:SYS+AFC90
「キンモクセイを植えようと、先生、すごく大きな鉢を持ってきていたんだ。
 私も手伝わされたんだけど、本当に土が硬くて大変で……
 植え終わった後に、先生がおにぎりをくれたの。あれは美味しかったなぁ」

「その時に、キンモクセイの花言葉を?」
「私が志希ちゃんにしたように、先生にクイズを出されたんだ。
 私も、志希ちゃんと同じことを答えて、「えー!?絶対ウソだよ!」なんて文句言ったりして」
「にゃははー、なぁんだ」

 二人で笑い合う。
 偉そうにあの日、私に講釈をしてみせた夕美ちゃんが、どこか滑稽に思えてしまった。

「先生、優しかった……お父さんとお母さんは、ちょっとだけ怒っているけど、心配はいらないわ。
 私からもご両親には言っておくから、夕美ちゃんは決して萎縮はしちゃダメ。
 迷惑だなんて考えないで、好きなように、これからも元気に伸び伸びと生きなさい。
 ただ」

 夕美ちゃんは、後ろを振り返った。

「この場所と一緒に、慎み労る気持ちは、忘れないようにしましょう。
 心のどこかには、他者を尊重し、寛容となれるよう、謙虚な部分も残しておきなさい、って」


 ――なるほど。
 まさにそれは、今日の夕美ちゃんの人生哲学となったわけだ。

「やっぱり、思い出の場所だったんだね。夕美ちゃんにとっても、ここは」



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