一ノ瀬志希「ほころび」
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107:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:48:20.97 ID:SYS+AFC90
「たとえそうだとしても……たぶん、あたしを見て、悲しい、嫌な気分になっちゃう人も、いると思うから。
 真実がどうっていうより、イメージが大事だと思うの。
 アイドルって、お客さんを楽しませるのが仕事だから、余計に。
 気分を悪くする人がいるなら…」

以下略 AAS



108:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:52:39.38 ID:SYS+AFC90
 夕美ちゃんの声は、あたしの乱暴で不細工な声とは違って、どこまでも穏やかだった。

「オーディションもいっぱい落ちて、だけどプロデューサーさんと一緒に、何度も励まし合いながらお互いに頑張って、それでも一向に芽を出せなくて……
 そんな時に、志希ちゃんのパートナーとしてスカウトされたあたしが、あっさりステージに立っちゃった。
 自分に容姿が似ている子が……大して違いもしないのに」
以下略 AAS



109:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:55:49.47 ID:SYS+AFC90
「夕美ちゃんのお花の先生と?」
「お母さんから、聞いたの?」
「大体ね」

「その先生はもう、私のクラスの担任じゃなくなってたんだけどね」
以下略 AAS



110:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:58:54.25 ID:SYS+AFC90
「遠足に行く、一年くらい前だったかな……家の庭に、イチゴを育てたいって私、お母さんに言ったの。
 私も、お父さんもお母さんも、イチゴは好きだったから、たくさん実がなるように大事に育てようって、さっそく植えて。
 それで、志希ちゃん知ってた? イチゴって、すごく繁殖力が強い植物なの。
 放っておくと、ランナーっていう弦がどんどん辺り一面に伸びていって、根っこも力強いんだよね」

以下略 AAS



111:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:03:36.85 ID:SYS+AFC90
「迷惑をかけられて困っている子を助けたかっただけなのに、って、私は先生に言って……そんな、泥だらけになって泣く私の頬を、先生は叩くから、いっぱい泣いたなぁ。
 それで、えぇと……先生はね? 迷惑って何かしら、って私に聞いたの」

「迷惑とは何……小学生の女の子に対して、なかなか哲学的な問いだね」
「本当にね。優しそうに見えて、結構厳しい先生だったんだよ?」
以下略 AAS



112:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:05:32.27 ID:SYS+AFC90
「あはは、そう、かな……それを小学生の私が理解して、その時反論できていたら、違ったのかも知れないけどね」

 ワガママを言う子をあやすような笑い方だ。
 困った子供扱いされた不満よりも、夕美ちゃんを困らせてしまった事への申し訳なさが勝る。

以下略 AAS



113:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:08:20.09 ID:SYS+AFC90
 小学4年生の遠足の1年前――3年生で初失踪か。
 プロデューサーの話といい、あたしの失踪デビューは世間一般に比べると遅い方だったのかも知れない。

「携帯も持たずに、電車に飛び乗って……どうやって来たのか、まるで覚えてないんだけどね。えへへ。
 どんどん人里を離れていって、少なくなってきた乗客の人達が、一人ぼっちでいる私を不審そうに見てて……
以下略 AAS



114:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:11:11.07 ID:SYS+AFC90
「キンモクセイを植えようと、先生、すごく大きな鉢を持ってきていたんだ。
 私も手伝わされたんだけど、本当に土が硬くて大変で……
 植え終わった後に、先生がおにぎりをくれたの。あれは美味しかったなぁ」

「その時に、キンモクセイの花言葉を?」
以下略 AAS



115:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:15:30.46 ID:SYS+AFC90
「次の年、ここに遠足で来るのを提案したのも、先生だったの。
 この素敵な場所を皆にも一番に教えたくて、私、はりきっちゃったなぁ」


 それからというもの、定期的にこの場所にも通って、先生の草木の手入れを手伝っていたのだという。
以下略 AAS



116:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:18:22.50 ID:SYS+AFC90
 ――そうか。

 自身の潔白の証明のために大切な人の死を晒し、それを辱めてしまうことを彼女は避けたかったのだ。
 だから、あの日に起きたことを夕美ちゃんは黙して語ろうとしなかった。

以下略 AAS



117:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:21:40.10 ID:SYS+AFC90
「ありがとう、志希ちゃん……本当にありがとね」


 夕美ちゃんが私の方へ顔を向けた時、綺麗な瞳から大粒の涙が一つ流れた。

以下略 AAS



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