一ノ瀬志希「ほころび」
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109:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:55:49.47 ID:SYS+AFC90
「夕美ちゃんのお花の先生と?」
「お母さんから、聞いたの?」
「大体ね」

「その先生はもう、私のクラスの担任じゃなくなってたんだけどね」

 夕美ちゃんは、少しだけ楽しそうに笑ってくれた。
 美しい思い出を話す時は、こうしてちゃんと笑顔になれるんだ。

「四年生の遠足で来た時は、この丘の上にも、私があそこの遊歩道から誰よりも早く、一番乗りで走ったの。
 私、男の子よりもかけっこが速かったから、運動会でリレーの選手とかにもなってたんだよ」
「へぇぇ〜」
「まぁそれはともかく」

 夕美ちゃんがチラリと後ろを振り返ったので、あたしもそれに倣った。
 視線の先には、大きなキンモクセイがある。そのそばには、さっきあたし達が植えたピンクのキンモクセイも。


「全然、話飛んじゃうんだけどさ……志希ちゃん、イチゴって育てたことある?」

「イチゴ? あの、食べるストロォベリィーのイチゴ?」
「あははは! うんっ、それ」

 くだらない発音に笑ってくれた夕美ちゃんを、あたしは訝しんだ。
 話がどこに着地していくのか見えなくて、知らず不信感を抱いてしまっている。

「うん……そうだね。育てたことあるって人は、あまりいないかも」

 小さく頷いて、夕美ちゃんは視線をボーッと前方に向けた。



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