104:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:39:35.34 ID:SYS+AFC90
「ん? ううん、むしろ笑っちゃう」
「じゃあ、「ごめんね、一緒に住めない」って言ったら、どう?」
「事情にもよるけど、まぁそうかーってカンジかにゃ?
気持ちは分かるからねー、あたしが言うのもなんだけど」
105:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:41:54.51 ID:SYS+AFC90
「にゃははは、思い通りにならない事なんてケミストやってりゃ日常茶飯事だからねー♪」
全てが二つに一つだった。
予測通りに行くか、行かないか。白か黒でしかないのだ。
106:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:45:23.63 ID:SYS+AFC90
ビールを一口飲んだせいか、寒空の下にも関わらず、体の芯がボゥッと熱っぽい。
次の瞬間、あたしはたぶん、ありったけの怒りをこの子にぶつけてしまう。
「聞いたよ。あの子が不倫騒動をでっち上げようとしてたの、夕美ちゃん、事前に聞かされてたんでしょ?
107:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:48:20.97 ID:SYS+AFC90
「たとえそうだとしても……たぶん、あたしを見て、悲しい、嫌な気分になっちゃう人も、いると思うから。
真実がどうっていうより、イメージが大事だと思うの。
アイドルって、お客さんを楽しませるのが仕事だから、余計に。
気分を悪くする人がいるなら…」
108:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:52:39.38 ID:SYS+AFC90
夕美ちゃんの声は、あたしの乱暴で不細工な声とは違って、どこまでも穏やかだった。
「オーディションもいっぱい落ちて、だけどプロデューサーさんと一緒に、何度も励まし合いながらお互いに頑張って、それでも一向に芽を出せなくて……
そんな時に、志希ちゃんのパートナーとしてスカウトされたあたしが、あっさりステージに立っちゃった。
自分に容姿が似ている子が……大して違いもしないのに」
109:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:55:49.47 ID:SYS+AFC90
「夕美ちゃんのお花の先生と?」
「お母さんから、聞いたの?」
「大体ね」
「その先生はもう、私のクラスの担任じゃなくなってたんだけどね」
110:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 01:58:54.25 ID:SYS+AFC90
「遠足に行く、一年くらい前だったかな……家の庭に、イチゴを育てたいって私、お母さんに言ったの。
私も、お父さんもお母さんも、イチゴは好きだったから、たくさん実がなるように大事に育てようって、さっそく植えて。
それで、志希ちゃん知ってた? イチゴって、すごく繁殖力が強い植物なの。
放っておくと、ランナーっていう弦がどんどん辺り一面に伸びていって、根っこも力強いんだよね」
111:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:03:36.85 ID:SYS+AFC90
「迷惑をかけられて困っている子を助けたかっただけなのに、って、私は先生に言って……そんな、泥だらけになって泣く私の頬を、先生は叩くから、いっぱい泣いたなぁ。
それで、えぇと……先生はね? 迷惑って何かしら、って私に聞いたの」
「迷惑とは何……小学生の女の子に対して、なかなか哲学的な問いだね」
「本当にね。優しそうに見えて、結構厳しい先生だったんだよ?」
112:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:05:32.27 ID:SYS+AFC90
「あはは、そう、かな……それを小学生の私が理解して、その時反論できていたら、違ったのかも知れないけどね」
ワガママを言う子をあやすような笑い方だ。
困った子供扱いされた不満よりも、夕美ちゃんを困らせてしまった事への申し訳なさが勝る。
113:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:08:20.09 ID:SYS+AFC90
小学4年生の遠足の1年前――3年生で初失踪か。
プロデューサーの話といい、あたしの失踪デビューは世間一般に比べると遅い方だったのかも知れない。
「携帯も持たずに、電車に飛び乗って……どうやって来たのか、まるで覚えてないんだけどね。えへへ。
どんどん人里を離れていって、少なくなってきた乗客の人達が、一人ぼっちでいる私を不審そうに見てて……
114:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:11:11.07 ID:SYS+AFC90
「キンモクセイを植えようと、先生、すごく大きな鉢を持ってきていたんだ。
私も手伝わされたんだけど、本当に土が硬くて大変で……
植え終わった後に、先生がおにぎりをくれたの。あれは美味しかったなぁ」
「その時に、キンモクセイの花言葉を?」
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