6:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:16:11.54 ID:441QTGT20
「えっ?」
思わず目を見開いて振り向くと、言葉とは裏腹に、満足げに咲く楓さんの笑顔があった。
「ようやくこっちを見てくれましたね」とでも言いたげの、まるで俺の心情を見通していたかのような表情だ。
7:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:17:33.19 ID:441QTGT20
――――
「モデルをやっていた理由、ですか」
8:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:19:46.14 ID:441QTGT20
「いいえ」
お猪口の中身をクッと飲み干し、ふぅっと息をつく。
徳利を差し出すと、彼女は両手を添えてそれを受けた。
9:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:20:59.20 ID:441QTGT20
「でも、プロデューサーは私を、アイドルの道へとスカウトしたんですよね」
楓さんはニコリと微笑んで、ゆっくりと首を振り、店員を呼んだ。
「まだ大丈夫ですよ」
10:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:21:49.75 ID:441QTGT20
「ただ、あの日のプロデューサーは、ふふっ──」
「やめてください」
思い出すだけで死にたくなる。
相当酔っ払ってた俺は、彼女を目に留めた途端、脇目も振らずにスカウトに走った。
11:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:23:01.28 ID:441QTGT20
――――
「だからと言って、ケンカをしたいってことは無いでしょう」
12:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:24:00.46 ID:441QTGT20
「開けるまでならいいですよ、飲まないならね」
「中身を捨てろと?」
「ここはオフィスです、楓さん」
缶チューハイを片手に、キョトンと小首を傾げる担当アイドルを目の当たりにして、思わずため息がついて出る。
13:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:24:44.05 ID:441QTGT20
「──何でしょう」
今日の活動報告は、大体作り終えた。
そうでなくとも、いつにも増して真剣な彼女の表情は、俺の手を止めるのに十分だった。
14:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:25:58.34 ID:441QTGT20
大胆な物言いだな──
あるいは楓さんも、この二人きりの空間に流れる妙な空気にあてられているのかも知れない。
「こっちも、意地悪な言い方になるけど」
15:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:27:24.77 ID:441QTGT20
「えっ?」
何と無しに、その場で背を少し伸ばす。
こんな時、俺も夏樹のようにそのソファーに腰を下ろして、フォークギターの一つでも弾けたらな──なんて。
16:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:28:33.43 ID:441QTGT20
ひとしきり言い終わって冷静になり、ふと自分に驚いた。
こんな想いを、いつの間にやり場もなく抱いていたとは──。
でも、照れくささこそあれ、恥ずかしいという気持ちはあまり無い。
仮に今、俺の顔が赤くなっていたとしても、夕日のせいにすればいいや。
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