6:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:16:11.54 ID:441QTGT20
「えっ?」
思わず目を見開いて振り向くと、言葉とは裏腹に、満足げに咲く楓さんの笑顔があった。
「ようやくこっちを見てくれましたね」とでも言いたげの、まるで俺の心情を見通していたかのような表情だ。
「ケンカは、相手がいないとできませんから」
窓の外に視線を戻しながら、彼女は独り言のように呟く。
「一人だと、自分が見えませんから──
相手がいるというのは、とても素敵なことだなぁって」
羨むように、あるいは讃えるようにカップルを見つめるその横顔を見て、俺は、なぜ自分がさっき楓さんに声を掛けたのかを知った気がした。
二人きりの空間が大胆にさせたから──きっとそれだけではない。
彼女の存在が、当たり前にあるわけではない気がして、そこに居る事をしっかりと確かめたくて──。
以前から、そう思っていた。
彼女は時折、どことなく存在が曖昧になる。
ある日、二人でふらりと立ち寄った居酒屋で、唐突に聞いてみたことがあったのを思い出す。
――――
25Res/20.05 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20