8:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:19:46.14 ID:441QTGT20
「いいえ」
お猪口の中身をクッと飲み干し、ふぅっと息をつく。
徳利を差し出すと、彼女は両手を添えてそれを受けた。
「何もありませんでした。
不満も、納得も──そういうものなのかな、と、ただ依頼を消化するだけ。
私は、空っぽだったんです」
細い指で、並々と注がれたお猪口を愛おしそうに撫でる。
いつもより、ややペースが早いかも知れない。
それなりに話してくれるようにはなったが、それでも楓さんの口から、こういう話が続いていくのは珍しい気がした。
「与えられた依頼を飲み込んで、吐き出すだけ──
そんな単純作業を繰り返したところで、自分が誰で、何のために居るのかを見出すことは、できなくて」
「お言葉ですが」
俺は自分の酒を飲んで、徳利の中身を空けた。
彼女にこれ以上酒を与えるのは、たぶんあまり良くない。
すかさずメニューを開いて、次に注文するものを見繕い始めた楓さんを、俺は制した。
「依頼とは需要です。
楓さんにその仕事をしてほしかった人がいるんです。
その人を喜ばせることができたのなら、楓さんがモデルとして生きる意味は、それはそれであったんだと思います」
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