3:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:12:47.74 ID:441QTGT20
「あぁ」
合点した。そう言えば、撮影の合間に観たって話をしてたっけ。
確か、アニメ映画だったと──。
疑ってしまったことをこちらが謝る前に、楓さんは続ける。
4:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:14:08.30 ID:441QTGT20
「奏ちゃんも、そう言っていました。
ご都合主義の子供だましだって」
砂糖とミルクを多めに入れたコーヒーを、楓さんは嬉しそうに啜った。
この人は、こうして少し子供扱いしてあげた方が喜ぶきらいがある。
5:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:15:13.39 ID:441QTGT20
急にこちらを向いて、楓さんはどこか悪戯っぽく微笑んでみせた。
息がかかりそうなほど間近にある俺の顔にまるで動じることなく、宝石のようなオッドアイは真っ直ぐに俺の目を射貫く。
「──男の方」
「それは、なぜでしょう?」
6:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:16:11.54 ID:441QTGT20
「えっ?」
思わず目を見開いて振り向くと、言葉とは裏腹に、満足げに咲く楓さんの笑顔があった。
「ようやくこっちを見てくれましたね」とでも言いたげの、まるで俺の心情を見通していたかのような表情だ。
7:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:17:33.19 ID:441QTGT20
――――
「モデルをやっていた理由、ですか」
8:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:19:46.14 ID:441QTGT20
「いいえ」
お猪口の中身をクッと飲み干し、ふぅっと息をつく。
徳利を差し出すと、彼女は両手を添えてそれを受けた。
9:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:20:59.20 ID:441QTGT20
「でも、プロデューサーは私を、アイドルの道へとスカウトしたんですよね」
楓さんはニコリと微笑んで、ゆっくりと首を振り、店員を呼んだ。
「まだ大丈夫ですよ」
10:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:21:49.75 ID:441QTGT20
「ただ、あの日のプロデューサーは、ふふっ──」
「やめてください」
思い出すだけで死にたくなる。
相当酔っ払ってた俺は、彼女を目に留めた途端、脇目も振らずにスカウトに走った。
11:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:23:01.28 ID:441QTGT20
――――
「だからと言って、ケンカをしたいってことは無いでしょう」
12:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:24:00.46 ID:441QTGT20
「開けるまでならいいですよ、飲まないならね」
「中身を捨てろと?」
「ここはオフィスです、楓さん」
缶チューハイを片手に、キョトンと小首を傾げる担当アイドルを目の当たりにして、思わずため息がついて出る。
13:名無しNIPPER[saga]
2019/02/08(金) 22:24:44.05 ID:441QTGT20
「──何でしょう」
今日の活動報告は、大体作り終えた。
そうでなくとも、いつにも増して真剣な彼女の表情は、俺の手を止めるのに十分だった。
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