年越し代行
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4:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:18:10.92 ID:JbQZeQhn0
「どうした、ボウズ」


 宵闇にしんしんと降りしきる雪にボーッと持ってかれていた意識が、現実に引き戻される。
 ジイサンに呼ばれ、僕はタバコをその場に落とし、靴底で踏み消した。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:23:31.17 ID:JbQZeQhn0
 公務員の手当の一つに、特殊勤務手当というものがある。
 肉体的、精神的な負担が大きい特殊な業務に従事する職員に、相応の対価を支給するというものだ。
 国家公務員の場合、一般職給与法第13条を根拠法令とし、人事院規則でその類型を定めている。

 具体例を挙げると、高所で作業する職員とか、検疫所や放射線を扱う支所の職員とか。
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:26:19.91 ID:JbQZeQhn0
「来年も俺達、コンビを組まされるのかな」

 最後の一件を終え、僕はふとジイサンにこぼした。

 僕は、周囲には「俺」で通していた。
以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:29:14.39 ID:JbQZeQhn0
 繰り返しになるが、僕達は歳をとることがない。
 年越し代行を行った職員は、そのまま肉体も精神も一年前の状態にリセットされ、次の年を迎える。
 若い肉体を維持する代わりに、その年の記憶を引き継ぐ事ができないのだ。

 肉体と同様に、精神も負荷を加えれば疲弊し、老いていく。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:30:41.43 ID:JbQZeQhn0
「おう」

 いつもの年末、いつもの集合場所で、ジイサンは僕の姿を認めると、嬉しそうに手を上げて笑った。
 これに答える代わりに、僕は黙って缶コーヒーを飲み干し、その辺に投げ捨てた。

以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:31:57.53 ID:JbQZeQhn0
 いつの間にか、行きつけの店が潰れていた。
 消費税が5%になり、8%になっていた。
 僕が最初にやったFFはWだけど、オモテの職場の“同い年の”同僚はスーファミすら知らない。
 流行の曲も映画もドラマも、漫画やアニメも何一つ、噛み合う人間が僕の周りにはいない。
 それどころか、時代遅れだとバカにされる。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:34:34.76 ID:JbQZeQhn0
「おい知ってるかボウズ」

 色気の欠片も無い、野暮ったいデロリアンを運転しながら、ジイサンは藪から棒に話を振った。

「ゆくゆくは、この仕事も全自動化っつーのになるかも知れねぇな。
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:35:54.62 ID:JbQZeQhn0
「そうだなぁ」

 ご機嫌なトーンを変えずに、ジイサンはハンドルを握りながらウーンと唸っている。


以下略 AAS



12:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:37:59.67 ID:JbQZeQhn0
「――さぁ。絶滅するってことは無いんじゃない?」

 僕は頬杖をつき直して、小さくため息をついた。
 何が言いたいんだ、この人は。

以下略 AAS



13:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:41:06.12 ID:JbQZeQhn0
 離職率は高い一方で、新規雇用率はゼロに近かった。

 近年では、ツイッターとかインスタグラム?とか、昔と比べて情報発信をする手段が随分増えたという。
 たとえ記憶をリセットされても、次の年の瀬に記憶を取り戻した際、これを嬉々として発信する若者は後を絶たないのだ。

以下略 AAS



14:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:43:46.92 ID:JbQZeQhn0
 クソみたいな部屋だった。

 スナック菓子の袋や雑誌、ちり紙とカップ麺と、得体の知れないゴミで足の踏み場も無い。
 加えて、住人であるその男の、きわめて雑な寝相が、ソイツの人間性を雄弁に物語っていた。

以下略 AAS



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