1: ◆XUWJiU1Fxs[sage]
2018/10/31(水) 02:09:50.85 ID:rpP0yHwMo
久しぶりに速報に投げるカミさんな神谷奈緒のおはなし
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2: ◆XUWJiU1Fxs[sage]
2018/10/31(水) 02:10:42.93 ID:rpP0yHwMo
「落ち着いて聞いてくれ……お義父様が……入院したって、連絡があったんだ……」
「えっ」
何も変わらない1日のはずだった。いつものように起きてカミさんとスキンシップをして朝食を食べて、目の前で愛情を込めさせた(恥じらう姿がまた可愛いんだ)愛妻弁当を持って出社して、担当することになった新人アイドルたちのファーストステージのレッスンをして、ドタドタドタと騒がしい足音が聞こえたと思えばカミさんが血相を変えてレッスルルームにやってきて。元トップアイドルの神谷奈緒が来たものだからビックリしているアイドルを尻目に、奈緒は震える声でそう言った。いきなりの出来事に、持っていたタブレットを落としてしまう。買ったばかりというのに、画面に小さくヒビが入ってしまった。
3: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:11:52.72 ID:rpP0yHwMo
「親父!!」
事務所に事情を説明して早上がりさせてもらった俺は奈緒と一緒に飛行機に飛び乗って地元へと帰ってきた。一瞬、一秒でも早く着いて欲しい。何時もなら心踊る空の旅も楽しんでる余裕なんてなく、落ち着けない俺を心配してかカミさんはずっと手を握ってくれていた。その暖かさが何よりも嬉しくて、つかの間の安らぎをくれたんだ。
空港からタクシーを捕まえて病院へと急ぐ。タクシー代はバカならないことになったけど、そんなことは瑣末なことだ。病院ではお静かにという注意を無視して病室へと駆け出す。勢いよくドアを開けて、そこに待っていたのは。
4: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:13:02.65 ID:rpP0yHwMo
「なぁ、奈緒。俺には親父がピンピンしてるように見えるんだけど」
「いや、あたしに言われても。お義母様から電話があって、凄いトーンで倒れたっていうから……」
親父も一緒に卓を囲んでいる人たちも、今すぐ天に召されそうな雰囲気ではなかった。
5: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:14:01.52 ID:rpP0yHwMo
「はぁ……なんか、急いで帰ってきて損した……」
「おーい、大丈夫かー?」
ドッと疲れが一気に体を襲う。そのままヘナヘナと崩れ落ちてしまいそうになるが、カミさんに支えられて立ち上がる。
6: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:15:06.53 ID:rpP0yHwMo
『ここのところ仕事詰め込んでたんですし、有給使って今日と明日はゆっくりしてきてくださいね。あの子達なら大丈夫ですから』
親父の無事を確認したから帰ろうとしたタイミングで、事務員のちひろさんから状況確認の連絡があった。そのまま戻るつもりでいたのだけど、会社が気を使ってくれたのか夫婦水入らずの時間を過ごしてくださいね、と電話を切られてしまう。
「今日と明日は、こっちでゆっくりしておいでってさ」
7: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:18:11.64 ID:rpP0yHwMo
「いち、に、さん、し! に、に、さん、し!」
あてもなくぶらぶらと歩いているとラジオ体操の歌が流れてくる。その方向へと足を向けると懐かしい光景が目に入って来た。
「ここさ、俺の母校」
8: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:18:42.03 ID:rpP0yHwMo
「じゃあさ、今からしてきなよ」
「へ?」
「逆上がり、見ててあげるからさ。大人になった今だと案外簡単にできるかもしれないよ?」
9: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:19:33.88 ID:rpP0yHwMo
ピー助。その名前で俺を呼ぶのは、同じ小学校に通っていたやつくらいだ。つまりこの先生は……。
「え、なに? 知り合いなの!?」
「俺の同級生、っぽい……」
10: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:21:04.71 ID:rpP0yHwMo
「まさかピー助君がこっちに来ていたなんて。一言言ってくれたらよかったのに」
「いやぁ、いかんせん急な話だったので……お久しぶりです、先生」
この学校を卒業して20年近くが経って、かつて俺たちのクラスの担任だった現校長先生は熱血教師から落ち着いた初老の教師へとレベルアップした一方で、あれだけフサフサだった髪の毛はすっかり寂しくなっている。俺はハゲないぞ! と言っていた過去の先生へ。現実は残酷でした。
11: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:22:26.12 ID:rpP0yHwMo
「さようならー!」
「はい、さようなら」
「元気のいい子供達だなぁ」
12: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:25:14.36 ID:rpP0yHwMo
「わっ」
「かわいいよ、似合ってる」
カミさんの髪を両手で持ってツインテールを作る。恥ずかしさが極まったのかあわあわとしているが、そんな姿も愛おしくてついついツインテールを揺らしてしまう。
13: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:26:54.08 ID:rpP0yHwMo
「「「かんぱーい!!」」」
ビールが注がれたグラスが重なり心地いい音が響く。
「ふぃー……最高」
14: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:28:20.61 ID:rpP0yHwMo
「そうだぞー。竹井なんか奈緒さんのユニットの大ファンで、奈緒さんがプロデューサーと結婚した時はそれはもう仕事が手につかないくらいに落ち込んでたのに、その相手がよりにもよってお前だと知った時の顔は今でも忘れられないよ……人間ってあんなに絶望的な顔ができるんだな」
「あはは……」
竹井は学年で一番運動ができて中学高校とバスケ部のエースだった男だ。逆上がりができない俺をいつもバカにしていたけど、その相手に推してたアイドルを取られたんだ。凹むのも無理はないか。まぁその悔しさをバネに社会人バスケで活躍しているらしいからザマァ見ろとはとても言えないんだけどね。
15: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:30:53.09 ID:rpP0yHwMo
「そうそう。ピー助君にはまだ話してなかったんだけどね……じゃん!」
梅ちゃんはポケットから小さな箱を出し、パカっと開けるとそれは小さく輝いた。
「おっ! それ、結婚指輪? 梅ちゃん結婚するんだ。相手は誰々? 俺の知ってる人?」
16: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:33:42.27 ID:rpP0yHwMo
「ちょっと今の下ネタは引くわー……」
「えっ、声出てた?」
「出てた出てた、ドヤ顔してるし」
17: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:35:03.22 ID:rpP0yHwMo
「なぁ、まっつん」
「どうした、ピー助」
ざわざわ、ざわざわ。
18: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:35:40.61 ID:rpP0yHwMo
「アラサーが体操服着てパフォーマンスをするなんて聞いたことないよ!」
「いやぁ……うちでもそこそこ前例はあるぞ……?」
「そうかもしれないけど! んなー!」
19: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:36:44.16 ID:rpP0yHwMo
「えーと、奈緒? やらなきゃダメなのか……?」
「妻に体操服でライブさせといて、自分だけ逃げようって言ってもそうはいかないからなー!」
カミさんによるミニライブは大盛況のうちに終えた。きっと子供達も、この学校を懐かしむ時に体操服で歌い踊ったお姉さんのことを思い出の1つとして振り返るだろう。ただ、そこで終わるはずだったのに。
20: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:38:29.74 ID:rpP0yHwMo
強く地面を蹴って勢いに任せる。くるりと世界が反転したのは一瞬のこと、俺は勢い余らせて足を滑らしてお尻で着地してしまう。
「いってて……」
「ほら、出来たじゃん」
21: ◆XUWJiU1Fxs
2018/10/31(水) 02:40:15.23 ID:rpP0yHwMo
「んじゃ帰るよ。無理すんなよ、親父」
「アホ抜かせ。孫の顔見るまでは[ピーーー]るものか」
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