白菊ほたる『災いの子』
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138: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:35:23.21 ID:sg2qAd8w0
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 ある日、その筋では有名なゴシップ雑誌の記者が面会を申し込んできた。
 薄汚れたトレンチコートにハンチング帽といういでたちの男を来客用の部屋に招き入れ、向かい合って席に着く。
 形式的な名刺交換を済ませたあと、男が「お忙しい中、ありがとうございます」と言って、へつらうような笑みを浮かべた。
以下略 AAS



139: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:36:50.09 ID:sg2qAd8w0
 彼女がアイドルになったのは3年前だ。
 346プロが定期的に開催している所属オーディションを受けに来た。当時すでに19歳で、そのオーディションの参加者の中では最年長だった。他の審査員は年齢を理由に見送ろうとしていたから、彼女が合格したのは、ほとんど俺の独断といっていい。
 彼女は俺の担当アイドルになった。
 ある時期までは、上手くやれていたと思う。彼女は順調に人気アイドルの階段を上っていった。
 仕事がうまくいけば喜び合い、祝い事のときはプレゼントを贈り合ったりもした。あくまで、仕事上のパートナーとして。しかし、いつからか彼女にとってはそうではなくなったらしい。
以下略 AAS



140: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:38:29.66 ID:sg2qAd8w0
   *

 346プロダクションでは、複数のアイドルを担当し、多忙で死にそうになっているプロデューサーが常にいる。また、アイドルとプロデューサーで折り合いがつかず、担当替えを希望しているところもある。
 担当が引退したばかりで手が空いていた俺に、新しくアイドルを受け持ってみないかという提案はいくつもあった。
 全て丁重に断り、代わりに他のプロデューサーたちの事務仕事を預かるようになった。
以下略 AAS



141: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:39:52.75 ID:sg2qAd8w0
 空いた時間を使って街に出て、道行く女性を値踏みする。何日かそうしてみたが、スカウトしようと思える女性はいなかった。1週間経っても、2週間経っても成果はなかった。
 やはり逸材はそうそう転がってはいない。いたとすれば、とっくに誰かに拾われているのだろう。

 ふと、以前同僚のプロデューサーが立ち上げたシンデレラ・プロジェクトなる企画を思い出した。
 それは個性的なアイドルの発掘・育成を目標とした企画で、プロジェクトに含まれるアイドルは総勢14名にのぼった。いささか多すぎないだろうか、などと思いながらメンバーのリストを見せてもらい、思わず感嘆の息をついたことを覚えている。14人が14人とも、金の卵と呼んでいい逸材に見えた。
以下略 AAS



142: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:41:20.55 ID:sg2qAd8w0
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 携帯の地図アプリを頼りに、最寄りの神社にたどりつく。「神と煙は高いところが好き」との格言通り、石造りの長い階段の上にそれはあった。
 これを上るのか、とため息をついたところに、ひとりの少女が鳥居をくぐって飛び出してくる姿が目に映った。少女は急いでいるらしく、階段を2段飛ばしで駆け下りていた。
 危なっかしいなと思い、眺めているそばから、少女が足を踏み外して前のめりに落下した。
以下略 AAS



143: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:42:54.16 ID:sg2qAd8w0
 財布を交番に届け、城のように巨大な事務所に戻る。
 本名でSNSでもやっていないかと思い、インターネットの検索ワードに名前を打ち込んでみると、情報は思いのほかあっさりと出てきた。
 検索結果の一番上に出てきたのは、芸能事務所の公式サイトだ。白菊ほたるは、他事務所のアイドルだった。

 先を越されたと苦々しく思う気持ちはある。しかし、これはむしろ都合がいいかもしれないと思い直した。
以下略 AAS



144: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:45:13.72 ID:sg2qAd8w0
 代わりにいくつかの疑問が浮かぶ。

 この少女の不幸とは本物だろうか。偶然、あるいは無関係な出来事の責任を押し付けられているだけではないか。

 また、例の噂は簡単に調べるだけで出てくる程度には広まっている。小さな事務所でも、経験者として雇用するのであれば過去の経歴ぐらいは調査するだろう。それにもかかわらず、今彼女が所属している事務所は、なぜ疫病神を採用したのか。
以下略 AAS



145: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:46:17.66 ID:sg2qAd8w0
 たしかに、と思った。この事務所の所属アイドル一覧の中で、ただひとり、白菊ほたるだけが笑っていない。
 あえてそうするということはある。クールなイメージで売り出すため、表情を抑えめにというように。しかし、白菊ほたるのこれは、無表情というわけでもなく、言うならば『困り顔』のように見えた。わざとにしては、狙いがよくわからない。

「みんながみんな、笑ってなきゃいけないってものでもないでしょう」

以下略 AAS



146: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:48:40.17 ID:sg2qAd8w0
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 翌日、白菊ほたるの所属事務所に電話をかけた。
 自動応答のような女性の声が応じ、こちらが346プロのプロデューサーと名乗ると、《少々お待ちください》と言って、保留音が流れ始めた。
 少し待って、横柄そうな野太い男の声に代わった。男は、この事務所の社長だと名乗った。
以下略 AAS



147: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:50:06.30 ID:sg2qAd8w0
 346が大手だから足元を見ている、という感じではなかった。
 そもそも全く移籍させる気がない。あるいは、万が一その条件で受けてくれれば儲けものといったところだろう。しかし、現状の白菊ほたるは事務所の金食い虫でしかないはずだ。なぜ、そこまで強気になれる?
 あきらめるべきだろうか。あの少女は偶然見かけただけに過ぎず、どうしても引き抜かなければならないという理由はない。それこそ、縁がなかったとでも思えばいいだけの話だ。

 休憩ラウンジにコーヒーを買いに行く。ちょうど顔見知りのプロデューサーがいたので、声をかけてみた。
以下略 AAS



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