141: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:39:52.75 ID:sg2qAd8w0
空いた時間を使って街に出て、道行く女性を値踏みする。何日かそうしてみたが、スカウトしようと思える女性はいなかった。1週間経っても、2週間経っても成果はなかった。
やはり逸材はそうそう転がってはいない。いたとすれば、とっくに誰かに拾われているのだろう。
ふと、以前同僚のプロデューサーが立ち上げたシンデレラ・プロジェクトなる企画を思い出した。
それは個性的なアイドルの発掘・育成を目標とした企画で、プロジェクトに含まれるアイドルは総勢14名にのぼった。いささか多すぎないだろうか、などと思いながらメンバーのリストを見せてもらい、思わず感嘆の息をついたことを覚えている。14人が14人とも、金の卵と呼んでいい逸材に見えた。
そして、内部ではさまざまな紆余曲折があったようだが、プロジェクトは予定された期間を満了し、今やその全員が346プロの中でも上位の人気を誇るアイドルとして活動している。
アイドルをシンデレラになぞらえるなら、このプロデューサーはまさしく魔法使いだろう。しかしなんとなく、イメージには合わないと思った。彼が、無口で不器用で、実直を絵に描いたような人間だったからかもしれない。たいていの物語において、魔法使いとは本来、邪悪なものだろう。
彼のもとを訪ね、人材を見つけ出すコツを聞いてみる。しかし、返答はいまひとつ要領を得なかった。
更に詳しく聞いてみると、それは彼の用いている評価の方法であるとわかった。『笑顔が素敵であること』、なるほど、それはそうだろう。もしくは、彼が『きっと笑顔が素敵だろうと思うこと』、こちらはやや難解だったが、言わんとすることはなんとなく理解できた。
だが、俺が知りたがっているのは判定の方法ではない。どこをどう探せばそのような人物を見つけ出せるのかということだ。
そう訊ねると、彼は困ったように首の後ろに手を添えた。わからない、ということらしい。むこうからオーディションを受けに来た子もいれば、たまたま見かけた花屋の娘であったりもする。つまり出会い自体は偶然の産物、幸運であったという。
幸運、こればかりは自力ではどうしようもない。神社で賽銭でも投げてみようかなどと考えた。
無論、ただの気まぐれにすぎない。元々験担ぎをするような性質ではなく、正月の初詣にもろくに行かない不信心者だ。神や仏とは、身内の葬式ぐらいでしか縁がない。
しかし、願いはほどなくして現実となった。
幸運は、不運な少女の姿をとっていて、この世の誰よりも、灰にまみれていた。
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