白菊ほたる『災いの子』
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139: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:36:50.09 ID:sg2qAd8w0
 彼女がアイドルになったのは3年前だ。
 346プロが定期的に開催している所属オーディションを受けに来た。当時すでに19歳で、そのオーディションの参加者の中では最年長だった。他の審査員は年齢を理由に見送ろうとしていたから、彼女が合格したのは、ほとんど俺の独断といっていい。
 彼女は俺の担当アイドルになった。
 ある時期までは、上手くやれていたと思う。彼女は順調に人気アイドルの階段を上っていった。
 仕事がうまくいけば喜び合い、祝い事のときはプレゼントを贈り合ったりもした。あくまで、仕事上のパートナーとして。しかし、いつからか彼女にとってはそうではなくなったらしい。
 珍しいことではない。アイドルにとって担当プロデューサーとは最も身近な異性ということになる。似たような話はいくつも聞いたし、いい結果になったという話はひとつも聞かなかった。
 この時点で上司に掛け合って、担当の交代でも提案するべきだったのかもしれない。しかし俺はそうしなかった。彼女には才能があった。努力家でもあった。ちっぽけな功名心が、彼女を手放してしまうことを惜しいと思っていた。
 やがて好意を隠そうともしない振る舞いが多くなっていっても、徹底して無視した。
 彼女は苛立ちを募らせ、生活が乱れていった。飲めない酒におぼれるようになり、最近は仕事にまで影響を及ぼすようになっていた。
 だから、記者の持ってきた写真を見て、最初に抱いた感情は安心だった。彼女の気持ちが自分以外に向いた、これはいい傾向に違いないと思った。

 数日後、彼女は生放送のテレビ番組で突然引退を表明した。担当プロデューサーであるはずの自分は、なにも聞かされていなかった。
 トップクラスとまでは行かないにしても、人気アイドルと呼んで差し支えない地位にあった。まだまだこれから、いくらでも活躍の場を広げることができた。
 なぜ? と周囲のものは不思議に思ったが、彼女は一切の説明を拒否し、口をつぐんだまま346プロを、芸能界を去った。

 ある意味では自由の身になったともいえるが、それから、くだんの俳優の近くに彼女の姿を見ることはなかった。
 一夜限りのお遊びだったのかもしれないし、スキャンダルを嫌った相手が離れていったのかもしれない。あるいは、本当にただいっしょに酒を飲んだだけだったのかもしれない。



 しばらく経って、一般人の男性と結婚したらしいという話を人づてに聞いた。
 自分には、ハガキの1枚も来なかった。


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