144: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:45:13.72 ID:sg2qAd8w0
代わりにいくつかの疑問が浮かぶ。
この少女の不幸とは本物だろうか。偶然、あるいは無関係な出来事の責任を押し付けられているだけではないか。
また、例の噂は簡単に調べるだけで出てくる程度には広まっている。小さな事務所でも、経験者として雇用するのであれば過去の経歴ぐらいは調査するだろう。それにもかかわらず、今彼女が所属している事務所は、なぜ疫病神を採用したのか。
考えられる可能性はいくつかある。採用を決めた者が、オカルトなどくだらないと気にしなかったか。噂を差し引いても余るほどの光るものを感じたか。あるいは、その『不幸』を話題性として活用しようとしたか。
「あら」と声がして目を向けると、事務員の千川ちひろさんがいた。
346プロの名物事務員ともいえる存在で、最近は業務内容が近くなったため、関わる機会も多い。
「こんな時間まで、まだお仕事ですか?」
と千川さんが言う。時計を見ると、時刻はいつの間にか20時にさしかかっていた。
「そちらこそ」
「私はもう帰ろうとしていたところですよ。よろしければ、なにか飲みますか?」
「ではスタドリを」
千川さんは事務所がまとめて購入している栄養ドリンクの管理もおこなっている。社員は彼女に申請し、もらったドリンクの代金は給料から直接差し引かれる。そういった点でも、この事務所のプロデューサーは皆、日頃から彼女には世話になっている。
「……お茶かコーヒーでも淹れましょうか、って話だったんですけどね。まあいいです、どうぞ」
千川さんがバッグから星のマークのついたビンを取り出す。
「ありがとうございます」
「ええと……今週それでもう13本目ですね。あまり飲み過ぎると体に毒ですよ」
「気を付けます」と答えて、もらったドリンクを一気に飲みほした。
千川さんが軽蔑するような視線をよこし、それからパソコンのモニターに目を移した。
「……かわいい子ですね」
「ですよね」
「他社の子ですか。引き抜きを?」
「ええ、考えてます」
「しかし、なんというか……宣材写真らしからぬ宣材写真ですね」
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