145: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:46:17.66 ID:sg2qAd8w0
たしかに、と思った。この事務所の所属アイドル一覧の中で、ただひとり、白菊ほたるだけが笑っていない。
あえてそうするということはある。クールなイメージで売り出すため、表情を抑えめにというように。しかし、白菊ほたるのこれは、無表情というわけでもなく、言うならば『困り顔』のように見えた。わざとにしては、狙いがよくわからない。
「みんながみんな、笑ってなきゃいけないってものでもないでしょう」
「そうかもしれませんが、私はやっぱりもったいないって思っちゃいますね。きっと、笑ったらもっとかわいいのに」
『笑顔が素敵だろうと思うこと』、なるほど。
そういえば、千川さんはシンデレラ・プロジェクトのアシスタントを務めていた時期もある。その彼女のお墨付きというのは、なかなか縁起がいいかもしれない。
「では、お先に失礼します」
会釈して去っていく千川さんを見送り、再度モニターに映った写真に目を向ける。
疑問はもうひとつある。この少女は、なぜアイドルを続けている?
憧れを持つのは珍しいことではないだろう、そうでなければこの業界が成り立たない。しかし、度重なる事務所の倒産という目に遭って、なおもそれを目指し続けられる人間が、いったいどれほどいるだろうか。
『百折不撓』という言葉が頭に浮かぶ。
白菊ほたるはなぜ折れない? なぜあきらめようとしない?
疫病神と呼ばれるそれが、本当に固有の体質だというのなら、彼女は生まれてからずっとそれを背負って生きてきたということになる。
13歳。
中学1年生。
13年間、絶え間なく続く不幸とは、いったいどのようなものだろう。
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