1: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:33:40.04 ID:n8F8dLyB0
夢を見た。
一人の少女の夢だ。
少女が憧れたものはキラキラのステージ、オシャレな衣装、響く歌声、鳴り止まぬ歓声。
一目見た時から、少女はアイドルに憧れていた。
そんな少女の憧れが形となったのはつい最近のこと。
たまたま彼女を知ったアイドル事務所のプロデューサーが彼女をスカウトしたことで、彼女は念願のアイドルとしての一歩を踏み出した。
動き出した日常は目まぐるしく、しかしプロデューサーや事務所の仲間だけでなく、ファンからの手助けを受けながら彼女は日々を笑顔で過ごしていた。
それは本当に嬉しくて、楽しくて、どうしようもなく幸せな毎日で。
だから彼女は涙を流しながらこう言った。
「さようなら」
「え……」
その日プロデューサーはいつもより早く目を覚ました。
なぜ自分が泣いているのかはわからなかった。
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2: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:34:54.29 ID:n8F8dLyB0
「不思議な夢、ですか?」
千川ちひろは事務所で仕事をしながら、プロデューサーと雑談に興じていた。
なんでもプロデューサーは不思議な夢を見たらしい。
3: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:35:46.93 ID:n8F8dLyB0
それは本当に些細で、今プロデューサーが抱えているものと大差ない感覚かもしれないが。
「私、最近プロデューサーさんにお茶淹れてましたっけ?」
昨日や一昨日の記憶を振り返っても、プロデューサーにお茶を淹れた覚えがない。
4: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:37:26.59 ID:n8F8dLyB0
島村卯月は渋谷凛、本田未央の二人と衣装部屋にいた。
今は次の仕事までの空き時間。
未央がちひろの私物であるコスプレ衣装がしまってあるクローゼットを見つけたので、三人で見ているところだ。
5: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:38:18.32 ID:n8F8dLyB0
凛が未央を睨んで黙らせた隣で、衣装を漁っていた卯月の手が止まった。
「……あれ?」
「どうかした卯月?」
6: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:39:36.06 ID:n8F8dLyB0
片桐早苗と川島瑞樹は仕事後の集まりについて相談していた。
「瑞樹ちゃん、今夜どう?」
「いいわね。いつものお店にする?私は明日オフだから他の場所でもいいわよ」
7: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:40:49.73 ID:n8F8dLyB0
一ノ瀬志希は不思議な機械を片手に、事務所を探索していた。
見かけた二宮飛鳥が問いかける。
「天才娘。さっきから何をしているんだ。あとその機械はなんだ?」
8: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:41:41.03 ID:n8F8dLyB0
あの一ノ瀬志希が自身の嗅覚の異常を疑っているという事態に、飛鳥はとっさの反応ができなかった。
そんな飛鳥を楽しげに眺めた後、志希はふとどこか遠くを見るような目になった。
「今朝事務所にきたら、知らない匂いだったんだよ」
9: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:43:08.89 ID:n8F8dLyB0
池袋晶葉は八神マキノのもとを訪れていた。
「貴女のデータを?」
「ああ。見せてほしい」
10: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:44:22.84 ID:n8F8dLyB0
「貴女に関するデータとして収集はしているわよ。……はい、これね」
開いたページにはウサちゃんロボの作成理由やスペックについて記されている。
「おい、設計図まで載ってるじゃないか」
11: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:45:24.46 ID:n8F8dLyB0
言われてみれば、晶葉の作るロボはもっと機械チックな見た目をしている。
「そっちの方がカッコいいからな!」
晶葉の感性についてはノーコメントでマキノは思いつく理由を考える。
12: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:46:40.03 ID:n8F8dLyB0
前川みくと多田李衣菜はレッスンルームで新曲の練習をしていた。
だが歌を合わせている最中、李衣菜が急に歌うのをやめてしまった。
「李衣菜チャン。歌うのやめちゃうなんてどうしたにゃ?」
13: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:47:40.46 ID:n8F8dLyB0
だってそれは、みくも曲を貰った時から。
「みくちゃんだって、本当は同じこと思ってるんじゃないの?」
「……っ!」
14: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:48:36.79 ID:n8F8dLyB0
依田芳乃は本日何人目かになる相談を受けていた。
「そっか。ごめんなよしのん。変なこと聞いて」
「よいのでしてー。力になれず申し訳なくー」
15: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:49:28.26 ID:n8F8dLyB0
悩む芳乃にまた新しい来客がやってきた。
「芳乃、いるか?」
来たのはプロデューサー、そして彼もまた他の皆と同じような表情をしている。
16: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:50:21.77 ID:n8F8dLyB0
何かが足りない。
その日目覚めた時から、誰かがそう感じていた。
もしかしたら地球にいる皆が。
17: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:51:42.15 ID:n8F8dLyB0
『記憶・記録消去処理は完全に遂行されました。貴女がこの星にいた痕跡は無事に消去されました』
『お疲れ様でした。迎えの船が到着するまでお待ちください』
その日の早朝、安部菜々は自宅のアパートでウサミン式記録消去装置がその役目を正しく遂行したことを確認していた。
18: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:52:41.77 ID:n8F8dLyB0
キラキラのステージ、オシャレな衣装、響く歌声、鳴り止まぬ歓声。
すべてのウサミン星人が知らない、感情の力がそこには溢れていた。
初めて見たアイドルの衝撃はすさまじく、菜々はどうにかあの場に溢れていた力をウサミン星の目的に利用できないかと考える日々を過ごし、考えるうちにウサミン星とは関係なしにただアイドルになりたいと願うようになっていた。
19: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:53:29.45 ID:n8F8dLyB0
ウサミン式記録消去装置。
星の調査に向かうウサミン星人に配備される、ウサミン星の技術力の結晶である。
調査前にこの装置を起動させておき、調査終了時にボタンを押せば、その星から対象のウサミン星人がいたという記録がすべて消去される。
20: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:54:18.21 ID:n8F8dLyB0
全力で挑んだライブの映像も、涙をこらえてレコーディングしたCDも、今ではもう地球には存在しない。
共に歩んだ仲間達、応援してくれたファン、スカウトしてくれた彼の中にも私はもう存在しない。
菜々の手で消してしまった。
21: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/09/18(月) 22:54:46.52 ID:n8F8dLyB0
まずは自宅。
部屋を出て、今まで拠点としていたアパートを眺める。
入居当初は知らなかったけれど、どうやらこのアパートは地球人基準からしても古くてボロい場所だったらしい。
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