9:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 00:26:50.96 ID:OBhwihw10
ようやく目が見えるようになった。樹々の隙間から差し込む暖かい光は、きっと朝陽のものだ。
俺は昨日の夕方から今朝までずっと眠りこけていたんだ。はあー、情けないったらありゃしねぇ。
身を起こすと、俺は皮張りのベッドから飛び降りた。よくもまぁ、動物の皮と骨だけでここまで立派な寝床が作れたモンだよ。
あの少女は一体何者なんだ?
10:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 09:10:11.06 ID:z7qpNiwHO
アイシャ「魔王の居場所ねぇ……その前にひとつ、あたしの頼みを聞いちゃくれない? あんた、勇者様なんだろ?」
勇者「ああ、いかにも。ところで図々しいとは思うけどさ、腹が減ってるんで飲み食いできる物はあるかい?」
アイシャ「もちろんあるよ。依頼料と考えれば安いものさ。ついてきな!」
11:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 09:55:13.29 ID:z7qpNiwHO
アイシャ「あたしを金持ちにしてくれ。それはもう、豪邸が何件も立つ程の大富豪に」
勇者「はっ?」
両手を大きく振り上げて説明する女狩人を、俺はぼんやりとした目で見つめていた。こいつは何を言っているんだ? そんなランプの魔神にするような願いを俺に頼んでどうする。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 12:59:05.20 ID:z7qpNiwHO
朝食を済ませた俺は、無性に小便がしたくなった。思えば昨日の朝から、一回も厠に行っていない。道理で股間の自己主張が激しくなったわけだ。俺はアイシャが笛を吹いていた岩に立ち、ズボンを下ろして用を足した。
小便の匂いにつられて、魚が集まってくる。イヤー、壮観壮観。仰げばパピプペポ山。
勇者「あれは山なのか? まるきり崖じゃん。急峻な断崖だよ! 滑り台としては0点だね!」
13:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 17:00:38.31 ID:z7qpNiwHO
武器が必要だった。獣を狩るにも、魔族を殺して金を奪うにも、族長のカワイイ娘を救うにも。全てにおいて、武器が大前提だ。特に片手剣がいい。ダンビラみたいな幅広の刀や、レイピアのような細剣ではいけない。適度な大きさのThe Swordが欲しいんだ。
武器の旨をアイシャに伝えたら、弓で思い切り殴られた。イテェな!
アイシャ「勇者はあらゆる武器をマスターせねばならない。幼児でも知っている基本事項よ。あんた、騎士学校で一体何を学んできたんだ」
14:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 17:46:08.94 ID:z7qpNiwHO
移動式の住居を畳んだアイシャは、俺を荷物係にして颯爽と前を歩き始めた。クソ重い。両肩が外れちまいそうだ。俺は勇者様だぞ。偉大なアブなんちゃらの子孫なんだぞ。隷属民の狩人如きが、良い気になりやがって。
自然の前では人間の法など、まるで無力。
あー、吐きそう。
勇者「オイ! 松林に入ったみてぇだが、道はこっちであってんの!? 闇雲に進むだけじゃ、道は開けないと思うぜ!」
15:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 18:20:08.36 ID:z7qpNiwHO
俺の名はユ・ウシャー。騎士学校からドロップアウトして勇者に転職。社会の鎖から解放され、意気揚々、魔王城へいざ行かんと故郷ジャララバードを出立した……はずだった。
それがヒースの原野で変態騎士に追いかけ回され、川に落ちて、暴力女の配下になっている。
朝から歩き続けて、もう日暮れ。脚が痛くて、これ以上進めそうにない。
勇者「ったく、嫌な世の中。勇者なんてクソ喰らえだ。やってられっか」
16:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 23:59:19.61 ID:OBhwihw10
老婆「こんばんは、旅の方。もうすぐ夜の帳が下ります。さぁさ、中にお入りください」
勇者「あの、お代は……」
老婆「久方ぶりのお客様じゃ。別にお代はいりませんよ」
17:名無しNIPPER[saga]
2017/07/05(水) 00:25:18.57 ID:Cvr2387M0
近づいてみると、そいつは人ではなかった。
顔かたちはまるっきり人間なのだが、白い猫の耳と尻尾が生えているのだ。いわゆる獣人? または亜人?
上半身が裸なせいか、ピンク色の乳首が露わになっている。エロい! って邪な考えを持ってはならん! 首を振って気を取り直す。
この猫娘も俺と同じく旅人で各地を巡っているんだろうか。俺は猫娘の耳をつねり上げた。
18:名無しNIPPER[saga]
2017/07/05(水) 00:42:08.06 ID:Cvr2387M0
その瞬間、猫娘の姿が煙と消えた。
猫娘だけでなく老婆も宿屋自体もゆらゆら陽炎の如く揺れて消え去った。
あとに残されたのは、下半身を露出させた俺だけだった。
なんだよこれ……露出狂なのは俺の方じゃないか!
19:名無しNIPPER[saga]
2017/07/05(水) 09:51:38.88 ID:RoJC38a7O
山の麓まで行くと、へんちくりんな建物があった。すべすべした透明な岩が螺旋階段のように渦を巻いており、その頂上に星型の(これは黄金色に輝いてんだけど)奇妙な家が見える。
なんじゃこれ。アイシャも首を傾げたままだ。
アイシャ「変な建物だねぇ……あたしはここら一帯をいつも散策しているけど、こんな建物初めて見たよ。建築者の目的は何だろうね?」
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