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真・恋姫無双【凡将伝Re】4
- 383 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/14(火) 21:31:25.32 ID:HaclHHix0
- 「なんや、恋の本気の一撃喰ろうたて聞いたから死んだかと思たらえらい元気そうやないか」
「ご挨拶だな。まあ、こう見えて不死身なもんでね。あれしきの怪我、どうということはないのさ」
「ふうん。別に強がりってわけやなさそやな。ま、ええわ。
うちは七面倒くさい口上とかは苦手やさかい、単刀直入に用件を言うで」
まあ、用件自体は予想通りである。無条件降伏と言う奴だ。
「勝ち目があらへんからなあ。これ以上ついてきてくれた兵達を犠牲にするわけにもいかんわ。一か八かの博打にも負けてもうたしなあ」
せやから、と苦い笑みを浮かべながら言葉を繋ぐ。
「これ以上の抵抗は無意味やろ。月と賈駆っちにもまあ、義理は果たしたわ」
いっそさばさばと、張遼は呟く。そこには深い苦悩の跡が見て取れ、揶揄なぞできようはずもない。
「やからまあ、あんじょう頼むわ」
「おうよ。悪いようにはせん。知らん仲じゃないしな」
「ん、おおきに……」
用は済んだとばかりに去ろうとする俺に、らしくなく弱々しい声が届く。
「なあ、月と賈駆っち。なんとかならんか?」
きっとそれをずっと聞きたかったんだろう。そのために彼女らは必死になっていたんだろうし。だが、その問いに対する答えは決まっている。既に決まっているのだ。
「ならんな」
「……そ、か」
最早、是非もなし。
ただし、このろくでもない事態を引き起こした奴についてはきっちり落とし前をつけてやる。
らしくなく、悄然とした張遼を室に置いたまま室を辞する。そして俺はぎり、と歯を食いしばる。
虎牢関を落としたことに昂揚なんぞ欠片も感じない。最高にくそったれな気分である。
後は、洛陽をどうするかだけだな。
こっからはマジで慎重にいかんと、なあ。
- 384 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/14(火) 21:31:53.06 ID:HaclHHix0
- ◆◆◆
さて、虎牢関を落としたら次は洛陽なのだが、一旦ここで足踏みである。なんせ董家軍の主力が降伏したんだから、これ以上干戈を交える必要はない。まさかに洛陽に攻め寄せるわけにもいかんからに。
虎牢関を落として一番助かったのは、洛陽とのやり取りにかかる時間が大幅に短縮されたことだ。メイン軍師たる風とのやり取りがスムーズになったのは本当に大きい。これには稟ちゃんさんもにっこりである。
ちなみに使者には毎回張?を派遣している。人材の無駄遣いと言うなかれ。ここのやり取りは本当に重要だから、万が一にも使者が途中でぶっ殺されたり買収されたりするわけにはいかんのである。
これが他の場合であれば何人も色んなルートで書状を送ったりするんだが、張?ならば問題はない。だって多分素で俺より強いしね。それに無論諜報畑だから色んな、俺の知らない機微にも通じているだろうし。うむ、餅は餅屋、である。
「随分と張?君を買ってらっしゃるんですねえ」
「うお!」
気配もなくいきなり耳元でふう、と息を吹きかけつつ囁いてきたのは七乃だ。前張家の当主であり、今も穏然と影響力を持っている。
と思う。
その隠密スキルは大したもんで、ここまで密着されるまでほんと察知できなかった。ガチで。
いや、俺の気配察知スキルが低いという説もあるけどね。
「脅かすなよ。寿命が縮んだかと思ったっての」
「おやおや。おやおやおや?
寿命が縮んだのはこっちですよ?まさかほんとにあの、人中の呂布と遣り合うとは思ってませんでしたからね。
いいですか?二郎さんは、二郎さんが思っている以上に重要人物なんですよ?死なれたら色々と困るんです」
にこにこしながらしなだれかかってその身体の柔らかさを伝えつつ耳をがじり、と齧るという高等テクニックを駆使しながらそんなことを言う。いやほんと、ごめんて。
「いやいや、俺もこんなところで死ぬつもりは全くなかったし。あれはあれで蓋然性があったし」
「ふうん?本気でそういうこと言ってるあたり救われませんねえ。美羽さまなんて、ほん
と、どれだけ枕を涙で濡らされたか。それだけでも万死に値しますよ?」
マジか。これは後でご機嫌伺いに行かんといかんなあ。嫌味混じりでもそういうことをきちんと伝えてくれる七乃にはマジ感謝である。流石袁家の諜報を一手に握っていただけのことはある。そういう機微は超一流だね。
いや、そういうのをきっちりしとかんと意外と組織の円滑な運用って難しいのよね。中元歳暮、年末年始の挨拶マジ重要ってなもんである。
とは言え、聞いてくれよ。
「だってさあ、恋を軍で迎え撃ったら見失って本陣への侵入を許したかもしれないじゃん。
それに、あの子万単位で兵の相手できちゃうからな。常備軍たる袁家の兵卒をそんなとこで使い捨てにはできんて」
徴兵したら揃うってわけじゃあない。時間も金もかけてるのだよ、袁家の兵には。何せ常備軍なんだから。
「六万の兵卒を使い捨てにしてもよかったと思いますけどね。個人的には。
ま、そこは二郎さんと私の認識の差でしょうね」
「まあ、最悪俺が討死してても袁家勝利は揺るがなかったろうしな。稟ちゃんさんも保証してくれたぞ?」
「ほう。あの女狐がそんなこと言って二郎さんをけしかけたのですか。これはいいこと聞いちゃいましたねー」
「え?俺余計なこと言った?」
「いいええ。そんなことはないですよ?ただ、ですねえ。二郎さんの価値について見解の相違があるというだけです。そうです。この戦いだけであればいいでしょうが、二郎さんがいなくなっちゃったら、結構めんどくさいことになるんですよ?」
ああ、そっか。紀家の跡継ぎとかいないしな。そういや文も顔もか。いや、軽挙妄動しちゃったかもわからんね。
「……分かってなさそうですねえ、その顔だと。ま、いいです。所詮些事ですから、貴重なお時間ですものね。失礼しちゃいました!」
いやいやいや。
「いや、ちょうどいい。呼ぼうと思ってたんだ」
「おや?珍しいですねえ。ああ、戦(いくさ)の後は激しいですもんね。
じゃあ、ちょっと失礼して……」
おもむろに服を脱ぎだそうとするのを慌てて止める。
「違う、違うから!いや、別にそれが嬉しくないってわけじゃあないけど、そうじゃなくて!そうじゃなくってだな!本当に相談したかったんだってばよ!」
こっから先について、な。
一応稟ちゃんさんには確認したし、これから風からの添削も来るとは思うが。やはり謀略と言えば七乃である。にこにことしたままの七乃に、俺が思う所を語ったわけである。
- 385 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/14(火) 21:32:44.96 ID:HaclHHix0
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
題名案は
陥落
です
ええ感じのやつ、オナシャスる
- 386 :赤ペン [sage saga]:2020/07/16(木) 12:16:57.99 ID:nd/JbgFZ0
- 乙でしたー
>>382
>>普通骨折とか月単位で治癒に時間が必要だと思うんだが、もう一刻もすれば痛みも完全に消えそうである。 それが分かるとか医学の心得でもあるのか…抗生物質作らなきゃ!
○普通骨折とか月単位で治癒に時間が必要だと思うんだが、もう少しすれば痛みも完全に消えそうである。 もしくは【もう一刻もすれば痛みも完全に消えるそうである。】素人診断するなら時間はふわっと、時間を指定するなら華佗の診察によるものにした方が自然だと思います
>>流石に全力で逃げられると、流石の星でも追撃を諦めないといかんくらいであった。 【流石】が2階続くと違和感が
○恋に全力で逃げられると、流石の星でも追撃を諦めないといかんくらいであった。 もしくは【流石に全力で逃げられると、あの星でも】とかどうでしょう
>>えらい剣幕で俺のとこに来て、顔を見るなり「あほ!」ときたもんだ。 間違いじゃないよ?あくまでも好みの問題で
○えらい剣幕で俺のとこに来て、顔を見るなり「この、どあほう!」ときたもんだ。 むしろ【こん……ドあほう!】とかの方が雰囲気出るかな?
>>「六万の兵卒を使い捨てにしてもよかったと思いますけどね。個人的には。 あぁ〜重い愛が心地よいんじゃあ…実はこれって下手したら6万が無駄死にして失敗する可能性があってなお言ってるよね…基本的に美羽様以外は自分も含めてみな平等に無価値と見てそうな彼女が二郎のことは美羽様の次あたりにおいてそうな良き描写でございました
一応ここからでもどちらかだけなら助ける道はあるんだけど…それしても助けられた方は救われないんだよなあ
両方を救う道はすごい無理をするしその後で一体どれだけの血が流れるかを思うと…二郎ちゃんは選ばないんだろうなあ
そういえば思ったんだけど二郎ちゃんを凡将呼ばわりしていいか微妙になったよね…少なくとも呂布に戦いを挑もうとするだけでネジ外れてるわ
そして分かってないんだろうけど君が呂布に打ち取られて、かつ呂布が君の遺体を持ち帰らなかった場合降伏の受け入れは…
- 387 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/16(木) 20:37:18.73 ID:54pRcYUb0
- >>386
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
>あぁ〜重い愛が心地よいんじゃあ…
えへへ
>実はこれって下手したら6万が無駄死にして失敗する可能性があってなお言ってるよね…
これはその通りですね
>基本的に美羽様以外は自分も含めてみな平等に無価値と見てそうな彼女が二郎のことは美羽様の次あたりにおいてそうな良き描写でございました
貴重な?七乃さんのデレでございました。七乃さんが自覚してるかどうかは、どうなんでしょねw
>一応ここからでもどちらかだけなら助ける道はあるんだけど…それしても助けられた方は救われないんだよなあ
ほむ。どちらも覚悟完了してますからねえ。
>両方を救う道はすごい無理をするしその後で一体どれだけの血が流れるかを思うと…二郎ちゃんは選ばないんだろうなあ
おとぎ話の主人公なら、それでも両方救うのでしょうけどね。凡人だからね。ある意味諦めてますからね。
>そういえば思ったんだけど二郎ちゃんを凡将呼ばわりしていいか微妙になったよね…少なくとも呂布に戦いを挑もうとするだけでネジ外れてるわ
関羽とやり合ったり、呂布と弓比べしてるから(記憶曖昧)セーフ?
>そして分かってないんだろうけど君が呂布に打ち取られて、かつ呂布が君の遺体を持ち帰らなかった場合降伏の受け入れは…
こわや、こわや……っ!
- 388 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/17(金) 07:28:17.89 ID:HQeadq550
- てすと
張?
- 389 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/17(金) 07:28:43.85 ID:HQeadq550
- てすと
張郃
- 390 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/17(金) 07:46:21.14 ID:HQeadq550
- 「おや、虎牢関が落ちましたか。予想より早かったですねえ。
しかし、二郎さん自ら矛を交えるというのはいただけません〜。これ、誰もお止めしなかったのですか?」
小首を傾げる少女の表情は眠たげであり注意力散漫といった風ではあるが、それは擬態であろうと張郃は推測している。
なんとなれば目前の少女――程立――は単身洛陽に残り、後方より董家軍に有形無形の被害を与え続けていたのだから。まあ、その功績はごくごく限られた人物しか知ることはないであろうが。
「ふむ。紀家当主の強い意向とのことだったな。それに文、顔の当主までが賛同したならば否やはないだろう」
反対意見も根強くあったが、押し切られたというのが実際のところだと張郃は答える。
「それでは致し方ありませんね〜。まあ、それは置いておきましょう」
そのような綱渡りをさせたのは自分にも責任があると程立は追及の手を緩める。内心忸怩たる思いはあるのだが、毛ほどにも顔には出さない。
「それでは参りましょう。護衛の方はお願いしますね?」
「ふむ。それは一向に構わんが……」
この期に及んで誰と会うのだという視線での問いにくふふ、と程立は笑う。
「今日は忙しいですよ〜。まずは賈駆さんのところですねえ。それからはまあ。その後に決めましょうか〜」
ふむ、と張郃は頷く。
「もとより異存はない。虎穴に入ったとしても、君一人くらいならばなんとでもしてみせよう」
「これは心強いですねえ。そのような事態は起こらないとは思いますが、その時はお願いします〜」
にこやかに笑う程立。その胆力を目にして、張郃も感嘆の念を惜しまない。
そこいらの自称武人よりもよほど腹が据わっている。
「いえいえ、風は出が庶人ですから〜。この程度は鉄火場とは言えません〜」
頼りになる護衛もいますしね、と柔らかな笑みを浮かべて言う。
「そう言えば二郎さんと初めてお会いしたのも野盗に襲われて万事休す、という時だったのですよ。ええ。あの頃は毎日が生きるか死ぬかでしたねえ」
程立は刹那どこか遠くを見るような目つきをする。
「ふむ。鉄火場にて狼狽されるよりは余程いいな。では、参ろうか」
彼らが向かう先は紛れもなく戦場。血の一滴流れることもない戦場。だが、その結果いかんでは屍山血河が生じるであろう。
「はいはい、よろしくなのですよ〜」
そのような気負いなぞ一切なく程立は含み笑いを一つ漏らすのみであった。
◆◆◆
- 391 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/17(金) 07:46:47.29 ID:HQeadq550
- 「……そう、虎牢関が落ちたの」
賈駆は嘆息する。伝令より早くもたらされたその悲報。それが意味するところを解さないほど鈍ってはいない。
「どれだけ袁家の諜報力は凄いのよ。まあ、今更だけどね。虎牢関失陥については今初めて聞いたわよボクは」
その一言でも千金の価値がある。どうやら賈駆はここに至って情報を出し惜しみするつもりはないようである。
「ではでは、単刀直入にいきましょかね〜。
董卓さんはご無事ですか〜?」
その言葉に賈駆は僅かに身を震わせながら首を横に振る。
ふむ、とばかりに程立は数瞬瞑目する。
双眸には深く隈が刻まれ、疲労の色がいかに濃くあろうとも賈駆の能力については高く評価しているのだ。
その彼女が、執金吾――洛陽の治安を司る役職である――の権限をもってしてもその足跡が掴めぬというのはどういうことかと。
そして、至る。
「――さて、かしこき方についても?」
その言葉に賈駆はバリ、と頭を掻きむしる。緑の黒髪が乱れるのを惜しいな、とあの青年ならば思うのであろうか。益体もないことを程立は思う。
「――初手でやられたわ。禁軍は皇甫嵩の手の内。禁裏にボクの手は及ばない」
「結構。ではこれにて失礼するのですよ〜」
用は済んだとばかりに程立は室を辞そうとする。
「待って!」
「……何か?」
その、程立の問いに賈駆は口ごもる。
「え、その。ね。あの……」
いっそ優しい貌で程立は応える。
「後はお任せくださいな。ええ、後始末はきっちりと。それはもうきっちりと致しますから。
――二郎さんと、お会いする機会も作りましょうからに」
賈駆は瞠目し、しばし言葉を失う。そして辛うじて言葉を捻りだす。
「月を、よろしく。そして。
――二郎にも、よろしく伝えてちょうだい」
にこり、と無言で程立は踵を返す。ここからは時は千金に値するのだ。寸暇も無駄にできない。
「やれやれ、厄介なことなのですよ」
だがまあ、と思う。洛陽に踏みとどまっていたのは無駄ではなかったと。
矢継ぎ早に指示を出すそんな程立に張郃は無言で付き従う。寄り添う影のごとく。
- 392 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/17(金) 07:47:28.63 ID:HQeadq550
- ◆◆◆
「なんと、虎牢関がもう陥落したというのか」
嘆息交じりに劉協は瞑目する。西の函谷関と並び称され、天下に鳴り響いた要害がこうもあっさりと落とされるものかと。
「まあ、それは気にせぬがよいでしょう。なにせ守護するのが董家軍。かの軍は騎馬を以って敵を討つが本領です。もとより拠点の防御については不得手極まる」
相性が致命的に悪かったと皇甫嵩は首を振る。
彼の後ろに控える王允と李儒は身じろぎひとつせずに皇甫嵩と劉協のやり取りを注視している。
今や賈駆がなりふり構わずただ董卓の行方を追うことに全力を尽くしている現状、洛陽に於いて漢朝を動かしているのはこの二人である。政務を劉協が、治安や軍事――と言っても洛陽に限られるが――を皇甫嵩が担っている。
お世辞にも大過なく運営しているとは言い難いが、それでもいいというのが両者の共通した認識である。あくまで董卓が相国として全権を担っている。暴政ならば董卓の責任、うまく回ったら自分たちの尽力の成果ということだ。
「しかし、袁家の怒りは予想以上のようでした」
いささか芝居がかった仕草で皇甫嵩は肩をすくめる。
「む。まあ、無理もないか。当主自らが身の危険を感じての逃避行。聞けばあの豪奢な髪をも自ら切り捨てたとか。いや、もったいないことだ」
劉協はかつて見かけた袁紹の、光輝を背負うが如くに輝いていたその容貌を思い出して惜しむ。
「それだけではありません。董卓の手の者が袁紹殿の逗留地を襲った際に、かの匈奴大戦よりの古参の宿将雷薄、更には袁家の幹部候補生が多数討死しております。
あれは、いかにもまずかった」
せめて、やるならばきっちりと袁紹の首級を上げないと。それができないからこうなる。皇甫嵩は刹那その秀麗な顔を歪めるが、気を取り直して言葉を続ける。
「そう、袁家は本気です。勅すら無視するほどに」
「うむ、そのことよ。何進より事前に密勅があったというが真だろうか」
劉協は懸念を口にする。切り札の一つであった勅命。それをすら袁家はものともしない。勅を以って勅を制するなぞ埒外にもほどがある。
「……なんとも言えないですね。ただ、先ほど程立という人物と話しました。かの怨将軍紀霊の腹心です。何とも読めない人物でしたが……」
茫洋と、掴みどころのないその言動には流石の皇甫嵩もその真意を掴むのは容易ではなかった。無論それは意図的なものだ。
こと鉄火場修羅場をくぐるという意味において、程立の経験は皇甫嵩を遥かに凌ぐ。火花が散るようなその戦場での一挙手一投足に至るまで細心の計算に基づくものである。例え傍目にはいささか呑気な小娘に見えようとも。
その程立をして最大の警戒を抱かせる皇甫嵩こそ傑物であったろう。失意のどん底にある賈駆から情報を吸い出して尚、傍らに張郃を控えさせていたのは故あってのことなのだ。
けして程立は相手を甘く見ない。俯瞰し太極から見据えるのが彼女の本領だからして。
「ある程度の流血はやむを得ないでしょうね」
その言に胡乱げに劉協は問う。
「いささか抽象的だな。袁家は何を求めている?まさか帝位なぞということはなかろうな」
「袁家は北方の防壁にして漢朝の藩屏。そこは揺るぎませんよ。ただ、袁術殿が輿入れする以上、帝位は……」
「劉弁のものとなる、か」
苦さを隠そうともせずに劉弁は口惜しそうに嘆く。あの惰弱、無能、無気力の凡人に帝位を、至尊の座を再び与えねばならないのか、と。
「ですが、劉協様におかれましては陳留王の地位を用意する準備があるとのことでした」
隠居隠遁の必要もなしということである。むしろ、これからも漢朝に影響力を保てるということ。
「ふむ、中々に殊勝ではないか。いや、漢朝の行く末を見れば当然の判断か……」
つい先ほどまでは偽帝として討たれる可能性すらあった劉協は安堵する。なかなか袁家も分かっているではないか、と。
「ええ。ですがここは一度お姿を隠すべきかと思います。邪知暴虐の董卓とは無関係であるということを示すためにも。あれと一連托生する気はないのでしょう?」
可笑しげに、唄うような皇甫嵩の言に内心苦々しいものを感じながらも劉協は頷く。
「そう、だな。一時の雌伏。致し方あるまいて」
返り咲く際には、と劉協は思いを巡らす。
なに、宮中は如何様にもなる。宦官勢力は曹操が押さえるのであろうが、それはきっと袁家の掣肘により大幅に打撃を受けるだろう。
ならば、地力に勝るであろう自分が主導権を握ることができるはずだ。
同床異夢。ほぼ同じ思惑を抱いているのを知ってか知らずか。皇甫嵩と劉協は比較的穏やかにその場を後にするのであった。
- 393 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/17(金) 07:48:03.59 ID:HQeadq550
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
タイトル案は「波紋」です
ええ感じのやついただけたら嬉しいんやなって
- 394 :赤ペン [sage saga]:2020/07/18(土) 12:19:08.89 ID:0mmXyFUK0
- 乙でしたー
>>392
>>せめて、やるならばきっちりと袁紹の首級を上げないと。それができないからこうなる。 前の言葉からすると
○せめて、やるならばきっちりと袁紹の首級を上げないと。それができないならば次に繋げるための布石にするべきだ。それすらできないからこうなる。 雷簿の死やら何やら…生け捕りにしてればまだ交渉材料になったのに…(なお覚悟完了の死兵…机上の空論ってやつだな
>>俯瞰し太極から見据えるのが彼女の本領だからして。 間違いではないですが好みとしては
○俯瞰し太極から見据えることこそが彼女の本領だからして。 とかどうでしょう
>>貴重な?七乃さんのデレでございました。七乃さんが自覚してるかどうかは、どうなんでしょねw
つ【袁家二の姫と女郎蜘蛛】 彼女はきっちりと二郎が自分にとって特別だと気付いていますですよ
>>関羽とやり合ったり、呂布と弓比べしてるから(記憶曖昧)セーフ?
水木しげるとか手塚治虫とか羽生善治とか織田信長とか徳川家康とかに転生した一般人が本人と同じことをできても中身は凡人認定するかっていうと…しないんじゃないかなあ?
>>茫洋と、掴みどころのないその言動には流石の皇甫嵩もその真意を掴むのは容易ではなかった。
真意を掴むのは容易ではなかった(掴めたものは真意とは言っていない)ですかね…見ているものが違い過ぎる凡人の考えを知らない以上彼女の目指すものを読み取るのは無理な気がする
李儒はともかく王允の立場がよく分からんな…ここまで知って良いというか知るべき立場なのか…能力があるのは分かるけどそれはそれとしてクーデターまがいのことに積極的に与する程権力好きって印象もないし首脳陣には組み込まれてないと思ってたけど違ったのか
- 395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/20(月) 00:00:03.99 ID:8CW2ywaU0
- otuです
一刀たちにはぜひ空気読まずにばっちょさんに袁家へのとりなしをお願いしてもらいたいのだが・・・董卓たちを救うために
- 396 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/20(月) 06:28:58.53 ID:A34dce7M0
- >>394
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
>雷簿の死やら何やら…生け捕りにしてればまだ交渉材料になったのに…(なお覚悟完了の死兵…机上の空論ってやつだな
これはマジでそうです。
>水木しげるとか手塚治虫とか羽生善治とか織田信長とか徳川家康とかに転生した一般人が本人と同じことをできても
たとえがすごいw
熱帯で妖怪見たり、医学部入ったりとかむーりー
敦盛踊れないし三河武士の頭領とかやってられないしw
>李儒はともかく王允の立場がよく分からんな…
元から皇甫嵩の手飼いという設定、確かに解説していなかった気もします。どっかで付け加えておくか。
>>395
どもです。
>一刀たちにはぜひ空気読まずにばっちょさんに袁家へのとりなしをお願いしてもらいたいのだが・・・董卓たちを救うために
え?!よりによって馬家に?
多分翠の政治力のアカンさを幼女が察してインターセプトするんじゃないかなあ……っ!
あえての突撃も面白そうではありますね
- 397 :赤ペン [sage saga]:2020/07/20(月) 14:03:18.33 ID:8CW2ywaU0
- まあ手飼いだろうな、とは思ってたけどこういう場に連れ込むほどだったのか…とね
皇甫嵩って自分の頭の良さに自信持ってそうだからいざと言うときの護衛役はいてもこういう時の相談役みたいなポジションがいるのが意外だわ
水木さんとかが無理ならあれだ…ピース又吉で。転生得点に彼の書いた作品を完全記憶で
- 398 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/20(月) 22:25:35.98 ID:A34dce7M0
- >>397
どもです。
>まあ手飼いだろうな、とは思ってたけどこういう場に連れ込むほどだったのか…とね
どちらかというと、何進はそれでもそれを重用しないといけなかったという。
うーーん、でも実務というよりつながりですかねえ
>相談役みたいなポジションがいるのが意外だわ
そういう感じではないっすね
おっしゃるとおりです
使い捨てのコマですわ
>水木さんとかが無理ならあれだ…ピース又吉で。転生得点に彼の書いた作品を完全記憶で
勘弁してくだしあw
- 399 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/20(月) 22:54:49.98 ID:A34dce7M0
- 「しかしまあなんだね。陳留王とはまた張り込んだねえ」
むしゃむしゃと茶菓子を頬張りながら魯粛は程立に問う。陳留王は権威がありすぎるのではないかと。なんとなれば国政に口を出すことを認めたも同然であるのだ。
「そですか?妥当なところだと思うのですが〜」
くふふ、と陽だまりのような笑みを漏らしながら程立は応える。
「劉協どのを陳留王として封じる。これにより袁家が洛陽に兵を進めても至尊の座に座る彼は命脈を保つことが出来ます。彼が一番懸念していることはまあ、言ってみれば保身に尽きますから〜。これに否やはないでしょねえ」
「そこだよ。紀霊さんにしては甘っちょろいんじゃない?」
どこか不満げに魯粛は程立にぼやく。魯粛としては地味な後方支援に徹しながら期待していたのだ。苛烈なまでの、怨将軍たる紀霊が本気になって動いた時の酷烈さを。かつて郭図率いる義勇軍を貶め、殲滅せしめたように。洛陽の奥底に潜む汚泥をきっと焼き払うと思っていたのだが。その一端を担っていたのは魯粛ではあるし、だからこそ洛陽に派遣されていたと思っていたのである。
「とりあえずは慎重にいかないといけないのですよ。洛陽を火の海にするわけにもいきませんしねえ」
やけに主君たるあの青年は洛陽が戦禍に巻き込まれるのを気にしていた。防ごうとしていた。ならばそれに至る可能性を排除するべし。
「ああ、ちらっと聞いたよ。洛陽を焦土として諸侯軍の消耗を図る。更には長安に遷都するって与太話でしょ?正気の沙汰とは思えないね」
やれやれとばかりに魯粛はそれを一笑に付す。
「まあ、正気の沙汰かどうかはさておき、なんとも嫌な一手ではありますね。無論前提として、玉体を手にしていないと意味はないのですが」
それもそうかと魯粛は頷く。故に劉協との交渉はこの上なく重要だったのだろう。そして禁軍を掌握する皇甫嵩とも。
「まあ、よかったんじゃない?禁軍は諸侯軍の進駐に対して無血開城するんでしょ?」
「ええ。どだい、正面から禁軍単独では袁家軍単独にすら勝ち目はありません。ですが流石に洛陽を袁家の手で攻め寄せるのはいかにも世間体が悪いですからねえ」
「あれ?勝てばよかろうなのだじゃなかったっけ?」
- 400 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/20(月) 22:55:31.47 ID:A34dce7M0
- 袁家鉄の掟的なものを思い起こして問いただす魯粛に程立は苦笑して返答する。
「いえいえ、ここに至って勝つのは当然なのですよ。そして当代の袁家当主からは勝ち方についてもご指定頂いていますしね〜」
華麗とか優雅とか雄々しくとか。まあ、勝ち方を気にすることが許されるほど余裕がある、ということでもあろう。
「とすれば洛陽を灰塵に帰するわけにはいきませんしね」
くふふ、と笑う程立。そこを混乱に叩き落としておきながらどの口が言うのだろうか。脱力しながらも魯粛は更に問う。
「でもさ、皇甫嵩にしても劉協にしても傑物なんでしょ?まあ、そんなのが本気で抗戦するよりは取り込む方がいいってのも分かるんだけどさ。実際今の朝廷を牛耳ってる人らでしょ?
普通に考えて獅子身中の虫になんない?」
魯粛の問いにごもっともとばかりに程立は深く頷く。
「いやいや、魯粛さんのおっしゃる通りなのですね。ですが、それはそれで悪くありません。意外と袁家の戦略には合致しやしませんか?」
は思考を広げる。なんとなれば、離れてなお、袁家を引っ張るあの青年の軍師は自分であるのだから、との矜持とともに。
- 401 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/20(月) 22:55:58.94 ID:A34dce7M0
- はあ?と魯粛は反射的に返すが、刹那考えてぐぬぬ、と唸った。
「なるほどねえ。そういや紀霊さんの戦略というか方針は三竦みだっけか。当初の目論みでは何進、清流派、そして宦官を率いる曹操さん。それが今回の件で変わったと。何進の位置に劉協殿。それに対して清流派、曹操さんの立ち位置は変わらずかあ。なるほどね。
ぶれないんだね、紀霊さんの戦略って」
なるほどと魯粛が頷く。揺るがぬその方針。それは簡にして単。故に強固。それが察知されても揺るがぬその重厚さよ。
「まあ、今回の乱で曹操さんの権力基盤になるだろう宦官勢力には掣肘が加わるか。となると、ちょっと三つ巴にするには宦官が弱くない?」
その言ごもっとも。しかし、と程立は苦笑する。
「傍目にはそうなのですがね。如何せん曹操さん、そして側近の力を加味すれば、それでも削り足りないのじゃないかと思ってらっしゃるみたいですよ」
「ふうん。私は曹操さんと会ったことないからよくわかんないんだけど、そりゃ厄介だねえ。
でもさ、ちょっと思ったんだけどね。曹操さんの優秀さを置いといたらさ、普通に考えて清流派と劉協さんに組まれたら結構厄介じゃないの?」
「まあ、そこでこれまでの布石が活きてくるのですよ。幾度も上洛して漢朝を欲しいままにする機会あれども袁家は北方の護りに専念してきました。もはや中央に対する権勢欲なぞないと認識されています。
つまり」
董卓亡き後の洛陽、ひいては漢朝は文字通り三つ巴に混沌とするであろう。いやさ、なんとなれば曹操がいない今こそが次の漢朝を手にする好機。
漢朝という極上の餌を前に、清流派を率いる皇甫嵩と劉協が手を取りあえるものだろうか。
「二虎、相喰らう、ってこと?」
にまり、とした程立の貌に魯粛は苦笑する。
「そっか、そうだよね。そうなってもいいし、三つ巴になってもいい。前提が違うんだ。もう、違っちゃったんだね。袁術様が入内される宮中をそのままに放置するわけがない。その嚆矢でもある、か」
そう。袁家は確かに武門。だがその、二の姫が入内するにあたり権力闘争に無関心ではいられないであろう。そしてそこには張勲が傍らにいるのだ。
「ああ、なるほどねえ。袁家はこれまで通り我関せずと思わせておいて後宮に鬼札を潜ませる、か。いやあ、程立さんも悪だねえ」
「いえいえ、それほどでもないのですよ」
袁家の外において張勲という政治的化け物の真価を察していたのは、水面下で暗闘を繰り広げていた何進くらいのものだろう。李儒ですら怪しい。
「まあ、どう転んでもいいようにするのが風達のお仕事ですので〜」
その言葉を合図にやれやれとばかりに魯粛は重い腰を上げる。これからはまた、洛陽に集まり配分される物流を混乱させる簡単なお仕事が待っている。
正直気が滅入るその仕事についても、お役御免となるのは近いうちであろうが。
室を辞した魯粛を見送り、程立は顔を引き締める。
「あれで、身内に厳しい方ですからねえ、二郎さんは」
いっそ董卓一派を無罪放免するくらいに公私混同するのならばよかったのだが。
師匠筋の薫陶よろしくむしろ身内には厳しい処断を下すであろう。それはいい。
それはいいのだが。
「あれで、情に脆い方ですからねえ……」
どうせならば情に棹差して流されればいいのにと程立はくしゃり、と顔を顰める。
きっと余計なものを背負ってしまうのだろうなあと思うのである。
「或いはお側に侍っていた方がよかったでしょうか……」
あれで繊細なところもあるのだ。あの青年は苦悩するだろう。だがまあ、致し方なし。何事も万全で挑めることはないのである。
だから、責は果たした。洛陽進駐に於いて禁軍との武力衝突は避けられた。謀略の種も仕込んでいる。できることはしたはずだ。役割は果たしたはずだ。
それでも内心穏やかでないというのは。
「これが、心の贅肉というやつなのですかねえ」
やれやれ、と程立は肩をすくめる。どうにも仕える主に入れ込み過ぎているのかな、という自問と共に。
そしてその、自らの思いすら秤に乗せて程立
- 402 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/20(月) 22:57:06.73 ID:A34dce7M0
- そしてその、自らの思いすら秤に乗せて程立は思考を広げる。なんとなれば、離れてなお、袁家を引っ張るあの青年の軍師は自分であるのだから、との矜持とともに。
- 403 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/20(月) 22:57:55.31 ID:A34dce7M0
- 最後ちょっとミスりましたが本日ここまですー感想とかくだしあー
題名募集しまくりんぐですよ本当に!
「黒幕会議」
そこまで黒幕かなあ
- 404 :赤ペン [sage saga]:2020/07/21(火) 11:49:26.51 ID:rqiELf7R0
- 乙でしたー
>>400
>>は思考を広げる。なんとなれば、離れてなお、袁家を引っ張るあの青年の軍師は自分 誰だお前?
○程立は思考を広げる。なんとなれば、離れてなお、袁家を引っ張るあの青年の軍師は自分 まあ筆頭軍師なら彼女か
>>401
>>幾度も上洛して漢朝を欲しいままにする機会あれども これが来ちゃったかあ…難しい解説はググってもらうとして
○幾度も上洛して漢朝を縦にする機会あれども ホシイママの書き方は一般的には【恣】(好き勝手に、ぞんざいに)【縦】(したい放題、勝手気ままに)【擅】【独り占め、自分勝手に】の意味を含むので一番近いのは【縦】かなあ?
○幾度も上洛して漢朝を思う儘にする機会あれども そのものずばり《思った通りに》な感じで、もしくは【漢朝を思うがままにする】こっちはより独善性と言うか意味としては【(自分の正しいと)思うがままに】な感じですね
いっそ公私混同して、どうせなら情に流されて、と言う考え方が良いですね〜二郎ちゃんは本当にもっと恣にしても周りがどうにかしてくれるのよ?(それによってどれだけ多くの外側の一般人が切り捨てられるかを気にしなければ)
ぶっちゃけ背負い込み過ぎだよね、まあ二郎ちゃんとしてはどっちかと言うと殺すことで背負い込みたくないから生かす道を模索してるのかもしれんけど
そう考えると背負い込むというよりは囲い込むの方が近いか?沢山の人たちで手を繋いだ中で更に沢山の人を庇護しているというか…
- 405 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/22(水) 05:42:26.68 ID:AAQSJSuG0
- >>404
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
>二郎ちゃんは本当にもっと恣にしても周りがどうにかしてくれるのよ?
二郎ちゃん、愛されてますからねえ
知らぬは本人ばかりなり。なお知ったらもっと苦しむ模様
>ぶっちゃけ背負い込み過ぎだよね
これは正直そうですね。もっとお気楽に生きてもいいのに。
どの口がいうかというのは置いといて。。。
主人公してくれてます。
- 406 :赤ペン [sage saga]:2020/07/22(水) 11:37:51.39 ID:F8MZ8cvZ0
- 補足説明でもしとこうかな
【ほしいまま】が【欲しい儘】じゃない理由…なおこの説明は私の個人的意見によるものであり文部科学省その他による公式解答ではありません
例文として【パイを欲しいままにする】…食えよ。となります【欲しい】なら自分のものにすればいい
でも実際には【ほしいまま】は自分の好きなようにする、と言う意味が強く(もちろん独り占めにする意味合もありますが)【自分の物にする】と言うよりは【自分の物のように扱う】感じがするので【欲しい儘】だと意味がずれるんですね
で、【恣】は下心があるので【思い通りに、我儘勝手に】が強く出ます、また上の【次】は【欠】が屈んだ人、【二】が揃えるを意味するので【座ったまま部屋を片付けるようなぞんざいな】意味があります
【縦】は糸偏に従うで糸をのばすこと、ひいては伸ばす方向を決める意味も含み【追従させる】形になり【多くのものを】が強く出ます
【擅】は手偏があるので【自分の手で】ひいては【自分だけで、独り善がり】が強く出ます
ただメンドクサイのでそれぞれの持つニュアンスをそのまま抜き取って別の言葉に置き換えた方が楽です
きちんと文字の意味を理解したうえで使えば文章としての奥行とか厚みが出ますが…とりあえず例文でお茶を濁して終わります
董卓は洛陽を恣にする悪魔だ。……好き勝手、ぞんざいに扱う場合。感覚的には無駄遣いしてるニュアンスですかね
何進は漢朝を縦にする悪魔だ。……7好き放題、思い通りに扱う場合。感覚的にはワンマン社長とかの引っ張ってるイメージですね。大体助長になりますが
富も名声も擅にした天下の怨将軍だ。……一人で自由に、独占する場合。まあもう少し小さい範囲でまとめて【麻薬の流通を擅にするギャングのボス】とかでも良いのかな…他二つよりも使い勝手が悪いイメージ
- 407 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/25(土) 21:19:45.42 ID:mnDPLlQC0
- >>406
あうあうあうあうあー
非常に繊細なご指摘感謝とともに、あれなんです。
今回のご指摘でちょっと気付いてしまったことがございまして。
ここだけの話ですが、凡将伝では一部システム的なアレがアレする登場人物がいらっしゃいます。
まあ、CPB(カリスマピーチビーム)とか一刀さんとかは優遇枠ですのですが。
他にメタ的視点とか持ってるのは韓浩と風ちゃんでしたのです。
まあ、どっちも微細なものでしたが。
これ風ちゃんは周回プレイしてますね。
なるほど、本来星ちゃんも稟ちゃんさんも二郎ちゃんとこに来ない予定でしたもん。
そらそうですよね。あの三人まとめて登用とか、ね。
ということになりまして。
納得しました。風ちゃん、頑張ってるんやなって。
幾つものバッドエンドを、なんとなく認識してはるんやろうね。
ということになりそうです。
これは本当に赤ペン先生のご指摘から派生いたしました。
ああ、風ちゃんが手腕を発揮してしまうw
- 408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/25(土) 22:48:14.44 ID:3wo2Zapc0
- それって前回の周回の時(多分曹操に仕えた)に「この人の下はもういいかな」ってなったってこと?…ブラックだったんやな
- 409 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/26(日) 06:11:28.32 ID:6IY1Gbmq0
- >>408
どっちかっていうと、他の周回に二郎ちゃんいないんで
「お、特異点かな?ついてったろ」
くらいの軽いノリじゃないかと
- 410 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/27(月) 22:05:48.70 ID:z2f4tQkH0
- 虎牢関を落とした後、反董卓連合は一度その軍勢を集結させていた。
その大軍を虎牢関に収容しきることはできず、洛陽まであと二日ほどという地点に拠点を築いている。圧倒的な戦力を背景に無言の圧力を洛陽に加えているが、なぜ攻め寄せないのかという不満が諸侯軍からは寄せられている。
その不満は諸侯軍がこれといった武勲を挙げていないということの裏返しである。
董家軍は中華でも屈指の強さを誇る軍勢であるというのは共通認識であり、そのような精強な軍団に手持ちの、さほど練度も高くなく数も多いとはいえない軍勢をぶつけるのに躊躇していたからこそ活躍の機会がなかったのである。
無論諸侯もそれを理解しているのだが。いや、だからこそ残されているであろう、武勲を立てる機会に群がろうとしているわけである。
「つか、ある意味、皆暇を持て余しているってことだよなあ」
誰にともなく呟いたその言葉に関羽は柳眉を逆立てる。
「ご冗談でもそういうことを口になさらないでください。我らはあくまで後ろ盾すらない義勇軍。つけ入るすきをご主人様自ら作られてどうするのですか」
その言葉に北郷一刀は苦笑する。
「いや、ごめんよ愛紗。そういうつもりはなかったんだ」
そして内心感謝する。
何かと口うるさい彼女がそれでも付き従うのは万が一のことに備えてのこと。常在戦場とはよく言ったもので、彼女は常にその凛とした態度を崩すことはない。
むしろ、もっと楽にしてくれてもいいのになあ、と北郷一刀は思うのである。
「翠のとこに行くんだからそんなに気を張らないでもいいんじゃないの?」
馬家軍は反董卓連合においても有数の武家である。その武力は質も量も袁家をして一目も二目もおかざるを得ないほど。その馬家の本陣に向かうのだから、そんなに気を張る必要はないのに、と。
「いえ、だからこそお傍を離れるわけにはいきません」
その、いかにも暢気で、器の大きさを感じさせる言に関羽は首を横に振る。なんとなれば所詮自分たちは義勇軍。
有象無象を束ねている存在である。軽んじられるのは慣れているが、思う所がないわけではない。武門の名家である馬家が相手ならばなおさらのことだ。
舐められて、たまるか。
関羽の心境はこれにつきるのである。
◆◆◆
- 411 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/27(月) 22:06:17.20 ID:z2f4tQkH0
- 「ああ、一刀か。久しいな。うん」
北郷一刀は馬超のその言葉に、その様子に内心ため息を大きく吐く。
だって。もっと、もっと。
この子は元気で、全身でその清冽な気を発していたのに。見ていられない。見ていられないほどに鬱屈としているのだ、あの錦馬超が。
だからこんなことを言う。
「翠、翠だよな?」
「は?あたしはあたしだ。何を言ってんだよ一刀」
その声も弱々しく感じる。北郷一刀の知る馬超ならば、そのような妄言あれば刹那の間もなく鉄拳制裁が来たはずなのだ。だから、らしくない。後ろに控える関羽すら違和感を覚えるほどである。
「無理するなよ」
そして張りつめていた糸はその一言で崩壊する。
「は?あたしがなにを無理してるって?なに?あたしのなにを知ってるのさ。何でそんなことを言うのさ。
いい加減なことを言うのだったら、一刀と言えどただじゃおかないぞ……?」
湧き起こる殺気は本気のもの。無言を貫いていた関羽が主を庇うべく前に出ようとするのを制して北郷一刀は言い募る。
「分かりはしない。
でもな。
翠がそんなんで馬騰さんが喜ぶのかな?」
その言葉に、名前に馬超は激昂する。
「ち、父上のことを!言うな!何も知らないくせに!」
反射的に出た槍を関羽が弾く。
それに一層激昂して言い募る。
「父上が、死んだんだぞ!あの父上が!それでなんの馬家軍だよ!
まだ、もっと!教えてほしいことがたくさんあった!あたしが馬家を継ぐに値するだけの武を持っているって、伝えたかった!全部、伝えられなかった!」
力任せの連撃。関羽は苦虫を噛み潰したような貌でそれを弾いていく。
「それでも、翠は今、生きているだろ!馬騰さんが今の翠を見てどう思うか考えろよ!
そんな翠、見てられないよ。なあ。翠……」
「なんだよ!なんなんだよ一刀!お前は一体なんなんだよ!」
手にした愛槍――銀閃を取り落して馬超はこれまで抑え込んでいた悲嘆を吹き出す。
嗚咽を漏らす。
その馬超に、北郷一刀は優しく声をかける。
「なあ、翠。馬騰さんは凄い人だった。俺なんかが言っても説得力がないと思うけどさ。
そんな俺でも分かるくらいに馬騰さんは凄かった」
その言葉に馬超はこくり、と頷く。
「だからさ、翠。馬騰さんの死にざま、ちゃんと、さ」
思えば、敬愛する父の死にざまを知っていなかったのだと馬超は愕然とする。
「そ、そりゃそうだけど……。でも、張遼は絶対に許さないからな!」
その、抗う声に北郷一刀は苦笑する。そんなこと一言も言っていないのに、と。
「いや、まあ、なんだ。話は聞こうよ、な?」
馬騰さんの最期を看取ったに違いないからさ、という言に馬超は無言で頷く。
暫しの沈黙。そして。
伝えられる言葉。最期の言葉。
- 412 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/27(月) 22:08:21.59 ID:z2f4tQkH0
- ◆◆◆
「一刀、済まなかったな」
詫びる言葉。歩み寄りの言葉。
いくらか湿り気のある言葉。
「いや、いいんだ。それより、よかったな。霞と翠が仲直りできて、さ」
……一触即発、紆余曲折あったものの、馬超の、張遼との面会は最上の結果であったと言っていいだろう。
「お蔭で、父上の言葉を聞けた。そりゃ、さ。霞には思う所がないわけじゃない。でも、一刀が言った通り、父上はきっとそんなことを望んでないと思うんだ」
――万里を駆けよ。
その、馬騰の遺言はようやく愛娘に伝わったのである。
「一刀が言った、さ。憎しみは何も生まないって、こういうことなのかな。
一刀の言う通り、確かに霞が死んでも父上が帰ってくるわけじゃあないし……」
未だ煩悶としている馬超だが、それでいいと北郷一刀は思うのである。だって。
「うん、そうだな。翠はそうやって笑ってる方が可愛いよ」
こんなにも馬超は輝いているのだ。鬱屈としていた先刻とはまるで別人がごとく。
「な、なななな!そ、か、可愛いとか、何を言うんだ!」
慌てふためく馬超を見て北郷一刀は思うのである。馬家軍を率いると言っても、やはりというか、年頃の少女なのだなあ、と。
そして思うのだ。きっと彼女の父たる馬騰もそのように、笑っている姿をこそ願っていたのではないか、と。
色々と抗議の声を上げる馬超と戯れながら、思う。皆がこのように笑えるならば、それはきっと素敵なことだろう、と。
◆◆◆
- 413 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/27(月) 22:33:46.99 ID:z2f4tQkH0
- 洛陽まであと二日ほど。虎牢関より先は遮るものもない。陣を構えて諸侯軍の集結を待つ。いやさ、流石に今いる兵力で突入というわけにもいかん。洛陽を舞台に手柄争いとかされたらかなわんからな。
専(もっぱ)ら最近は、逸る諸侯とか春蘭とか春蘭とか春蘭をなだめるのがお仕事なのである。あと春蘭な。
ええい、無思慮に洛陽につっかけて禁軍と遣り合うつもりかよ!
だが、そんな忍耐の日々もこれまでだ。
「うし、張郃ご苦労さん」
俺は張郃が持ち帰った報に内心胸をなでおろしていた。
「どうやら禁軍と相対することは避けられたようですね」
背後に控えていた稟ちゃんさんの言う通り、風がやってくれました。これはファインプレーです。
押し寄せる反董卓連合軍に対して洛陽を、禁裏を守護する禁軍。その兵権を握っている――その兵権のありかは風がつきとめたものである――皇甫嵩と風が極秘裏に会談を行った成果だ。
見事無血開城をとりつけてくれた風には流石の一言である。
「禁軍とやりあうつもりはないし、洛陽を攻めて花の都を灰塵とするつもりもないからね。
というかそんなこと間違っても起こってほしくないっての」
俺が今一番恐れているのは洛陽が戦場となり、荒廃してしまうことだ。
史実……と言っていいか分からんが、俺の知る歴史的なものでは董卓が洛陽を焼き払った。長安への遷都と併せての焦土作戦は見事の一言だ。
荒廃した洛陽の再建は曹操も諦め、許昌に帝を招くこととなった。
だが、と思うのだ。果たして董卓の焦土戦術のみでそんなにも荒廃するものか。と。
そして、反董卓連合は収穫なく洛陽を後にするのだが、それまでの戦費の回収はどうしたのだろうか、と。
ぶっちゃけ、洛陽からの略奪で補填したんじゃないかなあなんて思ったりするわけである。そりゃまあそうであっても史書には残らんさね。
歴史は勝者が作るものだから。それはいい。俺の妄想である可能性も高い、が。
既に洛陽近辺に於いて諸侯軍の脱走兵と思われる奴らが略奪暴行をしているという報告も上がっている。そりゃ常備軍として給与が支払われている袁家軍とかと違って徴兵された奴らはなあ。
それはいい。そこいらへんの治安活動は手柄を必死に上げようとしていた義勇軍に任せている。単発で兵卒が起こすそんな事件に対応しきれるならばまあ、たいした求心力である。むしろ義勇軍内部からそういった不逞の輩が出ないかなあなどと思うほどだ。
そんときゃこれ幸いと処分してやるんだがね。
そんな風に暫し思考に耽溺していた俺なのだが。張郃は、にまり、と口を歪めながらとんでもないことを言ってくる。風の差配らしいのだが。マジか。
マジかぁ。
「まあ、洛陽の内実に関してはお詳しい方から聞くがよかろうと思いますな」
そして張郃の手振りでその人物を招き入れる。そして、その名前、その姿に自分の正気を疑う。背後で稟ちゃんの息をのむ音に辛うじてこれが夢ではないのだ、と思い知る。そう、張郃が招き入れたその人物―――。
「賈駆殿です」
緑の黒髪、狷介そうに見えてたまに見せる柔らかい笑顔を彩る鋭い双眸。董卓軍の軍師たる詠ちゃんその人が、そこに、いた。
◆◆◆
- 414 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/27(月) 22:34:56.93 ID:z2f4tQkH0
- 張郃に招き入れられ、賈駆はその場に身を晒す。
突き刺すような視線は郭嘉のもの。
それによって、却って賈駆は落ち着きを取り戻す。その顔に微笑みすら浮かべられるほどに。
「――久しぶり、だな」
無表情で、なおかつ鋭い視線を寄越す郭嘉と違って紀霊の言葉には様々な思いが込められている。それを嬉しく感じてしまうのはきっと人として駄目なことなんだろうな、などと賈駆は思う。
「ええ、ほんと。
ほんとに久しぶりね、二郎……」
ややもすると万感の思いを込めそうになるその言を、はたして。無味無臭に自分は発せられただろうか?
くしゃり、と刹那歪む彼の貌(かお)に自分はどう映っているのだろうか?みっともなく、荒れた顔で彼の前には立ちたくなかった。
――正直頬はこけ、目の下にはくっきりと隈が現れている。肌はかさつき、唇はひび割れて。
それを補うために慣れない化粧を今日は念入りに仕立て上げている。おつきの女官には保障されているが、佳人に囲まれている男にすれば見え透いているだろう。
漂う沈黙。それに身体の奥底から込み上げる激情に飲まれないよう、賈駆は懐より書を取り出す。
「洛陽、それと禁裏の見取り図、それに警備の配置図よ」
「な――」
絶句する紀霊と言葉を交わさずに畳み掛ける。
「洛陽の門扉を守る兵は皇甫嵩に掌握されてるわ。禁裏は言うに及ばないわね。でも、これがあればある程度渡り合えるはずよ」
その言葉に紀霊は瞑目する。
くすり、と漏れそうになる笑みを噛み殺す。思えば、目の前の青年の浮かべるこの表情が賈駆は嫌いではなかった。
自分や、配下の軍師には到底及ばないと苦笑する彼は。それでもこの表情をするたびに、自分では思いつかない案を――突飛過ぎて現実的でない時もままあったが――提示したものだ。そんな彼をからかい、彼と語らう時間は賈駆にとってもかけがえのないものであったはずなのだが。
だから、瞑目している彼に、問うてしまう。
「ねえ、なんで、こうなっちゃったんだろ、ね……」
それは彼女なりの、精一杯の甘えであった。
- 415 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/27(月) 22:35:23.13 ID:z2f4tQkH0
- それを知ってか知らずか、見開いた紀霊の目。いつものようにへらへらとしてくれたらよかったのに。
見据えた目は、真剣そのもの。
だから、甘えてしまう。いつかのように。いつものように。
「ねえ、どうしたらよかったんだろう……」
それを、俺に言うか。今になって俺に言うのか。
そんな心の叫びを感じるくらいに賈駆は紀霊と通じ合っていたのだな、などとぼんやり思う。そして、ひび割れたような、途切れ途切れの叫びに身を引き裂かれる。
「言ってくれりゃ、よかったんだよ!言ってくれれば!なんとでもしたさ!したよ!
なんとでも、したさ……」
激した、或いは悲嘆にくれる紀霊の激情に言葉を喪う。なによりその熱さに。
「言ってくれれば、なんとでもしたさ。例えば、何進に内密に打診すりゃあ、月の参内を命じたろうさ。
そうなりゃ、漢朝総出で月の捜索さ。いかに漢朝の闇が深くても、それでも何進はそれをすら制してたんだ。
奴の一言あれば、あの政治的化け物が動けば!」
その叫びは賈駆の全身を打ち据える。
「そっか。そうか……。そうだよね……」
無論、賈駆とてそれは検討した。だが、万が一を考えてできなかった。親友たる董卓の身の安全を思うが故にできなかった。それが正しいと知っていても、できなかったのだ。
「ほんと、ボクって、ほんとに、馬鹿だ……」
その結果がこれだ。
「ボクって、ほんと、馬鹿……」
顔がくしゃりと歪み、嗚咽が湧き出ようとするのを必死に抑えて言葉を継ぐ。せめて、不様は晒したくない、これ以上。
これ以上。だって。
「……執金吾の権でも月の行方は知れなかった。だから、月は、月を浚ったこの度の乱の首謀者は」
畏れ多くもかしこき禁裏に。
それこそが賈駆が自ら足を運んだ理由。せめて、自分たちを陥穽に落とし込んだ首魁くらいは間違えなく伝えたい。
「悔しい。悔しいよ、二郎。
月も、ボクも。一生懸命だったのに。頑張ろうとしてたのに。それでもきっとボク達は世紀の謀反人。悪逆非道の佞臣ってなるのが、悔しいよ」
伝えようとしたことを伝え、やはり甘えてしまう。言わずもがなのことをそれでも言ってしまう。そんな自分を馬鹿だなあと思っても、最早止まらない。それでも。
「それでも……好きだった。ううん、好きよ、二郎。
うん。愛してる……」
閨にて、幾度も囁かれた睦言。けして返さなかった男のそれに応え、こらえきれずに双眸から溢れる涙。
「好きよ、二郎」
だから。
ボクのこと、忘れないで……
精一杯の笑みを浮かべて賈駆はその場を去る。
くしゃり、としたそれ。柔らかな、透きとおったその顔を。紀霊は生涯忘れることはないだろう。
- 416 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/27(月) 22:36:19.37 ID:z2f4tQkH0
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
題名募集しまくりんぐですよ本当に!
仮題はなんだろな
「幸福な結末と別離」
もちっとなんとかなりませんか
- 417 :赤ペン [sage saga]:2020/07/30(木) 12:53:53.12 ID:Y4a+Y6Th0
- 乙でしたー
>>410
>>誰にともなく呟いたその言葉に関羽は柳眉を逆立てる。 間違いではないのですがこの言葉はかなり強い印象を受けます(例えるならもしも二郎が呂布に挑むときに顔良をハブにしたりしたら柳眉を逆立てそうかな
○誰にともなく呟いたその言葉に関羽は諫言を以て応える。 関羽が柳眉を逆立てるような気迫で返答したら一刀がそれに苦笑で返したりできなさそうだし、そもそもご主人様相手に本気で怒れないでしょ(信頼感(笑)
>>411
>>教えてほしいことがたくさんあった!あたしが馬家を継ぐに値するだけの武を持っているって、伝えたかった!全部、伝えられなかった!」 【全部】だと既に【馬家を継ぐに値するだけの武を持っている】ように聞こえますが
○教えてほしいことがたくさんあった!あたしが馬家を継ぐに値するだけの武を持っているって、伝えたかった!全然、伝えられなかった!」 【教えてほしいことがたくさんあった】ので自分がまだ未熟だと思ってたようなのでこの方が良いかな?
>>馬騰さんの最期を看取ったに違いないからさ、という言に馬超は無言で頷く。 これだと(多分)看取ったはずだ、みたいな意味になるので
○馬騰さんの最期を看取った事には違いないからさ、という言に馬超は無言で頷く。 下手人な事には違いないけど、みたいな意味で言うならこの方が良いと思います
>>伝えられる言葉。最期の言葉。 この前の文からするとこれ(馬家の天幕内で)沈黙、(その場にいた張遼から)伝えられる言葉になりそうなので
○一刀と共に張遼のもとを訪ねる。伝えられる言葉。最期の言葉。 どう書くかは置いておいて、張遼に会いに行く描写を入れた方が良いと思います
>>412
>>「お蔭で、父上の言葉を聞けた。そりゃ、さ。霞には思う所がないわけじゃない。 待って、ちょっと待とうか?君そんなにあっさりと許した感出すとか本当にどうしよう
○「お蔭で、父上の言葉を聞けた。そりゃ、さ。張遼には思う所がないわけじゃない。 上で「張遼は絶対に許さない」とか言ってたのにもう真名呼びとかもう少しあるだろ?まさか張遼も義勇軍の大将の前で董卓の真実を語るわけないから何故そうしたのかまで話してないだろうし…えっ話したの?(そんなに口が軽いなら)裏切る前に馬騰さんに話して?どうぞ(馬騰→何進の直通ルートを横目に
>>413
>>俺は張郃が持ち帰った報に内心胸をなでおろしていた。 まあ実際にそういう動作をすることもありますが慣用句なので
○俺は張郃が持ち帰った報に胸をなでおろしていた。 【内心】を入れなくても問題ないと思います
>>既に洛陽近辺に於いて諸侯軍の脱走兵と思われる奴らが略奪暴行をしているという報告も上がっている。 間違い?間違いじゃない?勝ってる側で糧食は袁家が持ってる諸侯軍から脱走兵って…中抜きされて食うや食わずなんて袁家が許さんだろうし
○既に洛陽近辺に於いて諸侯軍の兵と思われる奴らが隠れて略奪暴行をしているという報告も上がっている。 そのあと何食わぬ顔で戻ってくるまでがセットで、な気がしますが
>>414
>>ややもすると万感の思いを込めそうになるその言を、はたして。無味無臭に自分は発せられただろうか? 間違いではないですが
○ややもすると万感の思いを込めそうになるその言を。はたして、無味無臭に自分は発せられただろうか? 【果たして】は【発せられただろうか】にかかりますのでこの方が良いと思います
>>それでもこの表情をするたびに、自分では思いつかない案を――突飛過ぎて現実的でない時もままあったが――提示したものだ。 ちょっとひと手間
○それでもこの表情をするたびに、自分では思いもつかない案を――突飛過ぎて現実的でない時もままあったが――提示したものだ。 まあ現代人の持つ視点とかがあるからねえ
まあここまでなるとは思ってなかったにしろ…詠ちゃんの未来予想図はどういうものだったんだろう、とは思うね
万が一を恐れて自分だけでなんとかしようとしてたけどそんなことをすれば反董卓連合が組まれるだろうとは思ってただろうしそうなれば信頼できる戦力を外に向けなきゃいけないことも分かってただろうに
洛陽で袁家を襲うときにネームドを派遣しなかったとか、せめても言い含めなかったこととか流されるだけだったから仕方ないっちゃないんだが
天の御使い?あ〜はいはい、すごいね。みんなハッピーにまいしんしてるね
- 418 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/30(木) 22:08:45.08 ID:EBuKRdwr0
- >>417
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
うむ。今回多いな。精進せんといかんね。
しかしお盆に間に合うかなあ。割とギリギリのスケジュールだなあと思ったり。
>まあここまでなるとは思ってなかったにしろ…詠ちゃんの未来予想図はどういうものだったんだろう、とは思うね
それな。
いやほんと、気の毒でしかないですが、目の前のことに一生懸命です
そしてもっと言うと、大戦略とかは彼女の不得手なとこじゃないかなって
>万が一を恐れて自分だけでなんとかしようとしてたけどそんなことをすれば反董卓連合が組まれるだろうとは思ってただろうしそうなれば信頼できる戦力を外に向けなきゃいけないことも分かってただろうに
ここで二郎ちゃんに泣きついてたらねえという董家√
6レスくらいでハッピーエンドですね(確信)
>天の御使い?あ〜はいはい、すごいね。みんなハッピーにまいしんしてるね
猪突猛進dす
がんばる
- 419 :赤ペン [sage saga]:2020/07/31(金) 11:06:04.36 ID:ZXvRgiRN0
- まあねえ、所詮はって言い方もアレだけど馬家の下にいた董家の軍師だったからねえ
戦術レベル、うまくいけば戦略レベルまで考えられるとしても国規模の大戦略レベルで考えられるかっていうと、ね
言ってしまえば全国展開してる大企業の一地方の重役レベルがいきなり本社のトップになったようなものだからね…地方レベルで考えても失敗するのは確定的に明らか
さて、天の御使いについての感想があまりにも雑だった気もするからもう少し書いてみるか
今回の行動はなにも間違ってないし考え方もとても正しいと思うよ、結果も考えうる中で最良と言ってもいいと思うし素直に凄いと思うよ?
前提が間違ってるはずなのに結果が正解になるという異常性があることだけで…そもそもなんで彼女は一人で鬱屈としてて、その状態で一刀と会おうと思ったのさ
親の敵を討って落ち着いたら喪失感が、とかでもなく。そんな状態の姉に対して妹が気を紛らわせようとするでもなく。こんな精神状態だから仕事じゃとじゃないなら一人にしてくれとお付きの兵に追い返させるでもなく。会うからにはと空元気でも虚勢でも張ることもなく弱弱しい姿を見せて。
どう考えても弱ってるから慰めてほしいというアッピールですね、本当にありがとうございました。
- 420 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/03(月) 06:24:47.78 ID:3UJ9GBCK0
- >>419
>まあねえ、所詮はって言い方もアレだけど馬家の下にいた董家の軍師だったからねえ
州を回すくらいまではともかく流石に国家はね。
経験積めばまた別だったでしょうけど
>今回の行動はなにも間違ってないし考え方もとても正しいと思うよ、結果も考えうる中で最良と言ってもいいと思うし素直に凄いと思うよ?
からの
>前提が間違ってるはずなのに結果が正解になるという異常性があることだけで…
上げて落とす!お見事w
>どう考えても弱ってるから慰めてほしいというアッピールですね、本当にありがとうございました。
これには納得です。
なるほどなあ。。。
- 421 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/05(水) 06:00:01.30 ID:o17giggl0
- 「愛紗。お疲れ様」
北郷一刀は帰ってきた関羽をねぎらう。彼女は先ほどまで近隣の村落を巡り治安活動に励んできたのである。
「いえ、どうということはありません」
関羽の言は誇張でもなんでもない。あちこちと転戦しているのではあるが疲労の影すらなく平然としている。
いや、むしろ兵卒の群れに関羽という豪傑を宛てるというのが贅沢な話であろう。
「しかし、大忙し、だなあ」
彼の言に偽りはない。ここ最近――虎牢関が陥落し、洛陽まであと数日というところまできての足止め。それから劉備率いる義勇軍は東奔西走している。それまでの閑(ひま)さが嘘のように。
「略奪、暴行。ひどいものです」
関羽は吐き捨てる。彼女の言は嘘ではない。後方にいた諸侯軍が合流してこの方、治安や軍規は乱れる一方なのだ。
そんな彼女に気遣うような視線を送られているのを感じて慌てて取り繕う。
「ご安心ください。彼奴等の性根を叩きなおしてやりましたが……それだけです。命までは奪っておりませんし、致命的な怪我も負わせてはおりません」
数日悶絶する打撲くらいのものだ。骨を折ったりまでは及んでいない。言って聞かない相手にその鉄拳を振るうことに関羽は躊躇しなかった。切り捨ててしまいたいところではあったのだが、主たる劉備や、その軍師たる諸葛亮からも人死には避けるように言明されている。
関羽とて諸侯軍との関係を決定的に悪いようにしたい訳ではない。
例え正義がこちらにあろうとも、人死にが出てしまえばそれを口実に自分たちは不味い立場になるかもしれない。後ろ盾なぞない自分たちなのだ。
故に激発する可能性のある張飛は劉備や北郷一刀という安全弁から離すことは出来ない。
故に関羽のみが劉備一行と離れて行動しているのだが、それが自らに対する信頼の証であると関羽は理解している。
故に、だからこそ軽率なことはできない。例え目の前でどれだけの非道が行われていても、鉄の意志で関羽は激発をすることなく。だが、それでもその憤りは消えることはないのだ。
「どうして、このようなことに……」
関羽には理解できない。どうして同じ漢朝の民にあのようなことができるのか、と。
「――諸侯軍は常備軍ではありません。それが全てです」
静かに諸葛亮は応える。
「――っ。どういうことだ、朱里」
北郷一刀はだから、問いを発する。関羽があのように苦しんでいるのだ。その理由を彼は知らずにはいられない。
「諸侯軍の多くは徴兵された兵です。故に給与は支払われません」
反董卓連合。しかして完全に常備軍なのは袁家くらいのもの。いや、輜重に至るまでにそうである袁家がおかしいのだ。
つまり、袁家軍は真に戦うための集団。戦うが生業。よくもそのような集団を限界せしめたものだと諸葛亮は改めて戦慄を禁じ得ない。
「だったら!さっさと洛陽に入るべきだろう!」
諸葛亮の言葉を受けて北郷一刀は苛立ちを覚える。どうしてこのようなところで足踏みをするのかと。
「おそらく、ですがそのための交渉をしているのではないかと」
未だ洛陽には禁軍がある。そして禁軍との交戦は袁家軍としては何としても避けたいはず。
「此度の反董卓連合。袁家は極めて慎重にその歩を進めています。ええ。持っている影響力からすれば臆病と言っていいほどに……。
あくまで漢朝の臣として。けしてその矩を越えぬよう。越えてはいないと示しながら手を打っています」
いっそ迂遠なほどである。迂闊と言ってもいいかもしれない。
極端な話ではあるが、袁家単独でも洛陽に迫ることは可能であったろうと諸葛亮は思うし、鳳統も同意している。極めて高度に鍛えられた常備軍と、何より攻城兵器群だ。かつて思った通り、事あらば洛陽、とは言わずとも攻城戦を想定していたとしか思えない。
- 422 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/05(水) 06:00:27.20 ID:o17giggl0
- 「じゃあ、あの、何進が下したという勅も本物だって朱里は思ってるのか?」
時系列を考えればあからさまに怪しい勅であるのだが。
「はい。極めて怪しいと言わざるを得ませんが、真であると思われます。
あの、紀霊将軍は極めて遵法意識が高いように思われます。
ここで彼が手配したならばそうなのでしょう」
諸葛亮としては、その勅が正規の手続きにより下されたとは考え辛いと思っている。だが、何らかの抜け道によりもたらされたのかもしれない。その仮説も捨てきれない。
「うーん。あれで、やることはきちんとやってるってことか……」
北郷一刀は呟く。好きか嫌いかと言えば嫌いな相手である。
が、やっていることは確かなのだな、というのは認めざるをえない。そしてそれは諸葛亮も大いに頷くところである。
「はい。紀霊将軍。恋さんと立ち会ったような武勇伝には事欠きませんが、真に評価すべきはその卓越した政治力ではないかと」
そう考えるとその手腕は恐るべきものである。
彼が武家筆頭となってから袁胤という不穏分子を除き、袁術という不和の種になりかねない人物を見事に駒として活かしている。
まさか入内させるとは。
袁家の威光はこれまで以上に留まることはないであろう。このままでは、袁家にあらんずば人に非(あら)ずというほどに権勢を誇ることすらありえるだろう。
「なるほどなあ。そんなのに董家軍みんなの命を乞う訳か。なかなか大変だ……」
苦笑する北郷一刀に関羽と諸葛亮は肩に入っていた力が抜けるような感覚を覚える。
見据える目標は困難。それでも気負わずに前を向く彼の言葉に決意を新たにするのだった。
◆◆◆
- 423 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/05(水) 06:01:02.52 ID:o17giggl0
-
詠ちゃんが去ってから数日。洛陽に進駐するスケジュールは皇甫嵩とやりとりし、あらかた固まってきた。
「明後日だ。明後日。日輪が中天に差し掛かるころに洛陽に入る。そう諸侯軍に伝えろ」
そして、けりを、つけよう。
「諸侯軍には前祝として酒を配れ。秘蔵の火酒、全部配って構わん。ありったけを配れ」
そして。
「張郃。配下から選りすぐりをそうだな。百ほど選んどけ」
俺の言葉に張郃はニヤリ、と愉快そうに口を歪める。正しく俺の意図を汲んでくれたようだ。
「ほう。張家からということでよろしいのか?髑髏の面を集めなさるか。出立は?」
「払暁前。もっと言うと、一番鶏の鳴く前」
俺の言葉に稟ちゃんさんが問うてくる。
「それで、よろしいのですか。これまでの名声を地に落とされますか」
幾度か話し合ったことではあるのだが、それでも問うてくる。
「くどい。もう決めたことさ」
別に俺が手を下す必要はないというのはその通りだ。でも、さ。
更に言い募ろうとする稟ちゃんをどこか可笑しげに張郃は眺める。それに構わずに俺は言葉を続ける。
「殴られっぱなしは性に合わんからな。というよりだ。袁家は武家よ。
舐められたままでいられるかよ。このまま矛を収められるものかよ。
――玉無しどもと同じ空気を吸うのもこれまでだ」
そして。
「これは洛陽にて散った者たちの弔い合戦でもある。袁家に仇なすということの意味を教育してやろうじゃあないか」
なに、禁軍とは話が付いている。後宮に残っている男は宦官のみ。ちょっとしたお掃除。それだけのこと。
宦官の誰が悪くて誰がもっと悪いなんて知る術もないならばまとめてポイするのが合理的な発想というものさ。
「最優先は弘農王……いやさ正当なる皇帝陛下劉弁様の身柄。そして宦官は殲滅だ」
「降伏か、死か、ということですかな?」
「違うね。逃げる奴は宦官だ。
降伏する奴は狡猾な宦官だ。
抵抗するのは訓練された宦官だ。
悉(ことごと)く、殺せ。宦官は悪だ。ゆえに鏖(みなごろし)だ」
悪、即、斬。それを体現するだけのこと。
「承知した。なに。禁裏にて血の雨を降らすことに臆するようなものはおりません」
汚れ仕事は張家の誉。その判断はこの上なく正しいと言わんばかりに、恭しく張郃は一礼し、その身を闇に同化させる。
- 424 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/05(水) 06:01:34.86 ID:o17giggl0
- 「何も二郎殿が手を汚すことはないでしょうに」
苦い声に苦笑する。
「怨将軍とか、英雄とか、そういうのは、いいのさ。
もとより身の丈に合ってなかったしな。だから、いいのさ。いいんだよ」
それに。
「そろそろ路線変更しようかなと思ってたとこだ。
そういうのは、もっとちゃんとした英雄が背負った方がボロが出ない。そして袁家、いやさ紀家には正真正銘の英傑がいるし」
一騎当千、趙子龍。
「天下にその名を轟かせるのは星の方が似つかわしい。そうだろう?」
「――貴方は!」
尚も言葉を重ねようとする稟ちゃんさん。
だが刹那の感情の爆発。その後に紡がれた言葉は別方向からのアプローチであった。
「では、譲られたその英雄の座。星はどう思うか。そして十全に槍を振るえるとお思いですか」
「う……」
流石である。そうきましたか。そして困る。
つまり宦官どもを皆殺しにするってのは、半ば俺の私怨と言ってもおかしくないからなあ。そこはまあ、怨将軍だから許してほしいな。
とか愚にもつかないことを考えていたのだが、思わぬところから助け舟が出た。ようそろ。
「稟よ。主をそう苛めるものではない。主には、いやさ男には譲れぬ思いがあるものだ」
そして助け舟を出してくれたのは星でした。いやなんで君ここにいるのん。
「ふ。そう不可思議な顔をすることもないでしょうに。まあ、種明かしをすると簡単ですがな。張郃どのから聞いたからですな。風からの伝言通り護衛を兼ねて控えさせていただいただけのこと。
まあ、主には言いたいこともあるのですが」
それでも、と。ニヤリ、と。
「天下一を目指すというのはこの身が発した志。そのために主はその身を挺してまでも飛将軍と渡り合う機会を作ってくださった。
――もっとも、それでも。それでも討ち取れなかったわが身には忸怩たる思いがある」
暫し視線を地にやり、改めてこちらを見やる。
「紀家軍の指揮、承りましたとも。
下駄をはかせていただいたとは言え、一騎当千のこの身。けして禁裏、いやさ洛陽に余人を近づけませぬとも」
「……すまんな。星」
「何をおっしゃるか。嬉しいのです。
主に受けた恩は計り知れない。ようやく。
ようやくこの身で、この武で返すことができるのです。喜んで果たしましょうとも。
造られた英雄大いに結構。
もとより流浪の、一介の風来坊のこの身。望外の栄光。
見事果たしてみせましょうとも」
そして。
「それに主よ。それがしが聞きたいのはそのような謝罪の言葉ではない。感謝を、鼓舞をこそほしいものです。
と、女からここまで言わせる御身は相当に罪作りですぞ?」
艶然と笑む星。強張っていた思考が動き出す。そうだな。悲壮ぶるのは俺らしくない。
きっとね。
「星、ありがとう。そして何人たりとも洛陽に立ち入らせるな。
――頼りにしてるよ」
「承った。なに、はねっかえりを押さえるだけの簡単なお仕事だろう?」
不敵で無敵。一騎当千な星に見送るしかない俺であった。
あ、微かに。微かに苦笑する稟ちゃんさんを見れたのもすごい収穫だなとかなんとか。
うん、ありがとな二人とも。
それはそれとして。
けじめはつけんとな。
まあ、地雷原での綱渡りではあるのだが、ね。
後始末が、はじまる。
- 425 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/05(水) 06:02:01.65 ID:o17giggl0
- 寝落ちしておりました
ここまですー感想とかくだしあー
今のところ無題でごんす
- 426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/08/05(水) 14:03:00.79 ID:1Cc5hk/D0
- 面白いからよし
- 427 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/06(木) 12:39:47.66 ID:C090nCv+0
- >>426
ありがとうごぜえやす
えっへっへ
それはともかく、お盆には間に合いませんでしたね。
前後編に分けるしかないにゃー
- 428 :赤ペン [sage saga]:2020/08/06(木) 14:12:30.22 ID:fAoB5U7T0
- 乙でしたー
>>421
>>そんな彼女に気遣うような視線を送られているのを感じて慌てて取り繕う。 これだと一刀が関羽に気遣うような視線が向けられてるように読めますね【(一刀が)そんな彼女に〜】
○そんな彼女は気遣うような視線を送られているのを感じて慌てて取り繕う。 この後の言葉からすると【そんな彼女は(一刀の)気遣う様な〜】だと思うのでこうですね
>>故に、だからこそ軽率なことはできない。 意味が重複してますね
○だからこそ軽率なことはできない。 意味を重ねるなら【だから……だからこそ】とかかな、と思いますけどそうする程でもないでしょ
>>静かに諸葛亮は応える。 関羽の「どうして」と言う問いに対するものなので
○静かに諸葛亮は答える。 答えを教えるということでこちらですね
>>北郷一刀はだから、問いを発する。関羽があのように苦しんでいるのだ。その理由を彼は知らずにはいられない。 これだと【だから】の掛かり先が分かりづらいので
○北郷一刀は問いを発する。関羽があのように苦しんでいるのだ。ならば、その理由を彼は知らずにはいられない。 でどうでしょう
>>よくもそのような集団を限界せしめたものだと諸葛亮は改めて戦慄を禁じ得ない。 あ?何が限界だって?(チンピラ風
○よくもそのような集団を現界せしめたものだと諸葛亮は改めて戦慄を禁じ得ない。 なお最近の造語なので【設立せしめた】の方が良いかな?むしろ袁家の凄さはそれを維持してることだと思うけど
>>「おそらく、ですがそのための交渉をしているのではないかと」 ちょっと【おそらく】の意味が伝わりづらいので
○「おそらくですが、そのための交渉をしているのではないかと」 もしくは【「おそらく……ですがそのための】勿体ぶるというか思索してて考えをまとめる感じならこうですね
>>422
>>袁家の威光はこれまで以上に留まることはないであろう。 間違いではないですが【これまで以上に留まる】と【ことはない】で分けて読むと違和感が出てしまうので
○袁家の威光はこれまで以上に中華に響き渡るであろう。 書いて思ってけど威光って響くのか?【包み込む】?【照り付ける】?【示される】?いっそ
○袁家の威光はこれまで以上のものとなるであろう。 がすっきりしてて良いかな?
>>424
>>つまり宦官どもを皆殺しにするってのは、半ば俺の私怨と言ってもおかしくないからなあ。 間違いではないですがこれだと前の文章に【つまり】がかかってるように読めて《?》となるので
○つまるところ宦官どもを皆殺しにするってのは、半ば俺の私怨と言ってもおかしくないからなあ。 趙雲が槍を十全うんぬんかんぬんにかかると彼女も宦官皆殺しに関わってしまうけどそうじゃないでしょうし
>>下駄をはかせていただいたとは言え、 下駄って日本の物っぽいんだよなあ…恋姫世界ならありそうだけど…と言うか星の履いてるのが下駄っぽいっちゃぽいんだよなあ
○嵩上げいただいたとは言え、 もしくは【水増しいただいた】とか?まあ気にしなくても良い事か
>>切り捨ててしまいたいところではあったのだが、 劉備に最も近い位置にいるはずの彼女の思考回路が…お前、何で劉備が止めるのか分かってないだろ。あくまでも劉備が止めるからやってないだけだろ
>>北郷一刀は呟く。好きか嫌いかと言えば嫌いな相手である。 一応聞くがなんで嫌いなん?自分の物(趙雲)に手を出されたから?義勇軍に糧食しか提供しないから?董卓を助けようとしないから?
【凡人、終わり方を整える】と言うかこの場合は結び方?締め方?それにしても張コウ君が愉しそうだわw
喧嘩なんてのは始めようと思えば結構簡単に始められるけど終わらせようとするといろいろと大変なのよね…それが戦争になったらなおのこと
そういや食い詰め略奪して痛めつけられた諸侯軍の一兵卒はその後どうしたんだろ…もともとの諸侯のところに届けたのか袁家に届けたのか自分たちのもとに吸収したのか…
- 429 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/08(土) 09:47:18.26 ID:UDFWiA2i0
- >>428
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
うほう。
>一応聞くがなんで嫌いなん?自分の物(趙雲)に手を出されたから?義勇軍に糧食しか提供しないから?董卓を助けようとしないから?
熱いマジレスありがとうございますw
それもう星ちゃんとの一件から積み上がっている奴でしょうねw
>喧嘩なんてのは始めようと思えば結構簡単に始められるけど終わらせようとするといろいろと大変なのよね…それが戦争になったらなおのこと
ほんとこれです。
詠ちゃんはもう、このために頑張ってるし、月ちゃんはそれを分かってるから死ぬわけにはいかないのですよね
>そういや食い詰め略奪して痛めつけられた諸侯軍の一兵卒はその後どうしたんだろ…もともとの諸侯のところに届けたのか袁家に届けたのか自分たちのもとに吸収したのか…
大体は送り届けて、いくらかは脱走かな
治安が・・・
- 430 :赤ペン [sage saga]:2020/08/08(土) 09:57:26.88 ID:9ezm9d5b0
- 高々義勇軍に「お前のところの兵士がチョーシこいて略奪してたから締めといたわwちゃんと見とけよなw」と雑兵を持ってこられた諸侯軍が何を思ったことやら(隙あらばヘイト稼ぎ
- 431 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/08(土) 10:07:21.45 ID:UDFWiA2i0
- >>430
確かにw
「ぐぬぬ」
状況を考えると暗に命令されてた可能性も高いですね。つか、そうだろうなあ。
これはヘイトが充填されますよ!やったぜ!
- 432 :俯瞰者 ◆e/6HR7WSTU [sage saga]:2020/08/14(金) 12:17:05.49 ID:3kBKbdp20
- 乙です。残暑お見舞い申し上げます。
うーわー。とうとう血の雨が豪雨のように降るのかぁ。自業自得とはいえ、個人的にはねぇ。でも必要だから、必要だから。
で、こらパシリ。
嫌いなら帰れや。温い異分子が。消毒用アルコールと純粋次亜塩素と界面活性剤で消毒すんぞコラ。
二郎さんは「どうしてこうなった」を知っている側だからお前が董卓軍の助命嘆願しなくても最善をつくすだろうよ(一応オブラート包装)
ただけじめをつける、筋を通す。この関係で何らかの処分はするだろうけど。
第一、使える人材を殺すなんて愚はぜったいやらない。ハーレムに引き込まれるヒロインは絶対出てくるけど(断言)
だからコラパシリ。黙って消えとけや。コラ。
つうか関羽さんを報いてあげて。劉備込みでも仕方ないからなんか報いてあげて。
おーいチョウコウ君。必殺仕事人の出番だぜい。思い切り目立ってちょうだいよ(応援)つうか大活劇期待。超々期待。
二郎さんを本気で怒らせてしまったようですね。まぁ虎の尾を力いっぱい踏みにじって、逆鱗思い切り殴りつけりゃ、こうなるわな。
つうか趙雲さんが指揮権委譲されること自体紀家軍内部では既定事項のようなような気がするんですが。
幕僚幹部の誰かが文句言ってたとか?
- 433 :赤ペン [sage saga]:2020/08/14(金) 21:34:20.12 ID:rEb+M6s40
- 強いて言えば紀霊がそんな簡単に閑職に回されたっていう結果が残るのが問題かな?
(えっ!あのPをPだからって理由でひそかにPしてしかもPをPにPしたって?そりゃ責任取るよね)…一応裏ワザというか力業使いまくればあんなことやこんなこともできるけど一ノ瀬さんがどうするのかを邪魔したくないのでP音多めで
- 434 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/15(土) 07:22:28.12 ID:Bzh9QCmS0
- >>432
どもです。
お元気そうでなによりです。
>うーわー。とうとう血の雨が豪雨のように降るのかぁ。自業自得とはいえ、個人的にはねぇ。でも必要だから、必要だから。
屍山血河。まではいかないはず、はずです。
>ただけじめをつける、筋を通す。この関係で何らかの処分はするだろうけど。
はい。とだけ。
>二郎さんを本気で怒らせてしまったようですね。まぁ虎の尾を力いっぱい踏みにじって、逆鱗思い切り殴りつけりゃ、こうなるわな。
二郎ちゃんには辛い展開が続きますが仕方ないっすね。
>つうか趙雲さんが指揮権委譲されること自体紀家軍内部では既定事項のようなような気がするんですが。
まあ、突然あっちこっちほっつき歩いたり、放浪したりするので紀家軍的にはいつものことじゃないかとw
>>433
>強いて言えば紀霊がそんな簡単に閑職に回されたっていう結果が残るのが問題かな?
か、閑職とか。そんな二郎ちゃんのご希望ルートが通るわけがないですw
あっちの更新が一段落しましたら続きやりますので。
- 435 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/15(土) 17:18:40.87 ID:Bzh9QCmS0
- やってもた
書いてたのが消えた(本日1度目累計数えきれない)
ぴえん
キャストリアが来てくれたら(書き込みはここで終わっている)
- 436 :俯瞰者 ◆e/6HR7WSTU [sage saga]:2020/08/19(水) 11:25:14.85 ID:ETPb6Xi90
- なんとなく浮かんだ。
タイトル案 「収束への助走」
うーん……うーん……
- 437 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/19(水) 20:32:32.50 ID:cFjFIKet0
- >>436
>タイトル案 「収束への助走」
ほむん。刺さる。ちょっと検討させてくださいい。
何案あってもいいので、思いつきレベルでも結構なので投げてみて下しあ
あ、麹義さんはこの章のために南皮残留でした。
ここが終わったら完全フリー素材となりますのでよろしくお願いします。
幸せにしてあげてくださいませ。
田豊師匠も同様ですが、どっかで私塾兼道場とか立ち上げてそうですねえ。。。
- 438 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/25(火) 22:30:13.95 ID:6LwOn5rb0
- 「なるほど、明日、か」
劉協は嘆息する。
至尊の座に座るのも明日が最後と思えば、ため息の一つも漏れようというものである。
とはいえ、偽帝として討たれるという心配はない。袁家からは内々に陳留王として政務に携わって欲しいという打診を受けている。
まあ、劉弁は愚鈍にして惰弱。そして洛陽に攻め寄せたという後ろめたさもあるのであろう。皇族、それも優秀な皇族が支持するというのは袁家にとっても益があるということである。そしてそれは目の前で持参した美酒を楽しむ男にもあてはまる。
皇甫嵩。清流派の首魁にして禁軍を掌握する重要人物である。彼が禁軍を握っているからこそ、朝廷は平穏を保っていると言ってもいい。
「ま、仕方ないね。想定内の事態ではあるし、ね」
軽く肩をすくめる皇甫嵩。彼も袁家より、内々に三公の座を打診されている。状況が落ち着けば、現状よりもその影響力は大きくなるだろう。
悠然と酒杯を干す。その所作に劉協は湧き起こっていた焦燥を噛み殺す。まだ、皇甫嵩と遣り合うには早い。だが。
「陳留王たるわが身、宦官、そして清流派の首魁たる貴殿、か。
天下三分とはよく言ったものだな」
時さえあれば、皇族たる自分が敵対する二者を圧倒するのは自明の理。劉協にとって時間は味方なのだ。
それを思えば喉を潤す酒精が甘露に思える。いや、実際に銘酒なのであろうが。
「そうだね、僕もそう思う。なるほど、天下を三分にすれば即ち三竦み。容易に動けるものではない。見事、さ。誰が考えたかは知らないけどね」
ぐびり、と皇甫嵩は杯を干して笑う。
「でもね、その一角。宦官は明日未明に誅されるよ」
「なに……?
なん、だって……?」
劉協は言葉を喪う。
何を言っているのだ皇甫嵩は。そんなことができるものか。
「どうやら袁家は宦官という存在を許さないみたいだねえ。いやぁ、怖い怖い」
くすくすとした笑みを深める皇甫嵩。
「き、聞いてないぞ!朕は聞いてないぞ!皇甫嵩!」
「そりゃそうさ、言ってないからね。そして朕とか言うなよ見苦しい。
君は結局偽帝さ。それを認めるのがそんなに嫌かい?」
劉協は言葉を失う。これまでそのような無礼な言葉を聞いたことはない。なんとも不敬か!
「貴様――あ、ぐ、ぶぼ?」
ごぽり、と湧き出る真紅の塊に劉協は言葉を喪う。物理的に。
これは、なんだ。何故、どうして。どうして赤く、染まっているのか。
「まあ、そういうことさ。天下を分ける必要はない。乱れたその後は余計にね。だから、ゆっくり休んでくれたまえ。そして天下はきちんと僕が預かるからさ」
くそ、総取りかと劉協は血を吐きながら目の前で悠然としている男を睨む。せめて、呪われてあれ、と。
「ふふ、負け犬が吠えることもできずに倒れ伏すのを見るのは中々いいねえ。それも特等席ならなおのこと、ね」
宦官勢力が撃滅されたならば敵対するは劉協。そしてあの何進が恐れた才能とまともに組み合うほど皇甫嵩は愚かではない。そして、天下三分。そのうち二つが失われたならば。
「くく、そうさ。ようやく天は相応しい人物へと転がり込むのさ」
計画通り、とばかりにその秀麗な顔を歪めて皇甫嵩は笑う。
「ただまあ、駒が足りないというのがねえ」
文武共に配下の人材については物足りないという言葉では全く足りない。
清流派、とは言え実務に耐えうる人材の少ないことよ。
ことに軍を率いることのできる人材なぞ皆無に等しい。
「いいさ、当てはあるしね」
細工は流々。皇甫嵩はにまりと笑い、室を後にする。
残された劉協は虚空を睨み掴もうとして、無念そのものであった。
- 439 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/25(火) 22:32:31.58 ID:6LwOn5rb0
- ◆◆◆
「陛下、お目覚め下さい。
陛下……」
周泰は穏やかでいながら力強く声をかける。それは目指す相手にしか伝わらないという特殊な発声方法である。そして目の前の、健やかな眠りを貪る少年は不承不承、といった風に応える。
「ううん、なんだい。もう朝なのかい?もうちょっと寝かせてくれよ、まだ暗いじゃないか」
それに、と。
自分は陛下と呼ばれる立場にないから起きる筋合いはないかもね、と軽く主張すると同時に寝息を立て始める。
「ど、どうしましょう……」
禁裏の奥の奥、そして裏の裏。後宮より更に奥にある離れの一室。そこまでの道のり、その厳戒を潜り抜けるよりもこの、今の状況をどうしていいか分からずにあたふたと狼狽(うろた)える。
「なんだ、僕を殺しにきたのじゃあないのか」
不意に目前で寝息を立てていた少年――劉弁――は、のんびりとした声を上げる。
「お、起きていらっしゃったのですか!」
驚くのは周泰である。彼女からしても完全に寝入っていたはず。それが擬態ならば驚くべきものである。
「ううん、そうだね。そうだなあ、寝ていたよ。この上なく安らかにね」
面倒くさげに劉弁はぼそり、と。
曰く、何進が誅されてからこの方、いつ殺されてもおかしくないような空気。その中で過ごしていたというのだ。故に、安らかに眠れたのだ。それら不埒な塵芥を周泰が人知れず駆逐したのを――夜が明けて死体が発見されるまでは露見しないはずであるのだが――この少年はなんとなく感じ取っていたのであろう。
いわば小動物の生存本能にも近しいそれ。だが、それを身に付けてしまうというのがどういう状況下であるのだろうか。
周泰は発する言葉を失ってしまう。
「で、お姉さん。僕は用無しになって殺されるってわけじゃないんだよね?」
その声に周泰は自失していた意識を引き戻して慌てて応える。
「は、はい!勿論です!陛下の御身を守護するべく使わされて参りました。
陛下のご宸襟を騒がせ……」
「なら、それでいいよ。それで、僕はどこかに逃げるのかい?」
「いえ、外に出るのは却って危険です。臣がこの身に代えても御身を守護奉ります」
そうかい、と気安く劉弁は頷き。
「なら、もう少し寝かせてもらうよ。どうにも最近は寝たりなくっていけないからね。
じゃあね、おやすみ」
言い終えるとほぼ同時に湧き起こる健やかな寝息に周泰は目を白黒させる。
周泰は知らない。これが劉弁なりの保身術。それは何進に仕込まれた保身術。
徹底的に無能で、無害であることで魑魅魍魎の跋扈する宮廷をただ、浮揚することで生き残る保身術。それを遣り切る、ある意味での強さ。
そして、日が中天に昇り、すべてが終わり。それでも劉弁は呑気に惰眠を貪っていたのである。
そう、惨劇、阿鼻叫喚。これから起こるそれらを全て認識せず。劉弁はただひたすらに眠るのだった。
- 440 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/25(火) 22:34:16.02 ID:6LwOn5rb0
- はい、再開です。頑張ります。
本日ここまですー感想とかくだしあー
流血の序章
血の前日
タイトル案はこんなとこです
いいの欲しいっす。。。
- 441 :赤ペン [sage saga]:2020/08/27(木) 18:25:24.82 ID:3LtJcBy00
- 乙でしたー
>>438
>>袁家からは内々に陳留王として政務に携わって欲しいという打診を受けている。 【〜して欲しい】は例えば【そのご飯を食べて欲しい】なら違和感が分かりやすいかな
○袁家からは内々に陳留王として政務に携わってほしいという打診を受けている。 形容詞の【欲しい】と補助形容詞の【〜てほしい】の違いらしいですね
>>皇族、それも優秀な皇族が支持するというのは袁家にとっても益があるということである。 間違いではないですが好みの問題で
○皇族――それも優秀な――が支持するというのは袁家にとっても益があるということである。 大事な事なので2回言ったのかもしれませんが>>皇族
>>これまでそのような無礼な言葉を聞いたことはない。なんとも不敬か! 言葉は聞いたことあるよね…上偽帝とは呼ばれないって安堵してたし
○これまでそのような無礼な物言いを許したことはない。なんと不敬な! 最後は【何たる不敬か!】の方が良いかな?
>>「くく、そうさ。ようやく天は相応しい人物へと転がり込むのさ」 この自尊心の塊みたいな男なら【転がり込む】は使わない気がします
○「くく、そうさ。ようやく天は相応しい人物の下へ収まるのさ」 これを取らぬ狸の三日天下と言います…イメージは偉そうな椅子に足組んで座って掌で玉璽とか転がしてる感じで
>>439
>>だが、それを身に付けてしまうというのがどういう状況下であるのだろうか。 接続詞に違和感が
○だが、それを身に付けてしまうというのはどういう状況下であるのだろうか。 それとも【それを身に付けてしまうというのがどれほど異常な状況であるのか。】とかかな?
>>言い終えるとほぼ同時に湧き起こる健やかな寝息に周泰は目を白黒させる。 【沸き起こる】って圧力が強くて抑えられないような印象があってちょっと違和感が
○言い終えるとほぼ同時に健やかな寝息を立ち始め、周泰は目を白黒させる。 もしくは【ほぼ同時に漏れだした健やかな寝息】とかどうでしょう…前者は「グーグー」後者は「すやすや」のイメージです
>>これが劉弁なりの保身術。それは何進に仕込まれた保身術。 【保身術】って意味は分かるんですが調べても出てこないっぽいんで
○これが劉弁なりの自衛方法。それは何進に仕込まれた護身術。 あと【保身】って身体よりも権力とかの印象が強い気がするので
>>無害であることで魑魅魍魎の跋扈する宮廷をただ、浮揚することで生き残る保身術。 【、】の位置に違和感が
○無害であることで魑魅魍魎の跋扈する宮廷を、ただ浮揚することで生き残る自己防衛。 適当に【保身】っぽいものを並べましたのでお好きな言い回しをどうぞ
それにしても皇甫嵩は袁家の思惑を潰して「じゃああなたが天下人ですね」と言われると本気で思ってるのかしら
極端なこと言えばかつてやろうとしたように袁家の人材で公職全部埋められるかもしれないのに(今回の件で袁家も人財減ってるからできないかもしれないけど)
そもそも天下三分を言い出したのが袁家でその一角を潰す袁家が他をどこまで尊重することやら
- 442 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/27(木) 21:15:57.14 ID:wTzeDcj70
- >>441
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
再開でございます。
>これを取らぬ狸の三日天下と言います…
三日もつかな(ぼそり)
>それにしても皇甫嵩は袁家の思惑を潰して「じゃああなたが天下人ですね」と言われると本気で思ってるのかしら
その座を勝ち取ることができるということを確信していらっしゃりますなw
自分はあいつらとは違う。上手くやれるというやつです。
>極端なこと言えばかつてやろうとしたように袁家の人材で公職全部埋められるかもしれないのに(今回の件で袁家も人財減ってるからできないかもしれないけど)
それすら自分の手足として使いこなせるくらいの自信はあるかと
>そもそも天下三分を言い出したのが袁家でその一角を潰す袁家が他をどこまで尊重することやら
自分が切り捨てられるとは思わないものです
- 443 :赤ペン [sage saga]:2020/08/30(日) 22:51:25.34 ID:lva6FZp00
- 三日持つっていうかそもそもとってすらいないから…
- 444 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/31(月) 06:03:07.80 ID:RrruOudU0
- まあそりゃそうですけどw
- 445 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/31(月) 21:34:08.46 ID:RrruOudU0
- ――夜をこめて、鶏の空音は謀るとも
よに逢坂の関はゆるさじ
かつて孟嘗君の配下が、虎牢関と並んで難攻不落を誇る函谷関を抜いた時の故事。
この時代、というか一般的に門が開くのは夜明け以降である。
そしてそれを示すのは一番鶏の鳴き声であり、孟嘗君の食客の一人が鶏の鳴き真似が上手かったからなんとかなったとかいう逸話である。
それにちなんで、あたしゃ函谷関よりもお安くないのよ、という清少納言のお言葉である。
いや、口説こうとしてこんなこと言われたらひくわー。間違いなくひくわー。
いや、意味は分かるよ?分かるけどどう答えたらいいのさ、という話である。そんな、普通の会話にそんなレベルの知識とそれを応用させての返答とか無理でしょ。俺は無理だ。
考えたら華琳とかネコミミとかはそこいらへんの要求レベル高そうである。下手な答えをするだけで好感度ダウンしそうな感じ。いまいちこう、俺を見る目が冷たいのはそこかなあ。くそ、文化人(インテリ)め!なんて時代だ!
などとぼんやりと考えている目の前で洛陽の門扉は音を立てて開いていく。
払暁にもまだ間がある未明のこと。別に鶏の真似をせんでも根回しさえしとけばこうやって開くということだ。そしてここからは速さが勝負。
ちらり、と振り返ると黒装束の軍団が控えている。彼らは張家の精鋭。そしてそれを率いる当主以外は髑髏の仮面。うむ、禍々しい仮面兵団である。
フフ、怖いか?俺はちょっとだけ怖い。ちょっとだけよ。
「じゃ、いくか」
それを率いる俺はというと紀家軍の将らしく白装束である。黒を率いる白。うん、なんか小洒落たことを思いつくかなと思ったけど、そんなことは全然なかったぜ。俺の暗黒面(ちゅうに)は仕事をサボってるなあ。
見習いたい者である。
じゃなくて。
無言で付き従う髑髏の仮面兵団。うむ。呼んどいてなんだがね。改めて、ものっそい不気味この上ない。
……率いる俺がそう思うのだからまあ、恐怖というものを振りまくにはちょうどいいであろう。
きっとね、多分。おそらくメイビー。
- 446 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/31(月) 21:34:43.40 ID:RrruOudU0
- ◆◆◆
屍山血河が築かれていく。それは人の手によってもたらされている。その光景は控え目に言って凄惨、無惨と言えるであろう。
命乞いをする宦官。逃げ惑う宦官。立ち向かってくる宦官。そのすべてが数瞬後は物言わぬ骸と化していく。いくのだ。
髑髏の仮面を纏った黒装束の殺戮。もはや虐殺と言っていい。
それらを睥睨し、ぴくとも表情を変えない紀霊。それをどこか可笑しげに眺めながら、彼は報告する。
「知恵の回る宦官は宮中に逃亡した模様です」
ち、と舌打ち一つ。
「いかがなさる?」
「疑わしきは、殺すべし。
やるなら徹底的にやらんといかん。
汚れは根こそぎ浄化するべし」
逡巡すら見せない。ここで後顧の憂いを断つ、とばかりに紀霊は命を下す。
にまり、と張郃は僅かに唇を歪ませて配下に命じる。
後宮のみならず宮中にも阿鼻叫喚が溢れる。溢れていく。
どれだけの返り血を浴びても張家の黒装束は其の色を変えない。ただ、死臭を纏うのみ。
官吏の幾人もが、ひげが生えていないというだけで冥府への旅路を余儀なくされる。
目端の利く者は、這い寄る死の気配から逃れるために局部を露わにして命を繋いだなどという話も残されているほどだ。
そして。
「な、なによ!私は一介の女官よ。どうして。あ!痛い!放しなさい!」
待ち人、来たる。
「逢いたかったぜ、李儒よ」
ぼそり、と呟く紀霊。そこには万感の思いが込められていても、声は枯れ果てている。
そして深く、ため息を。
その様に李儒は顔色を白くする。悟る。宦官誅滅。それすら欺瞞工作。その真意は宮中の奥にあり、手を出せない自分。それが主眼だと。
「な、なによ。どうするつもり?此度の董卓の暴挙については私のあずかり知らぬことよ。
私を責めるのはお門違いにも……び!
ぐ、ふ……。
が……」
容赦なく、幾度も加えられた鉄拳。
李儒は反吐と鮮血を撒き散らす。
「おお赤い赤い。
なんだなあ、中身は思ったより綺麗じゃないか。
もっとこう、どす黒い、名状しがたき何かが出てくると思ってたんだが」
倒れ伏す李儒に軽く――紀霊主観である――蹴りを加えてせせら笑う。
- 447 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/31(月) 21:35:18.43 ID:RrruOudU0
- 「な、にを。わた、しは。
漢朝の、た、めに」
抗う李儒の髪を掴み、倒れ伏していた顔を上に上げる。
「そりゃあ、ご立派なことだな。だがな、そんなことはどうでもいいのさ」
吐き捨てる。
「長かった。長かったぞ。こうして、お前と向き合える場。
俺がどれだけ逢いたかったか。少しは分かって欲しいってもんさ、李儒さんよぉ」
くつくつ、と笑う紀霊に不吉なものを感じて李儒は。
「ま、待ちなさい。落ち着きなさい。わ、私を殺しても何も解決しないわよ。
そ、それに私は役に立つわよ。ねえ、それに、何でも言うこと聞くから。だから」
必死に媚を売る李儒に、いっそ穏やかと言っていい口調で紀霊は言う。
「何でも、って言ったか」
暫し瞑目し、食いしばった口からもたらされたのは、ただ一言。
「死、以外に貴様の出来ることはなさそうだな」
「ひ!嫌!死にたくない!逝きたくない!
た、助けて!お願い!」
お前が、手にかけた人たちは皆そう思っていたろうよ。
「光射す世界に、汝の闇黒、棲まう場所無し――。
渇かせてやろうか、飢えさせてやろうか。それとも永劫に痛み付けてやろうか。
色々考えていたがな。何も残さず無に還れ」
三尖刀を、一閃。
そしてこの日初めて紀家の白装束が朱く染まる。
「お見事。本懐を果たした気分はいかがかな」
「知るかよ。クソッタレな気分だよ」
だが、それでも。
「姐さんや雷薄。それに気のいいあいつら。みんな、死んだんだ。死んだんだぞ。
みんな死んじまったんだぞ!
それなのにさ、彼奴がのうのうと生きているなんて、おかしいだろう?
ああ、そうだな。気分爽快ってやつ。それを、多少の泥で濁らせたらこんなもんかな」
これで、前に進めるというもの。
嘯(うそぶ)く紀霊に笑みを一つ。それにしかめ面で紀霊が言う。
「何か文句でもあったら言っとけ。
言いづらいなら七乃なり風にでも言っとけ。
ため込んで、我慢して。それで、いいことなんてあんましないからな」
はあ、と遠い目をする紀霊に張郃は表情を改める。
「いえ、この身。
いかようにも使い潰してくだされば、と思いました、が。
取り敢えず、どのようにお伝えしましょうか」
そうだな、と。暫し考えて。
「今回は、俺の私情で動いたところが大きいからなあ。
まあ、いいや。」
紀霊は、笑う。
「復讐するは、我にあり」
その言葉を伝えられた彼女らは、共に微笑んだ。
その笑みの違いは、対面した張郃のみが知ることである。
- 448 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/31(月) 21:36:36.22 ID:RrruOudU0
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
タイトル案は「復讐するは、我にあり」
もしくは、「朱く染まった日」
ええ感じのやつあったらオナシャス
- 449 :青ペン [sage]:2020/09/01(火) 10:18:09.65 ID:LkXNlqbvo
- 更新乙ーい。
また溜め込んじまったので適宜隙見ながら…
とりま今回のは
【毒蜘蛛の旅路(さいご)〜死装束を朱に染めて〜】で。
- 450 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/01(火) 21:29:52.51 ID:yLO5hVFI0
- >>449
どもです。
嬉しいやつです。
>また溜め込んじまったので適宜隙見ながら…
心のガソリンです。よろしくお願いします。
>【毒蜘蛛の旅路(さいご)〜死装束を朱に染めて〜】で。
>死装束を朱に染めて
これかっこいい。
今回じゃなくてもいつか使いたいです。メモらせてもらいますねっと。
- 451 :赤ペン [sage saga]:2020/09/02(水) 16:50:09.87 ID:jlFt85q90
- 乙でしたー
>>445
>>彼らは張家の精鋭。そしてそれを率いる当主以外は髑髏の仮面。うむ、禍々しい仮面兵団である。 今この場では率いてるのは二郎ですので
○彼らは張家の精鋭。そしてそれを統べる当主以外は髑髏の仮面。うむ、禍々しい仮面兵団である。 感覚的には(一時的に)二郎の右腕ポジ…あくまで、二郎より全員が下かな、と
>>見習いたい者である。 人じゃないので(多分二郎ちゃんが一番見習いたい相手は劉弁君?普通なら位に穴が開きそうだが)
○見習いたいものである。 何らかの物質なら【物である】ですが概念と言うか何かそんな感じなのでひらがなの方が良いと思います
>>446
>>そのすべてが数瞬後は物言わぬ骸と化していく。いくのだ。 この状況を印象付けたいのかもですが、ちょっと【いくのだ。】だと変なコミカルさが
○そのすべてが数瞬後には物言わぬ骸と化していくのだから。 前の文章の【凄惨、無残】にかける倒置法を使う感じでどうでしょう
>>髑髏の仮面を纏った黒装束の殺戮。 【仮面を纏う】…仮面だと被る感じがしますが
○黒装束を纏った髑髏の面の集団による殺戮。 こんな感じでどうでしょう
>>447
>>少しは分かって欲しいってもんさ、李儒さんよぉ」 李儒が欲しいだって?!
○少しは分かってほしいってもんさ、李儒さんよぉ」 補助形容詞なのでひらがなですね
>>「光射す世界に、汝の闇黒、棲まう場所無し――。 闇黒(罪)だけ殺して人は憎まない方向で…楽進さんにも人を殺さずその怨念を殺すとか教えてたわけですし
○「光射す世界に、汝ら闇黒、棲まう場所無し――。 (元ネタでは)闇黒そのものなんですね、じゃあ対象外ってことで、お疲れっしたーっす
>>それとも永劫に痛み付けてやろうか。 痛みを付ける?傷なら付けるものですが
○それとも永劫に痛め付けてやろうか。 と思ったら一応消えない痛みを残すとかの意味では存在するっぽい?まあ一般的にはこっちの方がなじみ深いかな、と(痛め付けるがなじむとかちょっと怖いなw)
>>これで、前に進めるというもの。 これはどっちの言葉か難しいな
○これで、前に進めるというものです。 (泥で濁らせたら云々と)嘯く紀霊に笑みを一つ(しながら言葉をかけた)のか
○これで、前に進めるというものさ。 (と)嘯く紀霊に笑みを一つ(投げかけた)のか…チョウゴウと雷簿の関係とか考えるとどっちのパターンでもそれぞれの言葉を発した感情とそれに対する受け取り方が色々あるから悩ましい
>>それで、いいことなんてあんましないからな」 間違いではないですが《あんま、しないからな》と読み間違えそうなので
○それで、いいことなんてあんまりないからな」 の方が良いと思います
死の安らぎは等しく訪れよう、賢人にあらずとも、善人にあらずとも(めがてんかん)
董卓との関わりは知らんが何進の暗殺を防げなかった以上どう繕ってもお前さんは漢朝にとって総合的に+にはならんよ、その程度のこともできない能力ならいらんし、しなかったなら尚のこといらんし
紀霊の言伝を聞いた時の笑みだけでご飯三杯いけそうなチョウゴウさん…一言でいうなら二人ともとってもきれいな笑顔だったんだろうなあ
- 452 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/02(水) 21:44:09.25 ID:ozDCEB4r0
- >>451
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
いくつもなるほどですた。
じっくり検討させていただきます!
>闇黒(罪)だけ殺して人は憎まない方向で…楽進さんにも人を殺さずその怨念を殺すとか教えてたわけですし
その場のノリで言っただけな台詞が二郎ちゃんを襲う!
>これはどっちの言葉か難しいな
二郎ちゃんと思ってましたが、含みができて、そのままの方がいいかもしれないなと思いました
>死の安らぎは等しく訪れよう、賢人にあらずとも、善人にあらずとも(めがてんかん)
ああ、これがあったか!これ使おうかな。使ったらやばいかな???
>董卓との関わりは知らんが何進の暗殺を防げなかった以上どう繕ってもお前さんは漢朝にとって総合的に+にはならんよ、その程度のこともできない能力ならいらんし、しなかったなら尚のこといらんし
まあ、そうなりますよねえ。
何進は偉大だった
>紀霊の言伝を聞いた時の笑みだけでご飯三杯いけそうなチョウゴウさん…一言でいうなら二人ともとってもきれいな笑顔だったんだろうなあ
愉悦というやつですね。
それはともかく、暴れん坊です。彼ら。
ぬ
- 453 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/02(水) 22:33:59.24 ID:ozDCEB4r0
- 「やってくれたわね、二郎……」
日輪がその姿を現すかどうか、その未明のことである。
その報せを聞いた曹操はぎり、と歯を噛みしめて呟いた。まさか、という思い。湧き起こる激情。
――時はしばし遡る。
◆◆◆
「華琳様!一大事です!」
曹操がこの日目覚めたのは信頼する参謀の、常になく慌てた声であった。
「何だ、騒がしい」
このとき同衾していたのは夏候惇である。彼女が即座に起き上がり、曹操への道を防ぐように――一糸まとわぬ姿――で応じる。
「あんたはすっこんでなさい!一大事なのよ!」
尚も言い募ろうとする荀ケと夏候惇を、手早く薄布を纏った曹操が制する。
「いいわ、桂花。貴女が一大事だと言うのだもの。よっぽどのことなのでしょう?」
情事の残り香。その色香にどきりとしながら荀ケは言葉を続ける。
「はい!」
そしてもたらされた情報は驚くべきものであった。
「なんと、宦官誅滅とは二郎め。
思い切ったことをするな……」
ふむ、と考え込む夏候惇を糾弾する声が起こる。
「あんた馬鹿?
いい?宦官ってのはね。華琳様の宮中におけるこれから政治的な後援者、後ろ盾になるはずだったのよ!
それが誅滅されてしまったらどうなるか!」
なんとなれば、曹操の出自は宦官なのである。その宦官は当然子をなすことが出来ない。そうしてとった養子、さらにその子。それが曹操だ。
であるからして、これから漢朝の中枢に食い込むにあたっての足掛かりとしを想定するのは当然のこと。そして曹操陣営は宦官勢力を友好勢力と見なしていたし、宦官にしても魚心あれば水心。他の勢力に比べれば気心もしれていようものであるからして。
「フン、なにをいまさら。これまでその宦官とやらが我らにどれほどのことをしてくれたというのか。第一、そんなもの一切なくとも華琳さまは飛翔なさる!
少なくとも私はそう確信しているぞ」
言い争う配下。文武の要のそのやりとり。それに曹操はくすり、と笑みをこぼす。
ともすれば激発しそうな自分。そして、そうならないのは間違いなく、この二人の股肱のお蔭なのだ。
「落ち着きなさいな、二人とも」
それまでの激しい口論なぞ、毛ほどもなかったように二人は曹操の言葉に集中する。聞き入る。
「桂花、まずはご苦労様。
そして春蘭。貴女の言は薫風が如く心地よいもの。いつも以上に私を楽しませてくれたわ」
有難き幸せとばかりに、二人は曹操の前に膝をつく。
「でもね、桂花。無論、報(しら)せはそれだけではないのでしょう?」
曹操の笑みが深まる。
「は。袁家の一連の動き。夏侯淵将軍に――」
言い終わらぬうちに青い疾風が吹き込む。
「報告いたします。
袁家全軍、および公孫家、孫家が洛陽の城壁外に布陣を始めております。どうやら払暁よりも早くから動き出していた模様。
なお、四半刻もすればその陣構えは完了するかと」
- 454 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/02(水) 22:34:25.24 ID:ozDCEB4r0
- 怜悧な口調を崩さぬままに要点のみを主君に伝える。緊急と思えばこそ前口上も不要とばかりに簡潔に述べる。
曹操もそれを褒めこそすれ咎めるなぞしないであろう。それくらいの信頼関係はできている。
そしてその報に、言葉を失う。どういうことだと。
だが、ここにその例外がいる。
「ふむ、抜け駆けもここまでくれば見事なものだ」
誰あろう、夏候惇である。
「アンタね!何を呑気な!」
その言、即座に噛みついたのは荀ケである。これは彼女らの日常を再現しているようなものであろう。それにより、僅かに空気が弛緩する。
「兵は詭道なり。
騙される方が悪いと常々言っているのは貴様だろうに」
ギャンギャンと吠える軍師を半ばあきれたように見下ろして。
夏候惇はむしろ、不思議そうに問うのだ。
それに応える声は涼しく響く。
「まあ、姉者の言う通りではある。
それに、まだ我らはなにもしていないしされてもいない。これから如何様にでもなるだろうさ。
それはそうと姉者。流石に何か着るべきだと思うが」
ふむ、とばかりに頷き今更ながらに身づくろいを始める夏候惇。その様子にくすり、と笑って曹操は口を開く。
「秋蘭、まずはご苦労様。季衣は物見に残しているようね。いいでしょう。
そうね、初動はそれでいいわ。
そして、実際に一杯喰わされてしまったのも確かなことよ」
だが、と曹操は不敵に笑う。
「この程度、窮地でもなんでもないわ。二郎がどのような絵図を描いたとしても私はその上をいきましょう。
桂花、春蘭、秋蘭。まずは陣構えを!」
応とばかりに散る股肱の臣を満足げに見守り、曹操は誰にともなく呟く。
くすり。くすくす。
「ええ、二郎。
私を蚊帳の外においておくなんて――」
ひどいんだから。
薄闇に差し込む陽光を受け、その笑みは輝いていたのであった。
- 455 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/03(木) 05:57:42.67 ID:ycpGCHS80
- ここまですー感想とかくだしあー
題名はなんだろうなあ
覇王の目覚め
とかかなあ
- 456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/03(木) 11:12:23.68 ID:MLJ9d+WRo
- おつしたー
何気に曹操出し抜けてるのつおぃなぁ
タイトル案は「覇王のいぬ間に」で
- 457 :赤ペン [sage saga]:2020/09/03(木) 13:47:12.41 ID:FPs+T2tK0
- 乙でしたー 歌詞をパクったわけじゃないし使っても良いとは思いますがあれに使うには上等すぎるのではと言うもったいない精神がw
>>453
>>日輪がその姿を現すかどうか、その未明のことである。 意味がかぶってるかなあ日が出るか出ないかの時が未明なので
○日輪がその姿を現すかどうかと言った未明のことである。 それとも【喫緊の問題も無く、久方ぶりにたっぷりと褥を楽しんだ、その未明のことである。】とかで曹操にとってまさに一杯食わされた感を出したりなんだり…どういう状況からの【未明】なのかを書くといいと思います
>>曹操がこの日目覚めたのは信頼する参謀の、常になく慌てた声であった。 間違いと言うほどではないですが【目覚めたのは〜声であった。】となるので
○曹操がこの日目覚めたのは信頼する参謀の、常になく慌てた声によってであった。 もしくは【曹操のこの日の起床は、信頼する参謀の常になく慌てた声であった。】う〜ん
○曹操のこの日の起床は、信頼する参謀の常になく慌てた声によるものであった。 もしくは【曹操のこの日の目覚めは〜】とかどうでしょう
>>曹操への道を防ぐように――一糸まとわぬ姿――で応じる。 【防ぐにようにで応じる。】?
○曹操への道を防ぐように――一糸まとわぬ姿で――応じる。 の方が良いと思います
>>尚も言い募ろうとする荀ケと夏候惇を、手早く薄布を纏った曹操が制する。 【一大事】の内容を言い募るなら問題ないと思ったけどこれ【すっこんでなさい】の方か
○尚も言い争いを続けようとする荀ケと夏候惇を、手早く薄布を纏った曹操が制する。 【言い合い】とか【口喧嘩】とか【問答】も考えましたがちょっと違うかな…
>>そうしてとった養子、さらにその子。 間違いではないです
○それゆえとった養子、さらにその子。 【そうして】だと動機よりも手段の印象があるのでちょっと変更
>>これから漢朝の中枢に食い込むにあたっての足掛かりとしを想定するのは当然のこと。 久しぶりのケアレスミス
○これから漢朝の中枢に食い込むにあたっての足掛かりとして想定するのは当然のこと。 もしくは【足掛かりとすることを】かな?
トンねぇまじトンねぇ…二郎たちとしては何進がいない状態で曹操にブーストとかまじ無理だから少しでも、ね
この一刀唐竹割並みの活にして断…自縄自縛とは無縁の闊達さはまさに曹操の右腕よな
あとねこみみはお前別に袁家に好意持ってないんだから相手側が自分たちに無条件で好意を向けるわけがないって自覚して、どうぞ
自分だって袁家を怒らせないギリギリのラインで優位立てる状況ならするだろ?
- 458 :青ペン [sage]:2020/09/03(木) 20:14:22.72 ID:laKH0HKMo
- >>455
乙ーい。
ちょいとひねって
【尊べ!電光石火】
といってみようかにゃ?
- 459 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/03(木) 22:03:25.06 ID:ycpGCHS80
- >>456
感想ありがとうございますー
>何気に曹操出し抜けてるのつおぃなぁ
謀略というか、仕掛けた方が圧倒的に有利なんすよね
先手必勝は真理でございます
>タイトル案は「覇王のいぬ間に」で
覇王であったか。。。
覇王になりませんように。。。
>>457
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
> 歌詞をパクったわけじゃないし使っても良いとは思いますがあれに使うには上等すぎるのではと言うもったいない精神がw
わかりみw
でも使いたい!ちょっと考えます。
>トンねぇまじトンねぇ…二郎たちとしては何進がいない状態で曹操にブーストとかまじ無理だから少しでも、ね
dでもねぇ
はおーが覇王になったらえらいこっちゃ祭りです
>この一刀唐竹割並みの活にして断…自縄自縛とは無縁の闊達さはまさに曹操の右腕よな
まさに曹家の大剣ですわ。ネコミミと仲良く?喧嘩する様は一生書いてられる。。。。
>あとねこみみはお前別に袁家に好意持ってないんだから相手側が自分たちに無条件で好意を向けるわけがないって自覚して、どうぞ
はおーからして、自分がうらぎるのはええけど、相手が裏切るのは許さないですからね、多少はね?
>>458
どもです。
>【尊べ!電光石火】
ひねった!ひねってきた!その捻りは想定外!
- 460 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/03(木) 23:03:01.22 ID:ycpGCHS80
- 「ご主人様!桃香様!お目覚め下さい!一大事です!」
日輪が昇り、人が活動を始めるであろう時間帯。確かに日の出と共に起き、日の入りと共に床に就く生活が一般なこの時代――無論、贅沢に照明を使って夜を楽しむ者もいるが――では寝坊と言っていい時間帯である。
「愛紗、なんだ。まだ早いじゃないか。そんなに慌てているからよっぽど寝過ごしちゃったかと思ったろ」
そう、慌てることはない。洛陽に兵を進めるのは日輪が中天に至ってから。大所帯という訳でもないし、最近は随分と統制も取れてきている。精々半刻もあれば準備は整うであろう。
それに、昨日はまあ、戦勝の前祝ということらしく大盤振る舞いがあった。それまでは散々兵糧の拠出を渋っていた兵站が酒や肴まで――それも兵卒に十分に行き渡るまで――だ!
大いに飲み、食い、騒いだ。そしてまあ、すこしくらいは呑み過ぎてしまったのも確かではあるが。なにせ袁家秘蔵の火酒なるものはそれまでの酒と比べ、明らかに別物といっていいもの。喉を焼く感覚、まさに火酒であった。味見程度とはいえ、関羽もそれを味わっていたはずなのだが――。
「それです!洛陽への道がふさがれております!」
「なんだって?もう、敵はいないんじゃなかったのか!」
一体、誰が、と。
その問いに関羽が応えるより先に口を開くのは諸葛亮。
「袁家、でしょうか。それに追随する軍閥――白蓮さんあたりと見ました」
「そ、その通りだ。それに付け加えて、孫家だった」
牙門旗を確認した限りではだが、と関羽は毒気を抜かれたように呟く。
「もし、敵対する勢力であるならば昨夜、或いは日の出と共に私たちを含む反董卓連合はうち滅ぼされていたでしょう。もしくは、袁家が防衛戦を繰り広げていたはず。
ですから、ことここに至っては袁家のみがそれを可能とするのです」
「え、でもなんでなの?なんで袁紹さんはそんなことするんだろ」
不思議そうに小首を傾げる劉備に諸葛亮は苦笑する。
「勿論、理由はありますし、推論はありますがそれはあやふやなものです。
ですから、行きましょう。私たちが抱くその疑問は他の諸侯軍も持つものです。
きっとその答えがあるはずです」
にこり、と笑う諸葛亮に北郷一刀は安堵を覚える。
なに、絶対無敵の軍師がそう言うならばきっとそうなのだろう、と。
- 461 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/03(木) 23:03:28.08 ID:ycpGCHS80
- ◆◆◆
「さて、馬家軍か。どうなることやら」
公孫賛はわずかに苦笑する。公孫がその軍を展開するのはちょうど馬家軍の正面あたり。
袁家の差配に馬家が不穏な動きあらば抑えるのが役割となっている。
「……貧乏くじと思っている?」
すぐそばに控える韓浩が問うてくる。
くすり、と笑みが浮かぶのを制せない。なんとなれば戦場でそのような、彼女のような存在が脇にあったことなぞ、ついぞなかったのだから。
「いや、本懐だな」
感慨深く公孫賛は言う。
それは脇に参謀、或いは副将という存在がいるということだけではない。
「だってそうだろう?洛陽の無辜の民。その安寧を守れるのだろう?
これほどの喜びがあるもんか」
――公孫賛は北方の弱小軍閥の出である。
常に匈奴の脅威に晒され、抗い、戦ってきた。
その戦いは常に受け身。侵入する匈奴に対する対処に過ぎない。
――天高く、馬肥ゆる秋。
それは公孫賛にとって、北方の漢民族にとっては戦慄の季節。匈奴が長城を越えてやってくる季節のことに他ならない。その文句は間違っても豊穣を祝う意味ではないのだ。
そして訪れる災厄。男は殺され、女子供は犯され、浚われる。
その惨状に幾度無念とわが身の無力を嘆いたか。
- 462 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/03(木) 23:03:58.57 ID:ycpGCHS80
- 替え馬すら満足に用意できず、幾度取り逃がしたか。幾度民の悲鳴を聞き、悲嘆を聴き、怨恨を背負ったか。
騎射という匈奴の技術を公孫が身に付けたのも、そのためだ。戦利品の財貨や女を背負った匈奴ども。その重荷に、地平の彼方にあったその姿はやがては手の届きそうなところまで追いつめても、その、届きそうなところに用意されている替え馬。単純な機動力では敵わない。だから騎射という匈奴の技術を身に付けた。
だからこそ公孫家は、弱小軍閥としてはありえないほどの躍進を遂げたのだ。
そう、こと対騎馬戦においてはかの馬家軍相手でも譲るつもりはない。
今となっては白馬義従が武威により、公孫の牙門旗がある村落には匈奴は近づきもしないのだから。
「それにしてもなんかこう、落ち着かないなあ」
公孫賛は馬上でそう、誰に聞かせるわけでもなく呟く。
その声に韓浩は無感動に応える。
「いい加減、自分の立ち位置というのを認識するべきと思う。
この戦場において、こと戦闘経験という意味では公孫賛殿はかの馬家軍の令嬢をもはるかに凌ぐ。これは世辞ではない。厳然たる事実。この中華で貴女より歴戦なぞ、そうはいない。しかも、匈奴相手に、だ」
あくまで淡々と韓浩は呟く。
「お、おう」
常になく真正面からのその思いに公孫賛は戸惑い、そして破顔する。
「そうか、そうだな。他でもない韓浩がそうまで言ってくれるならば、白馬義従は無敵さ。そうだろう?」
是、と迷いなく韓浩は頷く。
「なに、母流龍九商会の長弓兵も後詰に来ている。こちらの指示に従ってくれるそうだ。
……愛されているようでなにより」
「な!」
かあ、と頬を上気させて公孫賛は目を白黒させる。
からかっているのか、揶揄しているのかと思うも韓浩の鉄面皮はぴくりとも動かない。
どうやら、本心からの言葉だったようである。
……それはそれでなんだかなあ。
何とも言えない表情の公孫賛を韓浩は僅かに首を傾げて怪訝そうにする。
「――何か?」
「いーや、なんでもない!なんでもないったらない!」
まあ、会話が微妙に噛み合わないのはよくあることである。
それでも、確かな絆がそこにはある。これはきっと自分だけの思い込みではないはずだ。
単身で駆けまわっていた頃に比べて、なんと恵まれていることか。
それもこれも。
「結局、二郎のおかげなんだよなあ……」
くす、と薄く笑み、気を引き締める。
絶対に負けられない。彼の為にも。
無論、戦端が開かれるとは決まっていないのだけれども。
- 463 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/03(木) 23:04:29.68 ID:ycpGCHS80
- 替え馬すら満足に用意できず、幾度取り逃がしたか。幾度民の悲鳴を聞き、悲嘆を聴き、怨恨を背負ったか。
騎射という匈奴の技術を公孫が身に付けたのも、そのためだ。戦利品の財貨や女を背負った匈奴ども。その重荷に、地平の彼方にあったその姿はやがては手の届きそうなところまで追いつめても、その、届きそうなところに用意されている替え馬。単純な機動力では敵わない。だから騎射という匈奴の技術を身に付けた。
だからこそ公孫家は、弱小軍閥としてはありえないほどの躍進を遂げたのだ。
そう、こと対騎馬戦においてはかの馬家軍相手でも譲るつもりはない。
今となっては白馬義従が武威により、公孫の牙門旗がある村落には匈奴は近づきもしないのだから。
「それにしてもなんかこう、落ち着かないなあ」
公孫賛は馬上でそう、誰に聞かせるわけでもなく呟く。
その声に韓浩は無感動に応える。
「いい加減、自分の立ち位置というのを認識するべきと思う。
この戦場において、こと戦闘経験という意味では公孫賛殿はかの馬家軍の令嬢をもはるかに凌ぐ。これは世辞ではない。厳然たる事実。この中華で貴女より歴戦なぞ、そうはいない。しかも、匈奴相手に、だ」
あくまで淡々と韓浩は呟く。
「お、おう」
常になく真正面からのその思いに公孫賛は戸惑い、そして破顔する。
「そうか、そうだな。他でもない韓浩がそうまで言ってくれるならば、白馬義従は無敵さ。そうだろう?」
是、と迷いなく韓浩は頷く。
「なに、母流龍九商会の長弓兵も後詰に来ている。こちらの指示に従ってくれるそうだ。
……愛されているようでなにより」
「な!」
かあ、と頬を上気させて公孫賛は目を白黒させる。
からかっているのか、揶揄しているのかと思うも韓浩の鉄面皮はぴくりとも動かない。
どうやら、本心からの言葉だったようである。
……それはそれでなんだかなあ。
何とも言えない表情の公孫賛を韓浩は僅かに首を傾げて怪訝そうにする。
「――何か?」
「いーや、なんでもない!なんでもないったらない!」
まあ、会話が微妙に噛み合わないのはよくあることである。
それでも、確かな絆がそこにはある。これはきっと自分だけの思い込みではないはずだ。
単身で駆けまわっていた頃に比べて、なんと恵まれていることか。
それもこれも。
「結局、二郎のおかげなんだよなあ……」
くす、と薄く笑み、気を引き締める。
絶対に負けられない。彼の為にも。
無論、戦端が開かれるとは決まっていないのだけれども。
- 464 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/03(木) 23:05:12.78 ID:ycpGCHS80
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
題名募集しまくりんぐですよ本当に!
案は「地味様の憂鬱、或いは腹心との語らい」
そんな感じです
- 465 :赤ペン [sage saga]:2020/09/05(土) 16:07:57.62 ID:PTNduLdB0
- 乙でしたー>>はおーからして、自分がうらぎるのはええけど、相手が裏切るのは許さないですからね、多少はね? はおーはそれでいいけど軍師がそれじゃあかんやろ(マジレス
>>460
>>「ご主人様!桃香様!お目覚め下さい!一大事です!」 補助動詞なので
○「ご主人様!桃香様!お目覚めください!一大事です!」 ですね(わかりやすい例文としては【上着を脱いでください】これを漢字にすると上着が欲しいことになります)
>>それまでは散々兵糧の拠出を渋っていた兵站が酒や肴まで――それも兵卒に十分に行き渡るまで――だ! ちゃんと仕事ができる程度には出してたと思うんだけど…大食漢の分とか水増し請求して睨まれたんじゃねーの?
○それまでは散々出し渋っていた兵糧のみならず酒や肴まで――それも兵卒に十分に行き渡るまで――だ! 【拠出】だと出し合うことなので(まあ兵力は出してたんでしょうけど)袁家に集ってしかいないのに面の皮厚いっすわ。ちなみに兵糧は必要な食糧なので《食料だけじゃなくて嗜好品まで》って意味でこの方が良いと思います
>>その問いに関羽が応えるより先に口を開くのは諸葛亮。 【誰が?】という問いに対しては
○その問いに関羽が答えるより先に口を開くのは諸葛亮。 こうですね《袁家が?》という問いなら《是、と応える》のもありですが
>>462
>>「なに、母流龍九商会の長弓兵も後詰に来ている。 反董卓連合に商会が商会として戦力出してるの?
○「なに、袁家の長弓兵も後詰に来ている。 普通に袁家が徴兵した(という建前の)一般兵でいい気がする(賤業の私兵とか諸侯勢力からいらんいちゃもん付けられそうだし)
>>463 丸っと重複してますね
>>夜を楽しむ者もいる…アッ(察し)モゲレバイイノニ
>>そんなに慌てているからよっぽど寝過ごしちゃったかと思ったろ」 【よっぽど】じゃなくても寝過ごしたことを恥じろ。そもそも一大事って言われてんだろ山賊の奇襲報告だったらどうすんだよ
絶対にこいつら(兵卒含む)いつも以上に食って飲んで食い過ぎ、二日酔いの役立たず集団になってるな
そういえば韓浩は【公孫瓚殿】呼びなんだな…らしいと言えばらしいけどもっと胸襟を開いて良いのよ?地味様が尊過ぎて…原作だと兵力と領民をNTRされてんだよなあ
- 466 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/05(土) 16:47:20.14 ID:qvVR2asK0
- >>465
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
ほむ
> はおーはそれでいいけど軍師がそれじゃあかんやろ(マジレス
ぐうの音も出ない正論ですw
でもネコミミの欠点ここなんですよねえ。。どう考えても。。。
はおーが覇王になれない一因ですわこれ
稟ちゃんさんと風ちゃんがいたら問題なく覇王になってたんだろうなあと。
>絶対にこいつら(兵卒含む)いつも以上に食って飲んで食い過ぎ、二日酔いの役立たず集団になってるな
普段飲んでない人間が蒸留酒飲むと頭痛いし吐き気もするしで、ある意味毒を盛ったのと変わらないっしょw
>そういえば韓浩は【公孫瓚殿】呼びなんだな…らしいと言えばらしいけどもっと胸襟を開いて良いのよ?
「一理ある。だが新参かつ外様の自分は分をわきまえるのがよかろう」
とのことです。お堅い!
>地味様が尊過ぎて…原作だと兵力と領民をNTRされてんだよなあ
これはひどい案件ですわw
そしてそれを快く送り出す人の良さよ!
ねえ。。。
- 467 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/06(日) 21:55:54.93 ID:PuubI+Mi0
- ざわめきが徐々に、だが確実に広がっていく。
日輪が昇り切り、前夜の狂騒の残滓を振り払ってのそりと起き出した諸侯軍は端的に言って戸惑っていた。
これよりは洛陽に進軍するのみ。もはや抵抗勢力はなく、進軍するのみ。だのに。
なぜ洛陽への道は既に陣構えを終えた軍勢によって塞がれているのであろうか、と。
「物流に難がある洛陽では反董卓連合の大軍を受け容れる余地がない」
袁家からはそのような事情を説明する書状が回されてくるが、それで納得する諸侯軍ではない。
「なるほど、確かに凄い人数だもんな。そりゃあ混乱するか。でもそれにしたらものものしくないか?」
北郷一刀は浮かんだ疑問を口にする。
「はい。確かにそうです。あれは、断固として通さないという袁家の意思表示がうかがえます」
「でも、何で袁家軍だけじゃなく諸侯軍も殺気立ってるんだ?」
膠着した状況が暫し続き、諸侯軍からは不穏な気配が立ち上る。そう、諸侯軍としてみたら上前をはねられたようなものである。たまったものではない。
そう、たまったものではないのだ。
「それは……」
そして諸葛亮は口ごもる。果たしてそれを聞かせていいものか。
「朱里、分かっているなら教えてくれないか」
そう、言われてしまえば否やはない。
「……諸侯軍は常備軍ではありません。それが最大の理由です」
「どういうことだい?」
首を傾げる北郷一刀と劉備に鳳統が言葉を続ける。
「諸侯軍の兵力。それは正規の兵ではありません。極端な話、そこいらの農民、流民に武器をもたせただけというのが実態です」
まあ、それは自分たち義勇軍も変わらないのではあるが。
「戸籍のしっかりした民を動員すればするほど手元の領内の収入は減ります。そしてそれは動員された兵も同じく、です」
武具、糧食に費やされた軍費。それは諸侯の財政を圧迫する。誰がこのように大規模な出兵――それも長期間の、だ――を想定なぞしていようか。
「ですから、いえ、だからこそ諸侯軍は洛陽への進軍を待ち構えていたのでしょう」
この時代、進軍に伴う略奪は黙認されている。そして貧しい寒村ならばともかく、これから進軍するのは肥え太った洛陽である。どれだけの富が蓄えられていることか。そしてその富を分捕った後は領地に帰るだけなのだ。
- 468 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/06(日) 21:56:40.28 ID:PuubI+Mi0
- 「そんな……ひどい……」
劉備の悲しげな言葉にやはり言うべきではなかったか、と諸葛亮は僅かに後悔する。
「でも、じゃあ、どうして袁家は……あれじゃまるで洛陽を守っているみたいじゃないか」
北郷一刀の言は正しい。正しく袁家は洛陽を守護しようとしているのであろう。なぜならば。
「袁術殿が入内されます。故に洛陽が荒れるのは看過できないということでしょう。そして、兵を蓄えた諸侯軍は実に目障り。あわよくばここで誅滅してしまう心づもりでさえあるかもしれません」
「そんな……乱暴な!」
もっとやり様があるだろうにと北郷一刀は憤慨する。
下手をすれば洛陽は火の海になるだろう。彼の知っている歴史と同じく。
その憤懣、或いは悲嘆。
だが、と思い諸葛亮は傍らの親友に問う。
「……雛里ちゃん、あれ、抜ける?」
こと、千変万化たる戦場の機微に関して諸葛亮は鳳統に一歩も二歩も譲るのを自覚している。
「無理だよ、朱里ちゃん。中央に陣取る顔家軍の重厚さ。左右を固める孫家軍と公孫。どっちも陣構えだけでその歴戦が分かるよ。そこに遊軍として紀家軍。決戦勢力として文家軍がいるんだよ?しかも本陣は更に分厚い袁家旗本。
あれを抜くなら、倍は、欲しいな」
実際、反董卓連合と言ってもその内実は袁家軍単独でも成り立つもの。
そしてその威容があるからこそ大多数の諸侯を前にしても袁家軍は揺るがない。質、量ともに恐るべきものである。将帥も、兵卒も。
「うん。私なら三倍は欲しい。雛里ちゃんの言う通りと思う。
桃香様、ご主人様。恋さんでもいない限り目の前の陣を突破することはまず無理でしょう」
「じゃあ、それが鈴々と愛紗ならどうだろう」
ふと、好奇心で北郷一刀はそう尋ねてみる。
「……何とも言えません。私からはなんとも。雛里ちゃん、どう?」
急に話を振られた鳳統は慌てつつも所見を述べる。
「あわわ……。駄目です。勝ち目はないです。
まずもってお二人を前線に出したならば、敵はこちらの本陣を急襲してくるでしょう。
と言って、どちらかお一人ならば星さんに足止めさせられます」
それに、あの呂布に手傷を負わせた顔良もいる。改めて袁家の分厚い陣容を再認識する。個の武勇でどうこうできるものではない。
いや、そもそも一騎打ちの優劣で戦場を語ってはいけない。そのような偶発的な状況を許すほど袁家は甘くないだろう。
少なくとも、自分たちの手持ちの兵力では如何ともしがたい。そう諸葛亮は内心歯噛みする。質も量もまるで足りない。将帥の優秀さあある故にそれが残念でならない。未だ中華に影響を与える打ち手としてはその前提とする力がまるで足りないのだ。
この場で、一石を投じるとすればせめて馬家軍か曹家軍くらいの武威がないことにはお話にならない。
「あ……!」
そしてその、状況を動かすに足る陣営が動く。
「あれは……?」
北郷一刀の呟き。
そう。
曹家軍きっての猛将夏候惇。それが少数の手勢を率いて、陣取る袁家軍に相対する。
陣頭の夏候惇は高らかに口を開く。
「曹家軍名代夏候惇である!洛陽への道を塞ぐ袁家に問いたいことがある!いざ尋常に応えられたし!」
そして状況を動かすのは曹操。夏候惇の口上を満足げに、不敵に笑いながら見守る。
その根底には怒りがある。
よくも自分をのけものにしてくれたな、と。
やられたままではいられない。それが曹操である。
- 469 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/06(日) 21:57:06.81 ID:PuubI+Mi0
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
題名未定です
- 470 :赤ペン [sage saga]:2020/09/07(月) 18:27:43.93 ID:GgWEZK4E0
- 乙でしたー
>>467
>>そう、諸侯軍としてみたら上前をはねられたようなものである。 間違いではないですが
○そう、諸侯軍からすれば上前をはねられたようなものである。 まあ好みの問題かな
>>そう、言われてしまえば否やはない。 《そうなってしまえば》と同じような使い方なので
○そう言われてしまえば否やはない。 の方が良いと思います
>>「ですから、いえ、だからこそ諸侯軍は洛陽への進軍を待ち構えていたのでしょう」 間違いではないですがこれだと《こっちに来い》感が強いというか罠をはって相手が掛かるのを待ってるような印象があるので
○「ですから、いえ、だからこそ諸侯軍は洛陽への進軍を待ち望んでいたのでしょう」 もっとSAGEしたいなら【進軍を舌なめずりしていた】とか?こいつどっちも糞とか考えてそうだしなあ…【進軍の時を待ちわびていた】とかどうでしょう
>>468
>>諸葛亮は鳳統に一歩も二歩も譲るのを自覚している。 【譲る】だと上位者が下位者に。の印象があるのでちょっと違和感が
○諸葛亮は鳳統に一歩も二歩も劣るのを自覚している。 もしくは【鳳統に一歩二歩及ばないのを】だと負けん気の強さが出るかな?【鳳統には引けをとるのを】だとガチで客観視してる感じが出せる…なおご主人様の寵愛を考えるとこうはできないだろうね
>>左右を固める孫家軍と公孫。 単騎?軍の体をなしてない寄せ集めの揶揄?
○左右を固める孫家軍と公孫家軍。 (精鋭で)数が少ないから【公孫】呼びなのかな?
>>あわよくばここで誅滅してしまう心づもりでさえあるかもしれません」 本気でそれをやるなら食料に毒なり薬なり混ぜるだろうしそんなつもりが無いこと分かって言ってるのかねえ
>>「そんな……乱暴な!」 案の定推論を真実にして袁家に怒り向けてるしw董卓の治めてた洛陽を守ってるという事実から見直そうとは…しないんだなあ
ちょっとご飯食べてきます
- 471 :赤ペン [sage saga]:2020/09/07(月) 23:54:57.95 ID:GgWEZK4E0
- さて続きを
>>468
>>「うん。私なら三倍は欲しい。雛里ちゃんの言う通りと思う。 ちょっと読みづらいような?
〇「うん。私なら三倍は欲しい。雛里ちゃんの言う通りだと思う。 の方が良いと思います
>>少なくとも、自分たちの手持ちの兵力では如何ともしがたい。そう諸葛亮は内心歯噛みする。 【歯噛みする】は慣用句なのでこの書き方だと≪内心はらわたが煮えくり返る≫のような…まあそれを知られたくないならありかもですが
〇少なくとも、自分たちの手持ちの兵力では如何ともしがたい。そう諸葛亮は歯噛みする。 敬愛するご主人様に「できるか?」と聞かれて「できない」と答えるなら悔しそうな顔を隠す意味もないでしょうし
>>将帥の優秀さあある故にそれが残念でならない。 何かが足りないけど何が足りないのか
〇将帥の優秀さならば引けを取らない自負がある故にそれが残念でならない。 兵の質、量と将の量で大敗してるけどここだけは勝ってると(無い)胸を張ってそう
>>馬家軍か曹家軍くらいの武威がないことにはお話にならない。 結構ひっ迫した状況なのに危機感というか緊張感が足りない気がする
〇馬家軍か曹家軍くらいの武威がないことには話にもならない。 【も】を入れることで強調されるので…例えば≪戦いにならない≫と≪戦いにもならない≫だと後者の方が差があるような気がします
袁家の万人の100歩を以て覇王の万歩を阻む。って感じですかね…交渉とは相手に応じないことに不都合があって初めて打てる手であるな
そもそも天の御使いは「袁家が洛陽を守ってるよ、よかったね」で済ませとけよ、めんどくせえな。
- 472 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/09(水) 05:59:08.10 ID:7tRPZSxX0
- >>471
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
>袁家の万人の100歩を以て覇王の万歩を阻む。って感じですかね…交渉とは相手に応じないことに不都合があって初めて打てる手であるな
今のところ、はおーです。まだ。
>そもそも天の御使いは「袁家が洛陽を守ってるよ、よかったね」で済ませとけよ、めんどくせえな。
これには笑いましたw
自分たちが世界の中心であるという万能感。若者の特権的なやつをこじらせてる感じですかね。
ここまであんまりいいところないですからねえ。。。
- 473 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/10(木) 21:36:18.80 ID:vY1pce2o0
- 「ご報告申し上げます!今上陛下劉弁様ご無事!並びに紀霊将軍は宦官誅滅したとのことです!」
伝令の声に張りつめていた室の空気が僅かに緩む。
「ご苦労様です。下がってよろしい」
そして平淡に響く郭嘉の声が、盛り上がりかけた場を引き締める。
なんとなれば、まだことが終わったわけではない。この、本営にありて諸侯軍と対峙する彼らにとってはこれからが本番といってもいい。
「ふむ、まずは陛下のご無事を確保できたようですな」
口を開いたのは張魯である。彼が華佗と共にこの本陣にいる意味は極めて大きい。
張魯と華佗以外に袁家以外の人物となると、孫尚香くらいのものである。袁紹と、彼女を補佐する郭嘉。その護衛に楽進。袁術と孫尚香。その二人を典韋が守護している。まあ、袁術と孫尚香については孫家守護獣たる白虎に埋もれて安らかな寝息を立てているのではあるが。
ともかく、この場に五斗米道の二人がいるというのはこの上ない意味を持つ。漢中という要衝に根拠を置く五斗米道。南は劉焉、北は韓遂から有形無形の圧力を受けているその地、この勢力。それを袁家が後ろ盾になるということをわかりやすく表明している。
まあ、袁家の重要人物が負傷した時の備えという意味もある。なにせ、即死でなければどのような傷病であっても治してみせるという神仙の如き奇跡をもたらす、まさに神医なのだ。張魯も華佗も。
「当然ですわ。二郎さんが陣頭指揮されてるのですもの」
くすり、と艶然と笑みを浮かべる袁紹。その背には光輝すら幻視されるほど。
「なるほど。二郎君は随分と信用されているようだ」
あら。これは心外な、と袁紹は異を唱える。
「信頼ですわよ?張魯さん」
「これは一本取られましたな」
ひとしきり笑みを漏らした後に、問う。
「ここからが難しいところですな。諸侯はいずれも洛陽の財貨を当てにしているのでしょう。
果たして、退けと言って退くものですかな?」
常に強大な勢力に脅かされてきた張魯としては疑問を呈さざるをえない。なんとなれば、利害、利益というものは道理や倫理を軽く踏みつぶすものだからして。
「郭嘉さん?」
袁紹はくすり、と笑って傍らの軍師に答えさせる。
「は。確かに諸侯軍は収まらないでしょう。ですが、それでも袁家軍と正面切ってまでの覚悟がある諸侯なぞおりません。
いえ、この戦力差で暴発するような愚物があるのならばこの場で潰してしまうのが最善。
そう、判断しております」
そう言いながらも郭嘉がその動きを読めないでいるのが曹家と馬家である。
前者はその計り知れない智謀において。後者はその果断なる蛮勇において、だ。もっとも、どのように動いても、必要とあらば叩き潰すだけの準備はしている。
郭嘉としてみれば、いっそ諸侯とまとめて始末してもいいのではないかとも思うのではあるのではある。あるのではあるが、抵抗勢力、反抗勢力は顕在化させておいた方がいい、という張勲の言。それを紀霊が容れたことによって、心ならずも。この上なく不本意ではあるのだが、大鉈を振るう機会を逸してしまっている。
それはいい。決まったことである。決まったことだ。
与えられた条件下で最善を尽くすのが軍師の役目、とばかりに郭嘉は思考を切り替える。
これより先において彼女の出番があるとすれば、最悪の事態が起こった時のみであろう。
だが、そうはならない。その確信がある。なんとなれば。
「曹家軍に動きあり!陣頭には夏候惇将軍!後詰に夏侯淵将軍!兵力は五百強!」
やはり。状況を動かすのは曹家軍かと郭嘉は深く頷く。
「郭嘉さん?」
袁紹の問いにも臆することなく応える。何を畏れることがあろうか。なんとなれば郭嘉は、考えうる最良の一手を既に打ってある。
「は。ご心配なく。
なにせ、我が軍には一騎当千たる趙子龍がおります故に」
- 474 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/10(木) 21:37:16.51 ID:vY1pce2o0
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
題名募集しまくりんぐですよ本当に!
でもまあ、前とくっつけた感じにした方がよさそうですね。
次回、趙雲VS夏候惇
ご期待くださいませませ。
- 475 :青ペン [sage]:2020/09/11(金) 00:27:40.49 ID:WeajKTWzo
- >>474
乙ーい。
そうねー、繋げた方がしっくり来そう。
んで、【洛陽を血に染めて〜天子の唄〜】とでも。
- 476 :赤ペン [sage saga]:2020/09/11(金) 11:54:49.72 ID:u6lrHLbC0
- 乙でしたー
>>473
>>この勢力。それを袁家が後ろ盾になるということをわかりやすく表明している。 この場合【それ(この勢力)を袁家が後ろ盾になるということを】となるとちょっと接続詞に違和感が
○この勢力。それに袁家が後ろ盾になるということをわかりやすく表明している。 の方が良いと思います
>>いっそ諸侯とまとめて始末してもいいのではないかとも思うのではあるのではある。あるのではあるが、 どんだけ潰したいんだよってくらい【ある】連呼してますがちょっと読みづらいかな
○いっそ諸侯とまとめて始末してもいいのではないかという思いもあるのである。そうではあるのだが、 この場合は郭嘉の心情が《やれるなら積極的にやりたい》のか《やれるならまあやってもいい(あるにはある)》のか《やれるならやりたくはないけどやらざるを得ない(ないではない)》のか
将を信頼するのに理由なんていらないよ、と言いそうな劉備、信頼する相手だから将を任せるのよ、と言いそうな曹操、私が信頼したのですから将くらいできるにきまってます、と言いそうな袁紹…かな
尚史実では信頼して将を任せた相手に裏切られて手痛い敗北をした模様…お前田豊さんのこともう少し信じろよ
>>くすり、と艶然と笑みを浮かべる袁紹。 あぁ〜「おーほっほっほ」とか高笑いせずにこんなんヤバいわ、あかんやろ…尊い。
- 477 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/13(日) 06:12:50.42 ID:+BcfcCX80
- >>475
どもです。
>そうねー、繋げた方がしっくり来そう。
やっぱりそうですよねー
あっちと繋げていこうそうしよう
>んで、【洛陽を血に染めて〜天子の唄〜】とでも。
洛陽入れたいなー血に染めてもいいなー
ヨシ!
>>476
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
>将を信頼するのに理由なんていらないよ、と言いそうな劉備、信頼する相手だから将を任せるのよ、と言いそうな曹操、私が信頼したのですから将くらいできるにきまってます、と言いそうな袁紹…かな
言われてみれば確かにそんな感じですね。しかし英傑の対比に袁紹が出てくるのが珍しいことよ。。。普通は孫権だもんで
>尚史実では信頼して将を任せた相手に裏切られて手痛い敗北をした模様…お前田豊さんのこともう少し信じろよ
出ると負け軍師。。。
田豊と沮授の派閥が勝ってればなあ。いや、史実で曹操が負けると困るんですけどね
>あぁ〜「おーほっほっほ」とか高笑いせずにこんなんヤバいわ、あかんやろ…尊い。
高笑いだけじゃないんです!しっとりできるんです!やはり麗羽様が出ると持って行きますね
- 478 :赤ペン [sage saga]:2020/09/14(月) 09:22:16.41 ID:pKnfVT8o0
- えっ孫権?…こいつならできると知ってるから将を任せる。もし失敗するなら私が知らない何らかの要因があったせいだから私が悪い
多分これを無意識で行ってるタイプ
- 479 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/14(月) 22:18:15.84 ID:MO/NhoCH0
- 「な、なんだってんだ……?」
端的に言って馬超は混乱していた。なんとなれば、洛陽を守護するが如く袁家軍は布陣しているのだ。そして士気も高い。見ただけで分かる。あれを抜くとなると苦労しそうだ。そんなことを思うほどに。
「お姉さま、本気でそれ言ってる?」
呆れたような馬岱の台詞に馬超は柳眉を逆立てる。
「当たり前だろう!あれじゃあ、喧嘩を売られているようなものじゃないか!」
はあ。と馬岱はこれ見よがしに、ため息を通常の三倍くらいに増量して吐き出す。
「ええとね、お姉さまが本気でそう言ってるのはさ。たんぽぽも分かったよ。分かりたくなかったけど。
うん。これには流石にたんぽぽもびっくりだよー。ほんとにね。
だってさ、昨日、張勲さんが来てたでしょ?」
じとり、となんとも言えない馬岱の視線にさしもの馬超もたじろぐ。
「そ、それはもちろん覚えてるぞ。酒肴をたっぷりと持ってきてくれたことも」
戦場暮らしには慣れているとはいえ、袁家秘蔵の火酒に、戦場食とは思えない料理の数々であったと馬超は頷く。
「そうだよねー。お姉さま、それで気持ちよく酔っぱらってたもんね。むしろ酔いつぶれてた気配すらあったもんね。
張勲さんの相手とかぜーんぶたんぽぽに押し付けて、さ」
「な、なんだよ」
「ほんと、覚えてないんだなあってさ。
昨日張勲さんが言ってたじゃない。諸侯軍の不埒な動きに対するために洛陽へは入らせないって。
それで、お姉さまが漢朝、官軍と相対するのはいかがなものかって言ったから、馬家軍は静観することになったじゃない」
ちなみにここまでの馬岱の言説は虚実入り混じったものである。
「そ、そうだったか?」
焦り気味の馬超の態度に、上手く思考誘導ができたかと思うが気を緩めるわけにはいかない。
「そうだったよ!
ほんとにもー。ひょっとしたらと思ったけど、そこまで前後不覚になったのはまずいんじゃないかなあ。
気を緩めすぎだよ」
尚も言いつのろうとする馬岱が口を開く前に馬超は言葉をかぶせる。
「む、曹家軍が動いたか」
若干以上の後ろめたさを隠すように、必要以上に声高に曹家軍の動きを口にする。
「なんだ。五百もいないぞ。だが、率いるのは夏候惇。それに……兵に混じって夏侯淵もいるな」
流石の眼力だ、と馬岱は内心で従姉を賞賛する。何かを糊塗するかのような態度さえなければ実際大したものだと感銘を受ける者も多かったであろうに。
そして張勲の言説通り、場を動かすのは曹家軍だったかと状況を認識し、覚悟を決める。
なんとなれば、内々に張勲の口から馬家軍は仮想敵として想定されているというロクでもない情報がもたらされているのだ。
これを目の前の従姉が知ったならばどうなるか。いや、普通に暴発するだろうなあと馬岱は思う。
「もー、どうにでもなあれ」
馬岱の本音である。が、状況はそれを許さない。
「あれは、趙雲か」
単騎で曹家軍に対峙する白装束の武将。それは。その人物こそは。
「うん。一騎当千、だね」
ごくり、とさしもの馬岱も生唾を飲み込む。
単騎であの呂布と渡り合い、退かせたのだ。呂布の武勇は涼州にて轡を並べた自分たちが一番よく知っている。あの、呂布だ。呂布なのだ。あの人外と言っていい、いわば化け物と単騎で打ち合い、退かせたなぞ。
実際ありえない。だから、「一騎当千」と急速に異名が広がる趙雲に対して無関心ではいられない。いられないのである。
そして、趙雲に対する思いを清冽な声が引き裂く。
◆◆◆
- 480 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/14(月) 22:18:42.63 ID:MO/NhoCH0
-
「曹家軍名代夏候惇である!洛陽への道を塞ぐ袁家に問いたいことがある!
いざ尋常に応えられたし!」
見事な口上である。なにより見事なのはその声量だ。戦場においては声量というのは馬鹿に出来ない。その指示を行き渡らせるに必須の、或いは将としての素質。
「問おう。何故に洛陽への道を閉ざすのか」
朗々と響き渡る夏候惇の声。だが、対する趙雲の声も負けてはいない。玲瓏たる響きは、質こそ違えど敵味方問わず浸透する。
夏候惇が雷鳴ならば趙雲は地鳴り。腹に響き、否応なく認識するそれ。袁家の古参は雷薄を連想した。そしてそれは正しい。
「おや、曹家には伝わっていなかったかな。
数万に及ぶ軍勢を容れる準備なぞ洛陽にはない。無用の混乱は求めるところではないだろう」
その言に夏候惇はにまり、と口をゆがめる。
「笑止!それならばそれで構わんとも!だがな!いささか勝手がすぎるというものだろうが」
趙雲は、それがどうしたとばかりに。
「は、既に諸侯軍のはねっかえりどもが凶行に及んでいるがな。それを知らぬとでも言うのか」
「知らんな。知っているのはそう、貴殿らがこともあろうに禁中にて血を流したことくらいか。宦官誅滅とはまた思い切ったものだ、な」
◆◆◆
「何だって!」
驚愕、それが激昂となる直前に馬岱は口を挟む。
「そっかー。二郎様ってば、ようやく仇を討てたんだね。よかったよー」
気勢を逸らされた格好の馬超は馬岱に問いかける。
「ちょっと待て、どういうことだ?」
馬岱は苦笑しつつも言葉を選びつつ宦官と袁家……紀霊との因縁を語る。
それを聞き、馬超はむむむ、と唸る。
「だからね、二郎様は本懐を果たしたんだよ。ようやくね。
うん。ようやっと、だね」
いつになくしおらしく、しんみりとした馬岱。その双眸には、涙すら浮かんでいる。
いつもおちゃらけている態度、へらへらとしている馬岱。だからこそ、その涙は馬超の胸を打つ。
「そうか……。そうだな。それは譲れない、よな」
自分とて父たる馬騰の復讐に燃えていたのだ。その心根は痛いほどに分かる。
そして、願わくばあの青年が、復讐という不毛な感情から解放されて欲しいものだ。
彼女は心の底からそう願う。
「それはそうとして、曹家は収まらんだろう。いや。だからこそ夏候惇が出たのか」
宦官をその支持基盤とする曹家。宦官を誅滅するということは曹家に喧嘩を売るに等しい。
洛陽という果実を目の前にしてお預けを喰らっている諸侯軍の不穏な空気を背負い、仕掛けるつもりかと馬超は訝(いぶか)る。仲間内で争っている場合かよと内心呆れる。
……この時馬超にこの場をどうこうしようという発想はない。それを認識して馬岱は内心安堵する。
これでよい、とばかりに。やりきった、とばかりに。
そしてこの場を支配する二人がどうこの場を動かすのかと無責任に好奇心を優先させることにする。元来、あれやこれやと思い悩むのは向いてないのだ。
◆◆◆
- 481 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/14(月) 22:19:08.80 ID:MO/NhoCH0
- 「ほう、曹家には順風耳がいるようだ。そしてそれはご不満かね」
あからさまに挑発混じり。
その趙雲の台詞に夏候惇は答える。
「正直、私個人としてはどうでもいい。主たる華琳様に乞うてまでこの場にいるのはな。
一騎当千と謳(うた)われる貴殿と手合せをしたいからよ。かの万夫不当を単身追い返した貴殿と、な。
まさか、否とは言わんだろう?」
ちゃきり、と七星餓狼を構える夏候惇。
「曹家の大剣たる貴殿のお誘い。
無論受けるとも」
くるり、くるりと螺旋を描かせた愛槍龍牙。それを手にして構える。
ざわり、と戸惑う諸侯軍すら魅了せんとばかりに見栄を切る。
「先手は、譲ろう。
いざ、尋常に」
◆◆◆
- 482 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/14(月) 22:19:36.05 ID:MO/NhoCH0
-
「よくぞ言った。では、遠慮せん!」
突風。或いは暴風であろうか。夏候惇の一撃を趙雲は辛うじて躱す。
「おおおおおおおおおおおお!」
雄叫びと共に繰り出される一撃には一見隙がありそうなものだが。
「ちいっ!」
必殺の斬撃が迫る。躱せば続いてまた必殺の一撃が襲いかかる。暴風のような連撃。それはいずれも、掠るだけで致命傷になりかねない。それを趙雲はそれでも躱す。ただし辛うじて、だ。
「なるほど、これは厄介極まりない!」
思わず愚痴と称賛の入り混じったものが漏れる。
自分の武が夏候惇に劣るとは思わない。少なくともここまで一方的に攻められるほどには、だ。それを、この趙雲を追い詰めるのは。
「どうしたどうした!」
必殺の一撃。夏候惇は次々と斬撃を繰り出す。
「なんとぉ!」
心ならずも紙一重で躱す。そして僅かな猶予で反撃を図るも。
ぞくり、と背筋に悪寒が走る。
「おおおおおおお!」
刹那の硬直。それを見逃す夏候惇ではない。次の一撃を繰り出してくる。
「これは下がって、下がりまくるしかないか……」
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