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真・恋姫無双【凡将伝Re】4
- 392 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/07/17(金) 07:47:28.63 ID:HQeadq550
- ◆◆◆
「なんと、虎牢関がもう陥落したというのか」
嘆息交じりに劉協は瞑目する。西の函谷関と並び称され、天下に鳴り響いた要害がこうもあっさりと落とされるものかと。
「まあ、それは気にせぬがよいでしょう。なにせ守護するのが董家軍。かの軍は騎馬を以って敵を討つが本領です。もとより拠点の防御については不得手極まる」
相性が致命的に悪かったと皇甫嵩は首を振る。
彼の後ろに控える王允と李儒は身じろぎひとつせずに皇甫嵩と劉協のやり取りを注視している。
今や賈駆がなりふり構わずただ董卓の行方を追うことに全力を尽くしている現状、洛陽に於いて漢朝を動かしているのはこの二人である。政務を劉協が、治安や軍事――と言っても洛陽に限られるが――を皇甫嵩が担っている。
お世辞にも大過なく運営しているとは言い難いが、それでもいいというのが両者の共通した認識である。あくまで董卓が相国として全権を担っている。暴政ならば董卓の責任、うまく回ったら自分たちの尽力の成果ということだ。
「しかし、袁家の怒りは予想以上のようでした」
いささか芝居がかった仕草で皇甫嵩は肩をすくめる。
「む。まあ、無理もないか。当主自らが身の危険を感じての逃避行。聞けばあの豪奢な髪をも自ら切り捨てたとか。いや、もったいないことだ」
劉協はかつて見かけた袁紹の、光輝を背負うが如くに輝いていたその容貌を思い出して惜しむ。
「それだけではありません。董卓の手の者が袁紹殿の逗留地を襲った際に、かの匈奴大戦よりの古参の宿将雷薄、更には袁家の幹部候補生が多数討死しております。
あれは、いかにもまずかった」
せめて、やるならばきっちりと袁紹の首級を上げないと。それができないからこうなる。皇甫嵩は刹那その秀麗な顔を歪めるが、気を取り直して言葉を続ける。
「そう、袁家は本気です。勅すら無視するほどに」
「うむ、そのことよ。何進より事前に密勅があったというが真だろうか」
劉協は懸念を口にする。切り札の一つであった勅命。それをすら袁家はものともしない。勅を以って勅を制するなぞ埒外にもほどがある。
「……なんとも言えないですね。ただ、先ほど程立という人物と話しました。かの怨将軍紀霊の腹心です。何とも読めない人物でしたが……」
茫洋と、掴みどころのないその言動には流石の皇甫嵩もその真意を掴むのは容易ではなかった。無論それは意図的なものだ。
こと鉄火場修羅場をくぐるという意味において、程立の経験は皇甫嵩を遥かに凌ぐ。火花が散るようなその戦場での一挙手一投足に至るまで細心の計算に基づくものである。例え傍目にはいささか呑気な小娘に見えようとも。
その程立をして最大の警戒を抱かせる皇甫嵩こそ傑物であったろう。失意のどん底にある賈駆から情報を吸い出して尚、傍らに張郃を控えさせていたのは故あってのことなのだ。
けして程立は相手を甘く見ない。俯瞰し太極から見据えるのが彼女の本領だからして。
「ある程度の流血はやむを得ないでしょうね」
その言に胡乱げに劉協は問う。
「いささか抽象的だな。袁家は何を求めている?まさか帝位なぞということはなかろうな」
「袁家は北方の防壁にして漢朝の藩屏。そこは揺るぎませんよ。ただ、袁術殿が輿入れする以上、帝位は……」
「劉弁のものとなる、か」
苦さを隠そうともせずに劉弁は口惜しそうに嘆く。あの惰弱、無能、無気力の凡人に帝位を、至尊の座を再び与えねばならないのか、と。
「ですが、劉協様におかれましては陳留王の地位を用意する準備があるとのことでした」
隠居隠遁の必要もなしということである。むしろ、これからも漢朝に影響力を保てるということ。
「ふむ、中々に殊勝ではないか。いや、漢朝の行く末を見れば当然の判断か……」
つい先ほどまでは偽帝として討たれる可能性すらあった劉協は安堵する。なかなか袁家も分かっているではないか、と。
「ええ。ですがここは一度お姿を隠すべきかと思います。邪知暴虐の董卓とは無関係であるということを示すためにも。あれと一連托生する気はないのでしょう?」
可笑しげに、唄うような皇甫嵩の言に内心苦々しいものを感じながらも劉協は頷く。
「そう、だな。一時の雌伏。致し方あるまいて」
返り咲く際には、と劉協は思いを巡らす。
なに、宮中は如何様にもなる。宦官勢力は曹操が押さえるのであろうが、それはきっと袁家の掣肘により大幅に打撃を受けるだろう。
ならば、地力に勝るであろう自分が主導権を握ることができるはずだ。
同床異夢。ほぼ同じ思惑を抱いているのを知ってか知らずか。皇甫嵩と劉協は比較的穏やかにその場を後にするのであった。
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