11:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 22:56:24.61 ID:49voo3/L0
「行けし」
「うひゃーっ!」
櫻子が固まっていると、花子に頭からホースの水をかけられ、櫻子は思わず身を縮こめた。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 22:57:04.63 ID:49voo3/L0
「……いつ行くの?」
「え?」
「図書館。行くんでしょ。しょーがないから私もついてったげる」
向日葵はその返答を聞き、一瞬目を丸くして驚いたが、やがてふわりとした笑みに戻り、
13:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:00:49.15 ID:49voo3/L0
〜
結局、お昼ご飯を食べた後、図書館には花子と楓も含め四人で行くことになった。
櫻子は読みたい本を見つけたわけでも、じっと読書に集中できたわけでもなかったが、マンガ形式で偉人を紹介する本を見つけてぱらぱらとめくってみたり、楓が選んだ絵本を端の方で静かに読み聞かせてあげたりと、そこそこ楽しく過ごせていた。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:02:18.74 ID:49voo3/L0
「見つかりましたの? いい本」
「ううん。でも、向日葵のと一緒でいいよ」
「だめですわ。ちゃんと自分が読みたい本にしないと」
「向日葵が読んでるものを私も読みたいの!」
「えっ……?」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:03:14.83 ID:49voo3/L0
会計を済ませている間、図書館で借りた本を持って外で待っていた向日葵が、コンビニのガラス裏に貼られていたポスターのひとつに目をやっているのを、櫻子は見かけた。
自動ドアから出て袋のアイスを手渡しながら、向日葵が見ていたポスターに目を留める。
それは、ここから少し離れた地域でやっている花火大会の広報用ポスターだった。珍しく7月中に開催されるらしい。昨日もちなつたちと近所で行われる夏祭りにはみんなで行こうと約束したばかりだったが、向日葵がやけに興味深そうに見つめているのが気になった。
「……」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:04:37.00 ID:49voo3/L0
〜
夜空に咲き誇る色とりどりの大きな花火。
それに照らされる、向日葵の横顔。
からからと下駄を鳴らして歩く、浴衣姿の向日葵。
17:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:05:24.28 ID:49voo3/L0
「これ、こっちで合ってるんですの?」
「わかんないけど、みんなこっちに向かってるじゃん!」
駅前から続く人の列はゆっくりと一定の方向に流れている。櫻子と向日葵はよくわからないままにそれに流されていく。二人とも、花火を見るための専用席を予約したわけでもなかったし、このあたりはそんなに来たことがないため土地勘もない。
18:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:07:09.87 ID:49voo3/L0
そこにいたのは、クラスこそ違うが七森中で櫻子が仲良くしている同学年の友人たちだった。みんな同じ部活で、練習の帰りにそのまま立ち寄ったのか、体操着姿のままで屋台街をめぐっていたようだった。
「おおー!」
『来てたんだ! すっごい偶然!』
19:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:08:19.59 ID:49voo3/L0
「……」
向日葵が「それじゃ」と手を振って足早に去っていく。櫻子はその後ろ姿をただ見つめていた。
今の今まで帰ろうとしていたのは事実だ。思っていたよりも人混みがすごくて大変で、落ち着いて花火を見られるような状況じゃないし、はっきり言って楽しくない。自分のペースで歩くこともできず、喧騒にかきけされて会話もまともにできず、想像していた花火大会の良さはここにはなかった。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:09:26.85 ID:49voo3/L0
くるりときびすを返し、向日葵が消えていった方向に慌てて走り出す。困惑気味に『えっ!?』『またねー!?』と声をかけてくれる友人たちの声を背中で感じつつ、とにかく目の前の人ごみをかきわけて前へと進もうとした。
離れてからものの一分ほどしか経っていないはずなのに、向日葵はすぐには見つからなかった。すみません、すみませんと人の波を割りつつ、前へ前へと進んでいく。
後ろ姿を見つけられない時間が一秒一秒経つごとに、やっぱり向日葵と別れてはいけなかったのだという焦燥感が櫻子の胸に募り、ばくばくと音を立てる。
もしもこのまま見つからなかったらどうする?
21:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:10:18.12 ID:49voo3/L0
鮮やかな光が薄闇を切り裂くようにぱーんと広がり、辺りからわっと歓声が上がった。いつの間にか、花火の開始時刻になっていたようだ。
ぱんぱんぱん、と続けざまに花火が打ちあがる。
赤、緑、オレンジ。色とりどりの光が、向日葵の顔をほのかに照らす。
そのまんまるい目を見て、櫻子は向日葵の手をしっかりと握り直し、もう離すまいと心に固く誓った。
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