11:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 22:56:24.61 ID:49voo3/L0
「行けし」
「うひゃーっ!」
櫻子が固まっていると、花子に頭からホースの水をかけられ、櫻子は思わず身を縮こめた。
「いっつも自分の予定にひま姉を付き合わせてるんだから、たまにはひま姉の予定に合わせてあげるべきだし。ていうか櫻子だって読書感想文あるんだから、なんか借りてこいし」
首元や背中にかけて、あっという間にTシャツを濡らしてしまった水の冷たさを、身体を硬直させて我慢する櫻子。なぜか無性に懐かしい気がするその感触が、過去の情景を思い起こさせる。
今までも向日葵が図書館に行くと言っていたことは何度もあった。しかし櫻子はそのたびに「へーそうなんだ……」「行ってらっしゃ〜い」と見送る側になっていた。一緒に行ったことも少しはあった気がするが、とても退屈な思いをしたという記憶だけが残っている。活字ばかりの本が苦手な櫻子にとって、図書館は未だに楽しさがわからないスポットのひとつだった。
「図書館ねえ……」
ここまで濡れてしまったらもういいやと思いながら、プールの底にしりもちをついて向日葵を見上げる。
「…………」
向日葵は、眉を下げて微笑みを浮かべていた。
その表情を見て、櫻子の胸の中にとくんと何かが芽生えた。
笑顔ではあるが、どことなく寂しそうな、なんだか諦めに近いような、そんな複雑さが交った表情だった。
今まで何度誘ってもついてきてくれなかったから、たぶん今回もだめだろうと思っているのだろうか。
本当は、一緒に来てほしいのだろうか。
(向日葵……)
いち、にー、さん、しー。
櫻子の胸の中で、自然とカウントが始まる。向日葵の大きな瞳がこちらを向く。
「……櫻子?」
その声が耳に届いたとき、答えが出た。
24Res/44.62 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20