21:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:10:18.12 ID:49voo3/L0
鮮やかな光が薄闇を切り裂くようにぱーんと広がり、辺りからわっと歓声が上がった。いつの間にか、花火の開始時刻になっていたようだ。
ぱんぱんぱん、と続けざまに花火が打ちあがる。
赤、緑、オレンジ。色とりどりの光が、向日葵の顔をほのかに照らす。
そのまんまるい目を見て、櫻子は向日葵の手をしっかりと握り直し、もう離すまいと心に固く誓った。
ついさっきの、遠慮がちに去っていこうとする向日葵の笑顔を思い出す。あの顔を見た瞬間、向日葵の気持ちが胸の中に一気に流れ込んできたような気がして、むなしさや寂しさがぐちゃぐちゃになったもので心がいっぱいになって、とにかく向日葵をそんな気持ちにさせてはいけないと、身体の中の無意識が強く警鐘を鳴らしていた。
祭りの喧騒の中でもその鐘の音にちゃんと気付けたのは、冷静になれたおかげだろうか。
向日葵はしばらく花火を見ていたが、握られていた手がふるふると震え出したことで、目の前の櫻子が花火を見ずにうつむいて肩を震わせていることに初めて気づいた。
「……ごめん、向日葵」
「えっ?」
「一人にさせちゃって……ごめん」
「櫻子……」
「あんなとこで一人にされて、嫌な思いしないわけないのに……あれだけ楽しみにしてて、せっかく来たのにすぐ帰るなんて、そんなのっ、いいわけ……ないのに……っ」
「ちょ、ちょっと……」
たどたどしく言葉をつむぎながら、櫻子はなぜか涙が止まらなくなっていた。
向日葵の気持ちに向き合い、物悲しさで胸がいっぱいになってしまった数秒間。
向日葵が楽しくなければ自分も楽しいわけがないとわかっていたはずなのに、それでも手を放してしまった一分間への後悔。
そしてこのまま見つからなかったどうしようという不安から解き放たれたことへの安心感。いろいろな感情でいっぱいになってしまい、それが目から溢れるのを止められなくなっていた。
向日葵の肩口に顔をうずめ、熱い涙を染みこませていく櫻子。向日葵は困惑しつつも、子どものように泣きじゃくる櫻子がどこか可愛くて、そして自分の元に戻ってきてくれたことが嬉しくて、ぎゅっと優しく抱き留め、そして花火が打ちあがる夜空を眺めた。
「ほら櫻子、泣いてちゃ花火も見えませんわ」
「ご、ごめん……こんな変なとこで見ることになっちゃって……」
「いいじゃないの。よく見えますわ」
「でも……」
「あ、そうそう」
向日葵はスマホを取り出すと、ある地図を見せてきた。
「撫子さんが、見るならここがよさそうっていう場所をさっき教えてくれたみたいですわ。あなたのスマホにもメッセージ来てますわよ」
「……ほんとだ」
「まだまだ終わるまでには時間ありますし、移動してみます?」
「……うんっ」
ごしごしと目をこすり、向日葵に手を引かれて歩き出す櫻子。
「ほらほら、いつまで泣いてますの?」
向日葵は後ろを振り返り、泣き顔の櫻子に笑いかけた。
その姿は少しだけ、夢の中の情景と重なったような気がした。
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