【ゆるゆりSS】きもちに寄り添う数秒間
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19:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 23:08:19.59 ID:49voo3/L0
「……」

 向日葵が「それじゃ」と手を振って足早に去っていく。櫻子はその後ろ姿をただ見つめていた。
 今の今まで帰ろうとしていたのは事実だ。思っていたよりも人混みがすごくて大変で、落ち着いて花火を見られるような状況じゃないし、はっきり言って楽しくない。自分のペースで歩くこともできず、喧騒にかきけされて会話もまともにできず、想像していた花火大会の良さはここにはなかった。

『それじゃ、行こっ!』

 同級生に手を引かれ、櫻子は歩き出す。しかし、心の中はどうすればいいかわからなくなっていた。

 この友人たちとは学外で遊んだことはほぼなかったが、学校では本当に仲よくしている友人だし、一緒に回れたらきっと楽しいだろう。けれどそれでいいのだろうか。
 首を捻って後ろを振り返る。向日葵の背中は人ごみに埋もれてあっという間に見えなくなってしまっていた。
 途端に、またどくんと危機感が胸にうずまく。
「迷子にならないように、ひま子と絶対はぐれないでね」「手を繋いで必ず二人で回ること」と念押ししていた姉の言葉を思い出す。

 このまま行っていいのか。このまま行って、楽しく回れるのか。
 向日葵は、これでいいのか。

 どんどん呼吸が浅くなっていた櫻子は、友人の手を振りほどいて立ち止まり、思考を巡らせた。祭りの喧騒が、浮ついた空気感が、冷静な考えを邪魔しようとする。それでも櫻子は頭を振りつつぎゅっと目をつむって、心の中で必死に数字を数えた。

(いち、にー、……)

 あの日、花火大会のポスターを見ていた向日葵。

(さん、しー……)

 向日葵と二人きりで花火大会にいけるよう、気を遣ってくれた花子と楓。

(ごー、ろく……)

 遠慮がちに去っていった、さっきの向日葵の困ったような笑顔。

 本当は、楽しみにしてくれていたのに。
 さっきまでずっと、この手をしっかりと握ってくれていたのに。
 向日葵を、一人にしていいわけがない。

「ごめんっ!!」

 櫻子は友人たちに向かって深々と頭を下げ、周りの喧騒にかき消されないようにしっかりと謝った。

「私やっぱり、みんなとは行けない!」


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