33: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:07:30.59 ID:Sev9O2YP0
そこで、彼女は目覚めた。頭に響く鈍痛とともに、意識を取り戻した。
最初に視界に映ったのは白い天井だった。
首を動かして横を見ると、白いカーテンがあった。
ぼーっとした思考で状況を整理し、今自分がいる場所が病院である事に気付いた瞬間、
一人の男が自分の元に駆け寄ってきた。
34: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:08:38.42 ID:Sev9O2YP0
『分かるか?その優しい親友とやらも匙を投げるほどの社会不適合者なんだよ、お前は』
『誰からも好かれない。会う人全員に嫌われる。永遠に独りだ』
彼の顔を見ると、ガチガチと歯が震えた。
恐い。寒い。辛い。誰か、助け……
35: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:10:37.89 ID:Sev9O2YP0
戻っていったナースを見送り、プロデューサーは輝子に話しかける。
「親切な人が倒れた輝子を見て救急車を呼んでくれたみたいでな。
輝子の鞄に入ってた俺の名刺を見て、俺に連絡を入れてくれたんだ」
36: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:11:49.39 ID:Sev9O2YP0
「輝子」
プロデューサーは呼び掛けると、彼女はまたビクンと小さく跳ねた。
「一つ、思い付きがあるんだ。お前の力がいる」
37: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:13:44.30 ID:Sev9O2YP0
結局彼女は当日で退院し、自宅に帰る事が出来た。
彼女は家のベッドに座っている。夜中だというのに、明かりも点けずに真っ暗な部屋で膝を抱えている。
辛い、辛い、辛い、辛い、辛い。
顔から血の気が引いているのが分かる。
唇の感覚がなく、漠然とした絶望感が頭の中に充満している。
38: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:15:23.24 ID:Sev9O2YP0
アイドルは……楽しかった。
自分のメタルは、ファンの皆を楽しくさせられた。
そう思っていた。
楽しかった。
楽し、かった。
39: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:16:28.73 ID:Sev9O2YP0
彼女が倒れてから数週間が経過した。
いつものように、自室のベッドで目を覚ました。
早朝、まだ日は高くないが、数時間後には猛暑が押し寄せてくるだろう。
いつまで続くかわからない長い長い真夏日、そこから切り取られた今日一日。
今日はライブの日だった。
40: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:17:18.56 ID:Sev9O2YP0
「輝子ちゃんまだかな〜?」「俺三人で一番推してんだよね!」「あ、来た!!」
会場は満員だ。みんなが彼女に期待している。
拍手と歓声を浴びながら、ステージ上に歩く。
教えられた通り手を振ったり会釈したりとファンサービスも忘れない。
41: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:18:53.01 ID:Sev9O2YP0
「今日は、みんなに謝らなくちゃいけない」
客席を見回し、彼女は続ける。
「私は本当はキモいやつで、だから、当たり前なんだけど、誰からも、距離を置かれてて・・・
42: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:20:09.28 ID:Sev9O2YP0
それは、怒り。
自身に対する怒り。メタルを、キノコを、幸子ちゃんを、小梅ちゃんを、今日ここに来てくれたみんなを裏切った、
どうしようもなく下種な自分。
それは、悲しみ。
43: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:21:21.14 ID:Sev9O2YP0
客席で、男性客が何かを叫んでいた。
スタッフに襲われる中、輝子は形だけの抵抗として、マイクを体の中心に抑え込む。
抑え込みながら、男性客の声を聞いた。
彼は。大きく口を開いて、叫んだ。
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