星輝子「真夏みたいに気持ち悪い」
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37: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:13:44.30 ID:Sev9O2YP0
結局彼女は当日で退院し、自宅に帰る事が出来た。
彼女は家のベッドに座っている。夜中だというのに、明かりも点けずに真っ暗な部屋で膝を抱えている。
辛い、辛い、辛い、辛い、辛い。
顔から血の気が引いているのが分かる。
唇の感覚がなく、漠然とした絶望感が頭の中に充満している。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
がりがりと、血が出そうなくらいに頭を掻き毟る。
どうしようもない自己嫌悪が自身を取り巻く。
何も出来ない自分。どうあっても他人を不快にしてしまう自分。
それをどうにかして直そうとするだけで、ただ普通の人のように生きるだけで、
こんなにも、こんなにも苦しくなってしまう自分。
なんでこんなに辛いんだ?なんで、普通に生きる事ができないんだ?
何で、メタルなんて、キノコなんて好きになってしまったんだ?
人が好きなものを好きになれたなら。皆が嫌うものを嫌いになれたなら。
苦しまなくて済んだのに。誰のせいだ?誰のせいで、私はこんなに苦しんでるんだ?誰が悪いんだ?
思考を巡らせる。頭を引っ掻くのを止め、真っ暗な部屋で壁を見つめ、ひとしきり考えた後に彼女はぽつりと呟いた。

「私、なんだろうな」

腑に落ちたように自嘲する。
フヒ、フヒヒ、と一人笑う。そんな自分を冷静に、客観的に見てしまう自分がいる。

「気持ち悪い」

笑いながら彼女は呟いた。

「気持ち悪い。フヒ、気持ち悪い。フヒヒ、気持ち悪い、気持ち悪い。
フヒヒヒ、気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち、悪い」

ひたすら、その言葉を繰り返す。
だんだんと声が震え、彼女の目に涙が滲み出した。
何で泣いているんだ?悪いのは私なのに。
涙を拭うが、後から後から溢れて止まらなかった。
歯を食いしばり、シーツを強く掴み、嗚咽が口から洩れるのを必死に堪える。
ぼろぼろと涙を流す彼女は、昼間のことを、プロデューサーの話を思い出していた。
彼の提案を。誰もを不幸にするような、その愚かな提案を。
彼女はプロデューサーの提案を受けた。

プロデューサー。
プロデューサー。
彼は、公園で一人遊ぶ彼女に声をかけ、スカウトした。
キノコやメタルといった趣味の話を聞くと少し驚いた顔をしていたが、なぜだか嬉しそうに笑っていた。
その顔を見るとなんだか……凄く、凄く嬉しくて、気分が高まって……つい、ヒャッハーしてしまった。

やってしまった、と思った。
また、自分から人が離れていくと。トモダチに、なれたかもしれないのに。
おかしな目で見られる。自分から離れていく。
自分の悪い噂が広まって、誰も自分に話しかけなくなる。いつものパターンだ。
自分は、永久に独りで、ぼっちだ。
だけど、プロデューサーは、親友は、そんな私を見て、また嬉しそうに笑ってくれたんだ。
バカにするようにじゃなく、「面白い」と言ってくれたんだ。
嬉しかった。嬉しかった。とても、とっても嬉しかったんだ。
自分を、本当の自分を好きになってくれる人ができたんだ。
自分なんかを好きになってくれる人が出来たんだ。
親友は、自分をアイドルにしてくれた。
キノコが好きなメタルアイドルなんて笑ってしまうようなコンセプトで、
無理を通してプロデュースしてくれたんだ。


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