38: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:15:23.24 ID:Sev9O2YP0
アイドルは……楽しかった。
自分のメタルは、ファンの皆を楽しくさせられた。
そう思っていた。
楽しかった。
楽し、かった。
暗い部屋、彼女は独り。
いつも通りのぼっち。
乱れる呼吸を必死に整える。
涙を拭い、辺りを見回す。
手探りで自分のポーチを見つけると、中からイヤホンを取り出し、スマホに接続する。
イヤホンを耳に突っ込み、スマホの音楽アプリを開くと、彼女は画面を見つめたまま口を開いた。
「キノコは気持ち悪い菌の塊だ」
くらくらと頭が揺れるような思いを必死に堪え、もう一度呟いた。
「メタルはオタクしか聴かない、気持ち悪い音楽だ」
深呼吸をし、震える指で画面をタップした。
画面に映るそのアーティストは、彼女が大好きな、何度も何度も繰り返し聞いた、ヘヴィメタルバンド。
冒涜的で破壊的なサウンドがイヤホンを通し、彼女の耳に流れ込む。
音量を上げる。大きく、大きく、イヤホンから音漏れするほど、鼓膜が破れるほど大きく鳴らす。
何も見えないほどの暗い部屋で、彼女のスマホと、天井を見上げる彼女の瞳だけが、ぎらぎらと輝いていた。
64Res/75.97 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20