40: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:17:18.56 ID:Sev9O2YP0
「輝子ちゃんまだかな〜?」「俺三人で一番推してんだよね!」「あ、来た!!」
会場は満員だ。みんなが彼女に期待している。
拍手と歓声を浴びながら、ステージ上に歩く。
教えられた通り手を振ったり会釈したりとファンサービスも忘れない。
ステージの中央に立つと、軽く周囲を見回してマイクを握り、口を開いた。
「みんな、今日は来てくれてありがとう」
観客が叫ぶ。
誰もが期待する。
可愛らしい彼女の、可愛らしい歌を。可愛らしい踊りを。可愛らしい笑顔を。
期待して、笑顔を彼女に向ける。
真夏の太陽のように明るく可愛らしい、『彼女』に向ける。
その笑顔を受けて『星輝子』。
彼女は笑わず、口を開いた。
「皆は、夏は好きか?」
焼け付くような真夏日、彼女は尋ねた。
「好きー!!」
誰かが叫んだ。恋人だろうか、異性と肩を組んで、一緒にこちらに笑顔を向けていた。
合わせるように皆が叫んだ。口々に「好き」と。夏が大好きだと。
この季節が、大好きだと。
「そうか……」
この──
災害のような季節が大好きだと。
「私は嫌いだ」
一部の客が、どっと笑った。
一部の客が、怪訝な顔をした。
輝子は、笑わなかった。
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