33: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:07:30.59 ID:Sev9O2YP0
そこで、彼女は目覚めた。頭に響く鈍痛とともに、意識を取り戻した。
最初に視界に映ったのは白い天井だった。
首を動かして横を見ると、白いカーテンがあった。
ぼーっとした思考で状況を整理し、今自分がいる場所が病院である事に気付いた瞬間、
一人の男が自分の元に駆け寄ってきた。
「輝子!」
プロデューサーだ。あの男ではない、自分をこの世界に連れてきてくれた、彼が。親友が。
不安と安堵が入り混じったような顔で、ベッドに乗り出してきた。
彼女は思った。自分を心配して来てくれたんだ。頭は痛いけど思わず笑みがこぼれる。やっぱり彼は、私の親友だ。
「しんゆ……」
そこまで口に出したところで、彼女の脳内で声が響いた。
『そんなだから、あのプロデューサーにも捨てられたんだよ』
どくん、と心臓が高鳴った。
手が震えた。息が乱れた。
「輝子?大丈夫か?無理に起きなくていいぞ、今は休んで……」
彼が何かを言っているが、その言葉の内容を彼女はほとんど理解していなかった。
目の前にいる親友を見て彼女が取った行動は。頭痛と吐き気と動悸と不安で押しつぶされそうな彼女が取った行動は。
とにかく親友を心配させまいと……
「だ、だいじょうぶ、ですよー」
いや、とにかく彼を不快にさせまいと、精一杯、口の端の筋肉を吊り上げる事だった。
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