140: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:39:29.05 ID:CC20O+KU0
社長さんはそう言ってくれたものの、事故を起こしたアイドルへの風当たりは、間違いなくきついものだろう。
しかし私には、それを説明できる言葉を持たない。なぜなら。
私にも、よく分からないのだから。
ただ人前に出るには、若干の猶予をいただいたのだ。それを無碍にするわけにはいかない。
141: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:40:10.41 ID:CC20O+KU0
翌日。
クリニックを受診することになった。今日は、ちひろさんも一緒に。
「私もまだお世話になってますから。ちょうどいいです」
142: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:40:46.34 ID:CC20O+KU0
うつむいた顔を上げる。私は、先生の言ったことがよく理解できてない。
「なに、を」
「診断書も書きます。高垣さん。お仕事を休まれたほうが」
143: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:41:14.24 ID:CC20O+KU0
私が、私でなくなってしまう。
そんな焦燥が私を包み込んだ。
「高垣さん。今高垣さんに必要なのは、完全な休息です。ゆっくり療養される、その時間が必要なんです」
144: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:41:56.71 ID:CC20O+KU0
先生が看護師さんを呼ぶ。私はうずくまり、ただ泣くだけ。
処置室に促され、私はジアゼパムを注射される。酩酊する感覚、そして私は、眠りに落ちた。
どのくらい経っただろうか。
145: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:42:31.06 ID:CC20O+KU0
「高垣さん。ちょっとですね、お薬を変えましょう」
「え……お薬、ですか」
「はい。今まで飲んでもらっていたミルナシプラン、あれは前向きになるお薬でしたけど、今の高垣さんには、気分を整えるお薬のほうが大事に思われます。
ですから、ミルナシプランを別のお薬にします」
146: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:43:22.30 ID:CC20O+KU0
再びタクシーで、まっすぐマンションへ帰る。今日もちひろさんが付いてきてくれた。
「今日も私、お邪魔していいですか?」
147: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:44:18.90 ID:CC20O+KU0
「今の楓さんは、『双極性障害』の疑いがある、そう先生はおっしゃってました」
「そうきょくせい、しょうがい?」
「はい。昔は『躁うつ病』と呼ばれていたものだそうです」
「そう、うつ、びょう……」
148: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:44:47.26 ID:CC20O+KU0
「双極性障害って、要は気持ちの波を自分でうまく調整できなくなる状態だって、おっしゃってました。
なんでもやれる自分と、なにもできない自分のギャップに、心が参ってしまう病気だと」
「……ああ」
149: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:45:20.46 ID:CC20O+KU0
ちひろさんはにっこり笑い、「はい」と言った。
「え……どういうこと、ですか」
「しばらく、楓さんと二人三脚で、一緒に頑張っていきましょう、ってことです」
150: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:46:17.10 ID:CC20O+KU0
一週間後。
ちひろさんは約束どおり、うちにやってくる。
「今日からしばらくお世話になります。よろしくお願いしますね」
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