十時愛梨「それが、愛でしょう」
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45:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:22:26.67 ID:n4MKx+790
「私、一番最初に言いました。私がトップアイドルになれば、プロデューサーさんはトッププロデューサーになるって、だから、トップを目指すって、プロデューサーさんといれば、トップアイドルになれると思うって」
「……ああ、覚えてるよ」
「それと、あの時言いました。大好きですって。だから、私のプロデューサーはプロデューサーさんだけです。そこに、代わりなんて絶対にいませんっ!」

 思えば、至らないことばかりだった。
以下略 AAS



46:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:23:39.25 ID:n4MKx+790
 ――プロデューサーさん、プロデュースしてください! ほら、レッスンしましょ!

 愛梨を担当することになって初めてレッスンに同伴するとき、そんな言葉をかけられたことを覚えている。
 スタッフに見送られて、ゆっくりと開いていくカーテンの演出に合わせて、愛梨は花道を歩んでいく。
 人生は長い旅路のようなものだと誰かが言った。だとしたら、僕たちが歩んできたのは、きっと始まりを探す旅だった。
以下略 AAS



47:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:24:41.35 ID:n4MKx+790
「私、天然だってよく言われるんです」

 知ってる、と、マイクパフォーマンスに答えるようにレスポンスが飛んで、会場が笑いに包まれる。だけど、そこに侮蔑や嘲笑は一切ない。裏方から客の姿は見えないけれど、一つに溶け合って聞こえてくる笑い声は色とりどりだけれど、皆、温かなものに感じられる。
 皆、ずっと待っていた。愛梨が帰ってくることを。このきらめく舞台で歌うことを。
 いくつもの優しさに、何物にも代えることの出来ない幸せに包まれて、愛梨はフィナーレを謳う言葉を噛み締めるように紡ぎ上げていく。
以下略 AAS



48:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:25:30.76 ID:n4MKx+790
 正しいこと。間違ってしまったこと。そしてその正しさの中にある間違いと、間違いの中にある正しさのこと。歩んできた全てと、これから歩む全てを抱え込んで、今、愛梨はありったけの思いを歌っている。ずっとすぐ傍にあった願いを、全身全霊をかけて歌の形に込めている。
 歌が聞こえる。回る世界に弾き出されて見失ってしまったものも、仕方ないからと言い訳をして見て見ぬ振りをしてしまったものも、取り返しのつかない過ちも、過ぎていく時間の中に打ち棄てられたものも、全てを包み込んで抱きしめるような、そんな優しい歌声が。
 愛梨。きっと、生まれたときからずっとそうあるように願われて、彼女自身もそう願い続けてきた一つの祈り。
 世界はきっと、それを愛と呼ぶんじゃないだろうか。
 笑って、泣いて、それでも今日まで必死に辿り続けてきたその軌跡を、だから今ここで花開いているこの奇跡を、そして今、世界へと答えを返すように高らかに響き渡る、世界に二つとない、あの優しい歌声のことを。


49:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:26:27.62 ID:n4MKx+790
◇◆◇◆◇


3.「THE IDOL M@STER」

以下略 AAS



50:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:27:18.49 ID:n4MKx+790
 それでも、ただ一人、派手にすっ転んだ私を見て爆笑していた人――その後、私を担当することになるプロデューサーだけは違っていたみたいだった。
 一応自己弁護するなら、アピールタイムに歌だけはちゃんと歌いきった。課題曲の「お願い! シンデレラ」。何度もカラオケに通って、百点を安定してたたき出せるまで練習した曲だ。
 でも、それが何の足しになるんだというレベルで無様な姿をさらしてしまったのだから、もしかして落選の通知すら送られてこないんじゃないかと、合否通知が来る前の日は一日中、布団を被って震えていたことを覚えている。

 それなのに、何がどう転んで、どこでどう噛み合ったのか知らないけれど、私の元に贈られてきたのは、合格通知だった。
以下略 AAS



51:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:28:37.72 ID:n4MKx+790
 今アイドルになりたくて、そしてトップを目指す気概があるならシンデレラ城の門を叩け。
 オーディションで出番が回ってくる前に、私と同じ候補生だった子たちの誰かが、誰の受け売りなのかは知らないけれど、どうにも有名になっているらしいそんな、格言めいたことを呟いて、闘志を燃やしていたことを思い出す。
 初めに言い出したその子もどうやら合格したみたいで、今は結構やり手のプロデューサーがついたりして、期待されているとは聞いたのだけれど――まあ、私にはあまり関係のない話だ。

 とはいえ、いつだって華やかなのはカメラが映し出すピラミッドの天辺だけだ。
以下略 AAS



52:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:29:36.97 ID:n4MKx+790
 好き嫌いで語るなら、私はプロデューサーのそういう無遠慮なところがあんまり好きじゃないけれど、多分悪い人じゃないんだというのは、私の無茶なお願いを聞いてくれて、それを形にしてくれたことからもわかる。
 歌いたい曲がある。
 新人がそれをリクエストするのは、分不相応なことだというのはわかっていた。
 それでも私に担当のプロデューサーがついたあの日、開口一番に言ったのは挨拶とか自己紹介じゃなくて、そんな無謀な、戯れ言だと一蹴されるようなお願いだったのは今でもはっきりと覚えている。
 それを聞いたプロデューサーは、当然だけど笑っていた。さっきみたいに豪快にがはは、と大口を開けて。呵々大笑、なんて言葉を実践するならきっとこんな感じだとばかりに笑っていたのだ。
以下略 AAS



53:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:30:32.49 ID:n4MKx+790
 それが、愛でしょう。二人の歌姫に歌い継がれたナンバーの名前。
 デビューしたての新人にはあまりにも荷が重いと、それどころか不遜でさえあると言われたって、何の文句も返せない。
 だけど、歌いたかった。例え目の前にどれだけの大金を積まれた上で別な曲を歌ってくれと言われても、首を横に振るぐらいに、私の心はそれを求めていた。
 正直なところ、デビューしたばかりのアイドルが何の歌を歌えるのかなんて訊かれたら、多分その答えは何も歌えないというのが正しいのだろう。

以下略 AAS



54:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:31:39.83 ID:n4MKx+790
 薄く目を見開いて、カーテンの隙間から見える舞台はきっときらめく場所からは遠いのだろう。喝采は湧き起こらない。ペンライトが描く虹は浮かばない。
 ――それでも。
 自分に言い聞かせるように、繰り返す。
 それでも、今日ここから、私の旅は始まるのだ。

以下略 AAS



55:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:32:47.49 ID:n4MKx+790
「未熟者かもしれません、だけど、小さい頃に歌が嫌いになりそうだった私を助けてくれた人に感謝を込めて、全力で歌います!」

 恋は一種類だけだけど、愛にはいくつもの種類があるんだぜ、なんて歌っていたのはどこの誰だろう。緊張している今じゃなくたって、思い出せないけれど。
 今この瞬間、私にしかないものを歌いたい。だけど、ふとしたときに湧き起こってくるものじゃなくて、ずっとずっと、抱え続けて生きてきたもののことを。

以下略 AAS



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