十時愛梨「それが、愛でしょう」
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46:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:23:39.25 ID:n4MKx+790
 ――プロデューサーさん、プロデュースしてください! ほら、レッスンしましょ!

 愛梨を担当することになって初めてレッスンに同伴するとき、そんな言葉をかけられたことを覚えている。
 スタッフに見送られて、ゆっくりと開いていくカーテンの演出に合わせて、愛梨は花道を歩んでいく。
 人生は長い旅路のようなものだと誰かが言った。だとしたら、僕たちが歩んできたのは、きっと始まりを探す旅だった。
 一番最初に、見失わないようにと突き立てた旗。トップアイドルになるという目標を、何より早く達成してしまったからこそ、見失っていたこと。
 歌いたい。大好きな人に、今まで貰ってきた愛に、同じだけのものを返したい。
 きっと愛梨が、最初に願っていたこと。そしてずっと、願い続けてきたこと。
 それが今、歌になって花開こうとしている。

 万雷の歓声が地鳴りを引き起こさんばかりに轟いて、アップルパイのお姫様を、その最後の凱旋を迎え入れる。
 セットリストに抜かりはない。寝る間も惜しんで練り上げて、時には意見を衝突させながら演出家と持論をぶつけ合って研磨した、最高のものだと断言できる。
 ああ。
 今、裏方にいることがこんなにももどかしい。
 なぜなら、今愛梨が立っているのは、最高の舞台だから。歴史にきらめく名前を刻む舞台だから。それを正面から見届けられないなんて、まるで拷問だ。

 それでも、聞こえてくる歌声が、歌い、踊る愛梨の姿を脳裏へと鮮明に描いていく。
 さっきまでは一秒が永遠に感じられるぐらいに時間の進みが遅かったのに、一曲一曲が終わる度に、少し裏方に戻って衣装の早着替えをするのが一瞬に見えるほどに、時計の針は荒れ狂っている。
 どこまでも圧縮された一秒。そこに詰め込まれているのは、愛梨が描いた全ての軌跡だった。そして、今、描き出そうとしているのは。


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